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出会い〜ツガイ編
11話
しおりを挟む(………遅いなぁ。やっぱりお料理、手伝った方がいいのかな)
食事の支度を終えたら呼んでくれる
ジレウスは確かにそう言ったはずなのだけど。
ーあれからもう既に2時間ほど経過している。
(余程凝った物を作ってくれているのかな…それとも)
それとも、忘れられているのだろうかーー。
後ろ向きな考えがまたもや頭を擡げ慌てて打ち消す。
しかしこれまで、少なくとも前世だろう自分の人生に於いて、
僕自身の存在を優先されたことなど一度たりともないのだ。
ならば今日出会ったばかりの彼が自分の存在を既に忘れていても何の不思議も……
(っやめやめ!!下にいって声をかければいいだけじゃないか!)
それでもしまだかかるようなら、その時は手伝いを申し出ればいい。
これも長年染み付いた卑屈さの為せる技か、と15歳少年にしては些か自虐に過ぎる感想を自身に突っ込みつつ、短い手足を動かし、てててと階段を降る。
途中勢いがつきすぎてつんのめったのはジレウスにも内緒な秘密だ。
かちゃかちゃと食器を並べる音が聞こえる。
ということは丁度料理を並べているところだろうか?
(料理をテーブルまで運ぶくらいなら…!)
まだ自分にも手伝える余地が残されているかもしれない!と階段脇から恐る恐るダイニングを覗き込むと。
思った通り、丁度皿を並べているようだった。
「ジレウス……て、手伝う……?」
緊張から、やはり言葉が上手く出ない。
小さ過ぎる僕の声にそれでも気付いたのか
「コーキ?あ、悪ィな遅くなって、ちょっと失敗しちまってさ!
声かけるって言ったのにな、もう後運ぶだけだ…、……っ!?」
「……ジレ、ウス?」
悪い悪いと時間がかかりすぎたことを詫びてくれたことに、
忘れられていた訳でないことを知り、よかったと胸を撫で下ろして彼のそばに近付きかけた僕は、しかし話の途中で言葉に詰まったジレウスを、どうかしたの?と見上げる。
「お、おまえっ、そそそその格好は……」
「え」
わなわなしながらの彼の言葉に何かおかしかったかと自身を見下ろし、あ、と合点がいく。
「ごめん、ズボン……大きすぎ。落ちてくるから履かなかった」
「そ、そうか…」
「ん……」
「………」
「………?」
「………(凝視)」
裾なら折りあげれば済むのだが
いかんせんウエストを絞るには限界があったことを暗に告げると、
納得する頷きを返してくれたのち、無言になってしまった。
しかもどことなく熱心にシャツ一枚の姿をじぃ……と見られて、
羞恥から顔に血の気が上がる。
「………」
「……………ジレウス?」
「っは!?
あ、ああ悪いそうだなサイズ的に無理だよなうん気にするな!!
………、
………飯にするか」
「ん!」
急に正気付いたように一瞬びくりと肩を跳ねさせたジレウスだったが、
ようやく元の会話へ回帰してくれたことにほっとして頷く。
妙に慌てて動く感じに違和感を感じたものの、
(きっとジレウスもお腹空いててぼーっとしちゃったんだね!
声かける前に僕が来ちゃったから慌ててそれで、うん)
きっと彼が慌てたのも自分に急かされた気分になったせいに違いない!と納得して、僕は料理を運ぶのを手伝いに彼へと駆け寄ったのだった。
なお、彼に熱心な眼差しで見つめられて、
嫌悪でなく羞恥を覚えたその理由を
僕はその時まだ考えることすらしなかった。
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