日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと

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前編

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「愛しています!」

「うん、ありがとー」

周りの生徒は「よく飽きないな」「よく諦めないな」と囁き合う。

「リュカ様は、見目麗しく文武両道で、まさに理想の王子様です!」

「うん、嬉しいよー」

「私は、リュカ様が大好きです!」

「ありがとー。嬉しいよー。マリアは本当に変わってるねぇ。今ちょっと筆がのってるところだから静かに」

「はい」

マリアはリュカに言われて黙る。リュカはマリアによく出来ましたと微笑むと、再び油絵に集中する。そのリュカの曖昧な態度とそれでも諦めないマリアの姿勢に、周りの生徒はマリアに同情していた。

「リュカ様、あんな曖昧な態度取らないで付き合うか振ってあげたらいいのに」

「マリア様も、他の男じゃだめなのか?」

「リュカ様は罪な方よね」

マリアとリュカの関係は、毎日告白を欠かさない伯爵令嬢と毎日それを待っている侯爵令息という歪なものだった。

だから、周りの生徒は見事に騙されている。

本当は、二人の関係はまったく真逆のものだった。













「は?マリアからの告白を人前でずっと断り続けて欲しい?」

「はい!リュカ様にしか頼めないんです!」

「え…頭大丈夫?なんでそんな面倒なこと言うの」

二年前。貴族の子女の義務とされる学園に通うことになったリュカは、マリアと出会い一目惚れした。そんなマリアに二人きりで話したいとお願いされ、喜び勇んで応じたらこれである。

「その…」

「なに?言ってごらん」

「私…学園を卒業したら、とある貴族のお爺さんの後妻にされちゃうんです。リュカ様くらいすごい人と婚約したら許してくれるって…お父様が」

「…なら、僕は婚約してもいいよ?」

「お慕いしてる人がいるんです!」

ふざけてるのか、と口から出そうになってぐっと堪える。マリアはリュカの気持ちを知らないのだから、キレたって仕方がない。悪気はないのだ。

「そいつと一緒にどこかに逃げるの?」

「逃げるというか…その人のことは、そもそも私の片想いなんです。だから、ギリギリまで粘ってそれでダメなら諦めます。オーケーを貰えたらそれこそ駆け落ちするかもしれないですけど」

「ふーん…協力してあげようか」

「え、本当に!?」

「もちろん。助けてあげる」

という口実で、なんとしてでも手に入れるつもりだったりするが。

「その代わり…相手の男と結ばれるとは限らないのだから、もしダメでも恨まないでね」

「ありがとうございます!恨んだりしません!」

それからずっと、マリアはリュカに嘘の公開告白をしている。じゃないといつ学園の卒業を待たずに両親から結婚を迫られるかわからないから。

「いつもありがとうございます、リュカ様!」

「君のためならお安い御用さ」

「ふふ、リュカ様ったら」

リュカはこの二年間、マリアに協力しておきながら彼女の知らないところでは色々と根回しをしていた。マリアの両親に対して、卒業したらマリアの想いを受け入れるつもりだと話し色ボケジジイとの縁談を潰した。そしてマリアと自分の縁談を密かに進めている。

「マリアの想いを叶えていただきありがとうございます!」

「こちらこそ、今は返事が出来ずに申し訳ありません。学園の生徒であるうちは学業に専念するようにと両親から命じられていて。でも、娘さんは必ず幸せにします」

「お願い致します!」

さらに、マリアが惚れた平民の庭師とやらに対して報酬を支払ってわざと気がある素振りをして貰っていた。

「マリア、その後彼とはうまくいってる?」

「気があるそぶりは見せてくれるんですけど…それ以上はなにも進展してなくて」

「まあ、学園の卒業まであと少しだけど諦めずに頑張ってみたら?」

「リュカ様…!本当にありがとうございます!」

そして時は流れて、今卒業式が終わった。

「マリア。最後に、彼に告白したんだろう?夢は叶った?」

「…結局、彼には私の気持ちは迷惑と言われてしまいました」

「そう。可哀想に…ねえ、マリア」

「なんでしょう…?」

「僕なら、マリアを愛してあげられるよ」

マリアの目がまん丸になる。

「な、リュカ様!?」

「色ボケジジイの後妻にされちゃうよりマシでしょ?」

「そ、それは」

「僕はマリアが好きだよ」

「はい!?」

リュカはマリアを逃がさないために、マリアに壁ドンして捕まえる。

「ねえ。今まで散々僕の気持ちを利用してきたんだし、責任を取ってくれてもいいんじゃないの?」

「え、あ」

「マリア」

リュカはマリアを見つめる。マリアはそれだけでクラクラした。

「僕が全部、塗り替えてあげるから。僕を選んで」

マリアはまるで頭から痺れるような、クラクラする心地になる。まるでリュカの言葉が頭の中に染み入るような、そんな感覚。

「で、でも、私は好きな人が…」

「大丈夫。僕が忘れさせてあげるから。君は今日から、僕だけを見つめるんだ」

至近距離から真っ直ぐに見つめられて、美形の男性から迫られている。マリアは、冷静ではいられない。リュカはそれを理解している。その上で、マリアから言質を取ろうとする。

「マリア。君は酷い子だね」

「え…?」

「好きな人がいるからって、僕の気持ちを弄んで」

「それは、だって知らなくて…」

「だとしても、酷い。そう思うだろう?」

マリアは今までリュカに酷いお願いをしてしまっていたと知り、リュカに強く言えない。

「マリア、君のことは僕が愛してあげるから。僕を選んで」

「あ、う…」

「それとも、ここまで利用しておいて僕を捨てるの?」

「ご、ごめんなさ…」

「僕より色ボケジジイの後妻になりたい?」

マリアはついに、白旗をあげた。

「…そ、それは、本当はいやです。でも」

「でもじゃないよ。ね?どうすればいいかはわかるだろう?」

「リュカ様…」

「マリア、僕と婚約してくれるよね?」

「はい…」

リュカは、マリアを見事に手に入れた。
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