君が僕に心をくれるなら僕は君に全てをあげよう

下菊みこと

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少女

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少女はその後、毎日のように祠に来た。

この祠は山の奥深くにあって、そもそも毎日小学生の女の子が来るような場所じゃないのだが。

「えへへ、今日もおにぎり持ってきたよ」

『…』

「今日もお母さんとお義父さんは帰ってこなかったな…夜には帰ってくるかな…」

『…』

「いじめっ子には殴られるし…痛かったなぁ」

ただ一言、言って。

祟りを望むのでもいい。

助けを求めるのでもいい。

君が僕に心をくれるなら。

僕が君を…。

「でもね、神さまがいるから私は大丈夫!」

『…』

「なんだか、神さまの祠を知ってからね、元気が出たの!身体の調子もいいんだ!」

小さなおにぎり。

過不足なく、その程度の加護。

加護、というか…自分の力を反転させただけだけれど。

「ふふ、だから今日も元気だよ!ただ、お母さんが置いていった冷凍食品はもうとっくになくなっちゃって…残ったお米と調味料だけで凌いでるんだけど…」

『…』

それは…凌げてないだろう…。

「もう醤油かけご飯もマヨネーズかけご飯も飽きちゃったよ」

この時代には警察だとかなんだとかがいるはずだろう。

一体彼らは何をやっているのか。

職務怠慢じゃないか。

「あーあ、ねえ神さま。どうしたらいいと思う?」

一言、僕を求めてくれればいいよ。

そしたらいくらでも…。

「…そろそろお母さんが帰ってくるかも!またくるね!」

『…』

だれも帰ってこないよ。

だって君は捨てられたんだから。

いずれはバレることなのに逃避行ごっこする鬼畜ども。

あんな奴らを健気に待って…本当に、酷い話。

君さえ求めてくれたなら…。











それからも毎日来るあの子。

日に日にボロボロに弱っていく。

僕の加護紛いのおまじないでは、あの子を守りきれない。

けれどあの子は、今日もきた。

お願い、一言願いを言って。

「…神さま」

倒れこむあの子。

「ごめん、ね、おにぎり…なくて…」

もういい。

もういいよ。

だから、だから。

一言、言って。

「神さま、あのね…」

『…』

「神さまのこと…大好きだよ…」

『…!!!』

「神さま…私のこと…守ってくれてたよね…」

どうして?

どうして、どうして、どうして!!!

どうして僕はこの子になにもしてやれない!!!

どうして!!!!!

「だからね、神さま…お願い…」

『!!!』

「神さまは…神さまだけは、幸せになって…私の分まで…」

その一言、承った。

けれど、私の分までって部分は聞かなかったことにしようね。

だって僕の幸福は…君だ。

僕のすべてを、君に捧げよう。

それこそが、僕の幸せだからね。
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