47 / 60
第二章 Gambling with the Devil
2-3-1 ゼンマイ仕掛けのオーケストリオン
しおりを挟む
扉が開くのに任せて振り返ったレインが目にしたのは、ラフな格好のルーシーだった。
「早いな」
「早く来いって言われたんだよ」
「そうか」
ルーシーは適当に空いた場所へ向かい、体を解し始める。
「音、出さなくていいのか?」
「鴇田さんはこの機材はお気に召さないみたいだし、別に」
「本番はどうするんだ」
「用意してくれるんじゃないかな? 別に、俺はオーケストリオンのオートマタだから、道具に拘りなんて無いよ」
ルーシーは何も言わず、俯きがちに立ち尽くすレインを見遣る。すると、その背後の扉が開き、ルーシーとハリーが現れた。
「レイン!」
スタジオに入るなり、ケリーは振り返ったレインに抱き着いた。
思わず悲鳴を上げるレインに構わず、ケリーはレインの体を抱き寄せる。
「来てくれてよかった」
「契約書にサインしたからです」
レインはケリーの肩を掴んで緩やかに突き放しながら息を吐く。
「でも」
「今の俺はゾンビと同じ、くっつかないで下さい」
二人の様子を見て笑っていたハリーから、笑顔が消えた。
「……始めようか」
立ち上がったルーシーの呟きにハリーは自分の持ち場へと向かう。
「ちょっと音出してみようか」
ハリーに促され、レインはギターを掛けて適当なコードを鳴らす。
「え? 音それでいい?」
「機材は鴇田さんが手配してくれるそうなんで、今日はこれで勘弁して下さい」
「お、おう……」
レインのギターはハリーが思った以上に簡素な音作りで、何を弾いてもそれなりの形にはなるが、バンドの音作りにはまるでかみ合っていないものだった。
「ま、今日は肩慣らしだし、いっか」
ハリーはルーシーとケリーを見た。
「そうだね、どういう音にして欲しいかは、ちゃんと伝えてなかったし……それにしても、なんか変な感じだね」
ケリーは少し照れた様に笑った。
「十三年ぶりくらいだっけ?」
ハリーはレインを見るが、レインは俯いていた。
「なんだろ、久しぶりなのに、懐かしい感じがしない、なんか奇妙な感じだね。なんでかな、レイン、逞しくなったからかな?」
スタイリストにセットされてもなお野暮ったいウルフカットの青年は、不健康そうな青白い肌はそのままに一回り逞しい体つきになっている。
「どうする? せーのでなんかやるか?」
ルーシーは感傷に浸るケリーを呼び戻す。
「そーだね……じゃあ、当日一曲目からいっちゃう?」
ケリーはメンバーを見回し、ハリーとルーシーが頷いたのを確認する。
「それじゃあ当日一曲目! 俺達のデビューシングル、掌の上のロマンス!」
ケリーの言葉を号令にルーシーはリズムを取り、演奏が始まった。
ギターとベースの空気感は噛み合っていると言えないが、演奏そのものは正しく始まり、十三年前と変わらずレインの演奏は丁寧だった。
「……なんか、不思議な感じだね。あのツアー以来だからかな」
演奏を終えたケリーはメンバーを見回しながら言う。
「そうだな、音作りも違うし、ちょっとぎこちないかな」
ハリーは意見を求める様にルーシーを見た。
「一曲目だし、寄せ木細工がしっかり填まるにはもう少し掛かるだろうな。このまま次の曲もやってみるか?」
「そうだね。じゃ、二曲目!」
「早いな」
「早く来いって言われたんだよ」
「そうか」
ルーシーは適当に空いた場所へ向かい、体を解し始める。
「音、出さなくていいのか?」
「鴇田さんはこの機材はお気に召さないみたいだし、別に」
「本番はどうするんだ」
「用意してくれるんじゃないかな? 別に、俺はオーケストリオンのオートマタだから、道具に拘りなんて無いよ」
ルーシーは何も言わず、俯きがちに立ち尽くすレインを見遣る。すると、その背後の扉が開き、ルーシーとハリーが現れた。
「レイン!」
スタジオに入るなり、ケリーは振り返ったレインに抱き着いた。
思わず悲鳴を上げるレインに構わず、ケリーはレインの体を抱き寄せる。
「来てくれてよかった」
「契約書にサインしたからです」
レインはケリーの肩を掴んで緩やかに突き放しながら息を吐く。
「でも」
「今の俺はゾンビと同じ、くっつかないで下さい」
二人の様子を見て笑っていたハリーから、笑顔が消えた。
「……始めようか」
立ち上がったルーシーの呟きにハリーは自分の持ち場へと向かう。
「ちょっと音出してみようか」
ハリーに促され、レインはギターを掛けて適当なコードを鳴らす。
「え? 音それでいい?」
「機材は鴇田さんが手配してくれるそうなんで、今日はこれで勘弁して下さい」
「お、おう……」
レインのギターはハリーが思った以上に簡素な音作りで、何を弾いてもそれなりの形にはなるが、バンドの音作りにはまるでかみ合っていないものだった。
「ま、今日は肩慣らしだし、いっか」
ハリーはルーシーとケリーを見た。
「そうだね、どういう音にして欲しいかは、ちゃんと伝えてなかったし……それにしても、なんか変な感じだね」
ケリーは少し照れた様に笑った。
「十三年ぶりくらいだっけ?」
ハリーはレインを見るが、レインは俯いていた。
「なんだろ、久しぶりなのに、懐かしい感じがしない、なんか奇妙な感じだね。なんでかな、レイン、逞しくなったからかな?」
スタイリストにセットされてもなお野暮ったいウルフカットの青年は、不健康そうな青白い肌はそのままに一回り逞しい体つきになっている。
「どうする? せーのでなんかやるか?」
ルーシーは感傷に浸るケリーを呼び戻す。
「そーだね……じゃあ、当日一曲目からいっちゃう?」
ケリーはメンバーを見回し、ハリーとルーシーが頷いたのを確認する。
「それじゃあ当日一曲目! 俺達のデビューシングル、掌の上のロマンス!」
ケリーの言葉を号令にルーシーはリズムを取り、演奏が始まった。
ギターとベースの空気感は噛み合っていると言えないが、演奏そのものは正しく始まり、十三年前と変わらずレインの演奏は丁寧だった。
「……なんか、不思議な感じだね。あのツアー以来だからかな」
演奏を終えたケリーはメンバーを見回しながら言う。
「そうだな、音作りも違うし、ちょっとぎこちないかな」
ハリーは意見を求める様にルーシーを見た。
「一曲目だし、寄せ木細工がしっかり填まるにはもう少し掛かるだろうな。このまま次の曲もやってみるか?」
「そうだね。じゃ、二曲目!」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる