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出会い〜ツガイ編

9話

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あのあとーー、
地面から復活を果たしたうさ耳さんから

「怖くないよ~?か弱可愛い白兎族で、
そこの怖ぁい獅子族おじさんの優秀な部下だよぉ~!!?」
必死な?説得を受け、且つ別れ際にようやくミルドという名であることを教えてもらった僕は現在、サインを済ませた登録用紙を受付員に押し付け処理を頼んだジレウスと一緒に一路、彼の家へと向かっていた。
(なお、うさ耳さんは“怖い”と“おじさん”は余計な世話だ!と
あの後ジレウスにボッコボコにされ、再び床に撃沈した)


ギルドからさして時間もかからずたどり着いたのは、小さいながらも二階建ての家。
僕を片手で抱えたまま鍵でドアを開けると、
勝手知ったる我が家とズンズン足を進めていく。
壁、柱、テーブル、椅子、ドア等ほとんど全てが木で誂えられたその空間は酷く落ち着くものであり、初めて他人の家を訪れる僕は知らず入っていた肩の力をほっと抜いた。
ここが食事するところ、あそこが風呂と手洗い場、と順を追って説明をしながら二階へ。
どうやら二階に寝室があるらしい。

寝室の扉を開け、もう一つ余分にある部屋を
いずれ僕の為に片付けて開けてくれると言ってくれたジレウスはそこで、

「…っとしまった!コーキの服を買わなきゃあな」

「え。服…?」

「ああ、いるだろ?」

俺のじゃあどう考えてもでかいしなぁ、すっかり忘れてたと頭を掻いた。
下を見やると尻尾がへニョンと地面に向けて垂れてしまったのが何だか可愛い。

「…いい」

「あ?何がだ」

「服……ジレウスの、貸して?」

「いやでもお前…ダボダボ過ぎてあれじゃあ外出がだな」

「じゃあ今日だけ……駄目?」

初めての世界、初めての土地、初めての家。
今日の僕は初めて尽くしだ。

そんな中知り合った
穏やかで温かいを放つ彼の、
陽だまりのような温かさと落ち着く匂いがする衣服を着れば、
今夜はぐっすりと眠りにつけるに違いない。

(人の匂いで安心するとか…ちょっと変態っぽいかな…)

少しばかり羞恥を覚えつつ駄目かな、とコテッと小首を傾げて見上げると。
空いていた片手で目元を覆い、何やら呻き声をあげているジレウスを目撃。

「おま…そんな顔でおねだりって。
しかも強請るのが俺の服とか……ずりぃだろ…」

「?ジレウ…」

「はぁ…いや悪い、何でもない。
分かった。取り敢えず今晩は俺の服を寝巻き代わりにしろ。
多分シャツ一枚だけでも事足りるだろうが…いや駄目だ!
……ちゃんとズボンも用意する、デカいだろうがな」

「!っん!!」

ちゃんと自分で裾を折るなりして調整しろよと告げる彼に、
彼の衣服を貸し出してもらえると知り、嬉しくて勢い込んで返事をする。

食事の支度をしてくる、
出来たら呼ぶからこれでも着とけと腕から下ろされてかなり大きなシャツとズボンを手渡され、嬉しさのあまりにその場で飛び跳ねる。
そんな僕は、彼が僕を残して部屋から出る間際に

「はぁぁ…自分の容姿の齎らす破壊力に無自覚とは。
先が思いやられる…自制心だ自制心!相手はまだ子供!!
大人だろジレウス・ヴォーグ…!」

必死で何やら耐え忍ぶ修験僧が如き呟きを
ぶつぶつと口に出していたことに、全く気付いてはいなかった。



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