皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇

ならる

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第1章 始まり

救出

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 俺は雷の力を全開にして彼女のもとへ駆け寄った。電撃が敵をなぎ払い、少女の周囲を一掃する。しかし、救い出した少女は俺に敵意を向けた。

「助けなんていらない!」

 彼女はそう言い放ち、再び敵に向かおうとする。だが、俺はその肩を掴み、静かに言った。

「俺は敵じゃない。それに、お前のその状態で勝てる相手じゃない。」

 その瞬間、飛行船の上に新たな影が現れた。倭国軍の制服をまとった精鋭部隊だ。その中で、一際目立つ将校が前に出た。

「そいつを渡せ。そしてお前はこれまで通り敵を排除しろ。」

 その言葉に俺は全てを悟った。この任務の本当の目的は救援物資ではなく、こいつを守ること——いや、倭国軍が捕えたこの少女を、敵から護送することだったんだ。
 俺は少女を抱きかかえ、その場から飛び出す。銃声が追いすがり、通路の金属が弾け飛ぶ。甲板へたどり着いた俺たちは、そこで一瞬立ち止まる。
 倭国軍の兵士たちがこちらを取り囲んでいる。数は――ざっと20人以上。逃げ道はない。

「なんだよこれ……。」

 舌打ちしながら剣を引き抜く。

「小僧……さっさとそいつを渡せ。」

 余裕たっぷりの笑みを浮かべたリーダー格の男が、ゆっくりとこちらを見下ろす。その目には、薄汚い計算高さと自信が滲んでいた。
 さっきまで俺は金にならない案件はやる気はなかったが、こいつにこの娘を渡してはならないと俺の感覚が言っていた。

「お前、異能者連盟所属だろう? そいつを助けても一文の得にはならんぞ。さっきから敵を手際よく倒しているようだな。ガキの割にはなかなか有能で筋のあるやつだ。」

 男はニヤリと笑った。

「殺すのは惜しい――俺たちの下につけ。その方が、お前にとっても利口な選択だ。異能者連盟よりも報酬は弾むぞ。」

 基本的な行動原理が金の俺としては、奴の言葉は理にかなっている。頭では分かる。だが、心の奥底から湧き上がるのは、まったく違う感情だった。

 気がつくと、口が勝手に動いていた。

「俺の生き方は俺が決める。他人に指図される筋合いはない。」

 剣を構え、少女を背に庇う。

「残念だな。未来ある若者を殺すのは、俺だって気が引ける。」

 男は口元に薄い笑みを浮かべながら銃を構えた。それに合わせて、部下たちも武器を構え、一斉に間合いを詰めてくる。
 状況は圧倒的だった。俺の雷の力を駆使すれば、俺一人なら全員相手にできない数ではないが――しかしこいつを守りながらでは無理だ。捕らえたこの少女を護送するのがこいつらの目的。なら殺すことはないだろうから、こいつらに少女を引き渡すか?
 その瞬間、脳裏に映像が流れ込んできた。俺の雷の異能、魂とつながる能力は、時に人の記憶も見えることがある。
 これは少女の記憶だ。笑いながら銃床を少女に叩きつけ、時には焼けた鉄を押し付ける男。目の前にいるこいつだ。しかもこれは情報を引き出すための拷問じゃない。単に奴の快楽のためだ。

 だめだ。こいつらに彼女は渡せない。
 であれば――

 俺はただ剣を握り直し、全員を相手に立ちはだかる。
 その瞬間だった。視界が眩い光に包まれる。

「下がれ!」

 力強い声が響く。振り返ると、月光を背に銀髪の剣士――いや、剣豪と呼ぶにふさわしい女が立っていた。冷たい月光を浴びながら、彼女の剣の一振りがまるで空気を切り裂くように感じられ、その動きは美しさすら宿している。彼女が剣を振るうたび、複数の敵が吹き飛ばされ、次々と床に沈んでいく。
 さらにその背後には、同じ倭国の陸軍将校らしき男が控えていた。褐色の肌を持つ彼は精悍な顔立ちで、制服を翻しながら正確無比な銃撃で彼女を援護している。

「お前ら……噂の奴らか! なんでこんなところに!!」

 敵のリーダー格の男が驚愕の声を上げる。余裕の笑みは消え失せ、その顔には焦燥の色が濃く滲んでいた。
 彼らの助けを借りるべきか――一瞬そんな考えが頭をよぎる。だが、悠長に構えていられる状況ではない。
 俺は剣を構え直し、全身に雷の力を解き放つ。体中を駆け巡る雷のエネルギーが剣先へ集まり、青白い光を帯びる。

「……ついてこい!」

 少女に短く告げると、雷を帯びた剣を振りかざして敵陣へ飛び込んだ。

 圧倒的な数の敵――恐怖がないわけではなかった。だがそれ以上に湧き上がる衝動が俺を突き動かす。
 敵のリーダーに届くには至らなかったが、周囲の雑兵を蹴散らすには十分だった。
 その時、飛行船が大きく揺れ、甲板に立っていた俺たちは踏ん張るのがやっとだった。エンジンから黒煙が上がり、船体が不安定に傾き始める。

「このままじゃ墜ちるぞ!」

 兵士たちが叫び、乗客はパニックに陥った。視界に映った地形が、スラム街の雑然とした光景に近づいていくのがわかった。おそらくだが、この銀髪の剣士と褐色肌の将校が何かエンジンに工作したのだろう。

「今だ……!」

 少女の手を引き、甲板の端まで駆け抜ける。振り返れば、まだ追っ手が迫ってくる中で、選択肢は一つしかなかった。

「……飛び降りるしかない。」
「はあ!??」

 空を切るような声が背後から響く。銀髪の剣士の後ろから援護射撃をしてくれていた倭国軍の将校らしき男の驚愕の叫びだ。
 振り返る余裕はない。俺は少女をしっかりと抱きかかえ、そのまま甲板から飛び降りた。
 飛行船はこのエンジントラブルで高度を下げていた。それが唯一の救いだ。そして俺には、雷の力がある。地面に叩きつけられる瞬間、全ての力を解き放てば、衝撃をある程度相殺できるはずだ――そう信じていた。

「俺が死んでも、こいつだけは助ける……!」

 風が耳を切り裂くように唸り声を上げる。少女が小さく叫び声を上げたが、俺はただ目を閉じ、覚悟を決める。
 自分でも馬鹿げたことをしているとは思う。見ず知らずの少女のために命を投げ出すなんて――だが、俺はもう決めたんだ。
 あの日とは違う。
 誰も助けられなかった、あの後悔に苛まれる日々はもう二度と繰り返さない。
 今度は――守る。
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