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出会い〜ツガイ編

8話  ジレウス視点

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(Side:ジレウス)



散歩から街中へと戻り、程なくして職場である冒険者ギルドへ到着。
出来るだけさっさと登録だけ済ませ帰宅しようと足早にギルド長用執務室へと入室してデスク内の書類を漁っていた俺(なお、コーキはソファに寝かせ済み)だが、やはりそこはそれ、都合よく行くはずもなく。
すぐに散歩の際巻いた己の部下、白兎族のミルドが部屋へと怒鳴り込んできた。

「ジレウス様ぁぁぁッッ!!?
貴方って人はどぉして逃亡癖が治らないんすか!?」

「あーーうっせ。
ちょい黙れミルド。
耳が潰れる、騒音レベルだぞお前の声」

「ななな!!?
やっと自分から帰って来たかと思えば反省の色無しっすか?!
貴方仮にもギルマスでしょーよ!!」

「ギルマスじゃない、ギルマスだ。
そこ間違えんな」

このミルドなる男、実務面に於いては実に優秀なのだが、
いかんせんお調子者且つ小うるさい。
自分が度々仕事を抜け出すのも、
この男の小姑じみた煩さに辟易してのことが大半なのだ。
今日も今日とて来て早々煩く喚くうさ耳野郎を、
相手にしてられんと放置して探し出したギルド登録用紙にサラサラと必要事項を殴り書きしていると。
ようやくソファに横たわるコーキに気付いたのか
おや?と声を上げて彼に近付く。

あとは本人の承諾サインを記入するのみと書類を完成させた俺は、
うさ耳野郎が近付きコーキに触れようとしていることに気付き、
のしのしと距離を縮めて伸ばされたその手をペイッ!!とはたき落とす。

「っ痛いっ!!」

「触んな汚れる」

「酷い!?
……何なんすかこの子供?
は!まさかどこぞから拐って」

「きてない!
…ちょっと散歩先で見つけて保護しただけだ」

「保護ぉ?スラムの子供にも無関心を貫く貴方がぁ??」

不信感たっぷりに語尾を伸ばして俺を胡乱げに見やったミルドは、
しかし程なくしてコーキの優れた容姿に気付くとデレッとだらしなく顔を緩ませる。

「え、てかこの子めっちゃ可愛くないっすか」

「ああ」

「髪もさらっさらで綺麗な蒼色だし、顔だって凄く整ってる。
お人形さんみたい」

「ああ」

「持って帰っていいっすか」

「あ……あ?言いわけねぇだろふざけんな!
……俺が連れて帰るんだよ」

「ええっ!!?
ジレウス様まさかこんな小さな子供に良からぬ欲を!?
……見た目からして犯罪ですよ?」

「余計なお世話だ馬鹿野郎!!」


自分の顔、鏡で見たことあります?と
失礼極まりないことを言ってのける巫山戯た部下に
コンプレックスを刺激されて怒鳴りつけていると。

んん…と機嫌良さげにソファへと頬を擦り付けて身動ぎするコーキ。
起こしてしまったかと慌てて覗き込むと、
パチリとコーキが目を覚ました。

そして大の大人2人に覗き込まれて驚いたのか、
びくりと肩を跳ねさせた。

「あ、ほらやっぱり!
ジレウス様がそんな怖い顔で覗き込んだりするから怯えてるじゃないっすか!!」

「ぁあ?んな訳……ねぇよな?
いやだってここに来るまでそんな素振り一切」

「……やっぱり何処かから拐ってきたんじゃないっすよねぇ…?
っ犯罪!犯罪ですよ!?」

「ふざけんなテメェッ!!」

目を覚ましたコーキの前で犯罪者呼ばわりされて、
正直この場で殴り殺してやろうかと物騒な考えを抱いた。
しかし

「え、あれ?」

「うおっ、どうした?」

「………」


ぴょんとソファから飛び降りて、てててと可愛らしく走り寄って来たかと思えば。
俺の足にひしっとひっついたことで、抱いていた殺意を霧散させた。
それよりその何かを怖がる仕草が心配になり見つめていると、
俺の視線に気付いたコーキが、ふにゃりと微笑った!
思わず赤面しそうになった俺を他所に、隣のうさ耳野郎はというと。


「っ強面で女子供に年中泣いて逃げられる
あの!ジレウス様相手に笑ってる、だと……!?
あ、有り得ないッッ!!」

「お前いい加減本気でしばき倒すぞ」

何と、しかもこんな可愛い子が!?と慄き震えて見せた不遜すぎる部下に、
眉間にビシリと青筋が浮き出るのを感じた。

(どうしてこいつはこうも失礼極まりないんだ!?)

こいつをギルマス補佐に付けた前任者(正確には旅に出て所在不明のギルマス)へ呪いの念を送っていると、コーキが俺のズボンをひっぱり、

「…なんだコーキ」

「…あの、ね」

一度ジレウスを見、うさ耳野郎を見、再びのジレウス。
そうしてツイッとうさ耳野郎を指差して一言。

「大きな声、うるさい。
動きも、変………うさ耳さん、怖い、ひと?」

「っグハァッッ!!?」

大変子供らしい素直さを発揮した強烈な一言に、
うさ耳野郎が吐血してその場に撃沈した。

「…コーキ、お前」


自分を見上げてにこっと微笑んだ可愛い少年を、
この時はっきりと一生大事にしようと俺は心に誓った。


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※撃沈するうさ耳、慕う小悪魔少年、そして脂下がる獅子獣人!
なお、見事うさ耳野郎を撃沈させたコーキ少年は、
未だうさ耳野郎の名を知りません(笑)
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