皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇

ならる

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第3章 転覆

即位

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 戦いの熱がまだ肌に残っている。鏑木一派との戦闘は終わったが、その爪痕は玉座の間にも残っていた。柱の一部には焦げ跡があり、床には瓦礫が散らばり、崩れた壁から外の星空が覗いている。けれど、八雲が即位すると決まった以上、俺たちはこの場所をできる限り整える必要があった。

 官憲が鏑木一派を連行していった後、大勢の兵士や官僚、そして八雲の部下たちが手分けして玉座の間を片付け始め、再び旗を掲げるために柱を即興で補強した。シャンデリアは運よく落ちておらず、そこにたまった埃を拭き取り、割れたガラス片を慎重に取り除いた。花を飾る余裕なんてないが、それでも旗が揺れるのを見ていると、ここが再び国の中心として息を吹き返す気がした。
 ようやく即位式の準備が整ったころ、玉座の間に集まったのは、高官たちと貴族、戦闘で命を懸けた兵士たち、そして一般大衆とマスコミだった。剛成と俺は壁際に立ち、彼らの顔を観察していた。どの顔も疲れているが、どこか誇らしげだ。

 八雲が玉座の間の中央に立った瞬間、その場にいた誰もが息をのんだ。彼の背後に揺れる旗、そして傷ついた玉座の間に漂う重々しい空気が、彼をただの人間ではなく「皇帝」として際立たせた。普段の飄々とした態度は影を潜め、その姿にはどこか神々しさすら感じられる。玉座を見つめる彼の横顔に、俺は無言のうちに声援を送った。
 八雲は深呼吸し、毅然とした声で言った。

「朕、子爵燈影家次男にして、前皇帝暁照の第11子燈影八雲は、倭国第27代皇帝としてこれより即位する!」

 彼の言葉が玉座の間を満たすと、一瞬の沈黙の後、誰かが小さく拍手を始め、それが次第に波紋のように広がっていった。拍手はやがて歓声へと変わり、玉座の間を揺るがした。

 「八雲陛下、万歳!」

 「新しい時代が来たぞ!」

 俺はその光景を見て、ようやく肩の力が抜けるのを感じた。俺たちが戦った意味が、ようやく形になった瞬間だった。
 八雲は群衆に向けて手を挙げた。その動き一つで騒がしかった玉座の間が静まり返る。みんなが彼の次の言葉を待っていた。

 「朕はこの国を新たな時代へと導くことを誓う。戦いで傷ついた人々を癒し、すべての民が平等に生きることができる国を作る。共に未来を築こう!」

 八雲の声に再び歓声が上がり、疲れ切っていた俺の胸にも不思議な熱が湧き上がってくる。剛成が隣でふんぞり返りながら、「よくやるじゃねえか」と呟くのが聞こえたが、俺はただ八雲の姿を見つめ続けた。

「お互い大変だったよな、ここまで来るのに。」

 剛成が俺にそう言いながら、腕を頭の上に乗せた。

「まさかこんな形で倭国に協力するとは思わなかったが、とりあえず俺の役目はこれで終わりだな。後は東蘭の代表、琉霞と八雲が話して、東蘭独立交渉を詰めていけばいい。時間はかかるが、八雲は話の分かる奴だ。双方が歩み寄れる条件さえ揃えば、いつか必ず達成できるさ。」

 彼はどこか晴れやかな表情を見せた。もちろん、八雲がこれから何を言い出すかなんて微塵も知らずに。

「現在、我が国は多民族、多文化が入り交ざる国となっている。一つは豊かな経済による、人々の交流のためだ。そしてもう一つは――」

 人々は八雲の話に対し、一字一句耳を傾けた。

「我が国の植民地である東蘭による貢献のためである。彼らは本国である倭国に対し、官民双方にて、優秀な人材を送っている。また、その富が我が国の発展に一段と寄与したのは間違いないであろう。しかし――」

 八雲のまなざしは固く、そして皇帝たる堂々とした決意がにじみ出ていた。別の言い方をすれば、この決断に対し、誰に対しても文句を言わせないような威厳があった。

「現代において、国家が国家を侵略し、収奪することは許されない罪だ。未来は、自由な人々が独自に作る必要がある。そしてそうなれば当然、東蘭の人々も自らその未来を切り開く権利があり、義務がある。」

 八雲は一呼吸置くと、切り出した。

「そこで朕は、東蘭を倭国から解放し、その独立を認めるものとする。現在、初代大統領となる、剛成・巌斗氏をお招きしている。ここにおいて、朕の戴冠式を行うと同時に、剛成大統領に対し、東蘭統治継承式を行うものである。」

 人々にどよめきが起きた。しかしそれ以上に、剛成の額にはじっとりと汗がにじみ、手のひらを何度も拳に握り直している。剛成はしばらく八雲を見つめたままだった。
 八雲は天羽に指示を出すと、倭国国旗の隣に、東蘭の国旗が同じ高さで掲げられた。

「東蘭が・・・独立したというのか?」

 剛成は小さくつぶやくと表情を作り直し、八雲に促されるままに、玉座の隣に歩み出た。そして、あたかも二者の立場は平等であるかのように立ち上がった。
 集まった倭国の人々は確かに驚いてはいたが、結果的にそれほど大きな反発はなかった。近年の倭国は、鏑木一派の混乱や財政問題で疲弊していて、国民に負担が重くのしかかっていた。誰もが「新しい時代」を求めていることは明らかだ。八雲はその空気を敏感に読み取り、東蘭独立を「未来の象徴」として提示したというわけだ。

 剛成は急な東蘭独立宣言と、思ってもみなかった大統領職に困惑していた――もちろんそんなものは一切東蘭本国には確認をとっていなかったのだろうが、ここで宣言することで八雲は既成事実を作ろうとしているのだろう。それはまるで、危険を顧みずに倭国に潜入していた東蘭陸軍将校剛成が倭国新皇帝と交渉し、東蘭独立と引き換えに、新皇帝即位のために鏑木一派転覆をはかるクーデターへの力を貸し、その結果勝利した新皇帝が戴冠したかのように見えるはずだ。つくづく、八雲の頭脳には感心する。
 玉座に腰を下ろした八雲の顔、そして突然の状況に困惑しながらもどこか安堵もにじませる剛成には笑みが浮かんでいた。それは新しい皇帝、そして新しい大統領が国を背負う覚悟を示すと同時に、俺たちの戦いが無駄じゃなかったことを教えてくれるものだった。
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