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祟り神

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最初はなんだったか。

そう、僕は人の子だったはず。

僕は村を愛していた。

村はある日、焼かれた。

調子に乗っていた山賊どもの仕業だった。

『なにもできなかった…』

嗄れた声。

僕は今では醜い獣。

そう、今の僕は『祟り神』…すべてを呪うもの。

村を焼いて『僕』を殺した山賊どもを食い殺した。

後悔はない、祟り神として封じられた今でもね。

『けれど、一人は寂しいよ』

祟り神なんか、もうこの令和の時代誰も奉ることはない。

ご利益のある神ならばともかく、そんな神どもに眉を顰められる獣でしかないんだから。

神、なんてただの建前だしね。

他に呼びようがなかっただけ。

けれど、それでも。

『だれか、また来てくれないかな』

一人もいい加減飽きてしまった。

だれか、だれでもいいから。

誰かに見てほしい。

必要としてほしい。

求められたい。

『この祠が朽ちて、僕が祟り神のまま解き放たれる前に…だれか…』

僕に、祟り神として以外の形を与えて。

別の形の僕を求めて。

僕に新たな形をちょうだい?

『…だれでもいいから、だれか』

そんな泣き言すら、だれにも届かない。

…はずだった。

「…あの!」

『!?』

「誰かいますか?」

あどけない娘。

この令和の時代に、明らかに栄養失調気味の体格。

けれど瞳は穢れていなくて、むしろ純粋無垢なものだった。

「…おかしいな、泣きそうな声が聞こえたのに」

まだ、今で言う小学生くらいの子。

体には痣だらけ。

「…あれ?こんなところに祠がある」

彼女は僕の祠を見つけた。

「大変!このままじゃ壊れちゃうよ!」

自分の身体の方がよほどボロボロだけど、彼女はそんなの気にしてない様子で祠を心配してくれた。

「神さま、ちょっとだけ待っててね」

彼女はランドセルをひっくり返して、接着剤だのなんだのを取り出して、僕のボロボロの祠に応急処置をした。

その出来は不恰好で、とても威厳などない。

けれど、僕はそれでも嬉しかった。

彼女の気遣いが嬉しかった。

「神さま、あのね、お賽銭はないんだけど、これあげる!」

祠に備えられたのは小さなおにぎり。

彼女の腹はぐぅと鳴った。

「あ…えへへ。気にしないでね!神さまが食べてくれたら嬉しいな!」

ぱっと花が咲くような笑顔。

痩せこけた頬は見られたものではないが、笑うと可愛い。

『…』

もし、彼女が僕に心をくれるのなら。

僕は、彼女のためにすべてを捧げよう。

けれど、それを強制はできないから。

どうかどうか、僕に気付いて。

僕の本心に、気付いて…ただ一言、願いを込めて。
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