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第二章 Gambling with the Devil
2-2-2 Time goes by
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事の発端はレインが大学に入ってから半年余りが過ぎた頃の事だった。
当時の彼は学業には真面目に取り組んでいたものの、将来の希望はこれと言ってなく、ただ漠然と、親の手前それなりの企業へ就職せねばならないと考えていた。
その父親は仕事に役立つであろう資格を次々と勧め、レインは話を合わせる様に参考書を読んでは親子関係を維持する為だけにその話題を食卓に持ち出していた。
その鬱々として息苦しい生活の中、音楽だけは救いだったが、それを生業は出来ないという諦めも有った。だが、止めてしまえば何もかも忘れて自分で居られる手段を失ってしまう。。
バンド活動はしない、就職すればギターなんて弾けなくなるから、今だけ。レインはエレキギターもロックも嫌う父親に何度も反論し、表向きには優等生ではないが真面目な大学生であり続けた。
その日々が一変したのはある秋の終わりの事だった。
二本目のギターを見つけた楽器店でピックを探していたところ、レインは背が高く色白な男に声を掛けられた。始めはどんなギターを使っているのかという話題だったが、次第にどんなバンドが好きなのか、どれほどギターを続けているのかといった話に発展した。
そして男は自分のバンドでギタリストを急ぎ探しており、一度セッションに来て欲しいと言った。レインはバンド活動はしないしと断ったが、幸か不幸か、レインがどれほどギターの弾ける人間か、店主が話に割って入ってしまった。
男は店主の話を聞き、ならばぜひスタジオに来て欲しいというが、レインは親の手前バンド活動は出来ないと言った。だが、男は引かなかった。自分の機材を貸すから身ひとつでスタジオに来ればいいとまで言い、その大きな眸で真っ直ぐにレインを見つめた。
強い光を湛えた、三白眼気味の眸は蜘蛛の糸の様で、レインは遂に一度だけならとスタジオに行く事を承諾した。
友人とカラオケに行くから遅くなる。適当な言い訳をして指定されたスタジオに向かうと、其処に在ったのはとある芸能事務所だった。困惑するまま連れて行かれた物置の様なスタジオには、今目の前にあるのと同じように機材が用意されていた。
だが、当時のドラマーは結成当時からのメンバーであるテリーで、ドラムセットの攻勢は異なっており、ギターの機材はケリーが使っていた物だった。
芸能事務所の中で練習しているとはどういうことか、混乱するレインに対し、ケリーは自分たちがメジャーデビューを控えたロックバンドで、既にデビューアルバムのレコーディングは終えているが、復帰の見通しが立たない病気の為にギタリストが脱退せざるを得なくなり、困り果てているという事を打ち明けた。
自分が作っていないアルバムの曲を演奏するのはプライドが許さないかもしれないが、ルックスだけは百点満点、演奏に難が無ければこのまま合流して欲しい。ケリーはその眸を真っ直ぐに向けたまま、レインの手を取ってそう言った。
来てしまった以上、何か演奏して見せる必要がある。洋楽、事にグラムメタルを好んで聴いていたレインは適当な曲を弾いて聴かせた。ケリー達はメジャーシーンのロックバンドであり、四半世紀余り昔の洋楽ヘヴィメタルを聴けば音楽性の違いで諦めてくれるだろうと。
ところが、目論見は外れた。ハリーが洋楽から音楽に熱中したタイプのミュージシャンで、グラムメタルも多少なりと知っており、演奏の良しあしをあっさりと見抜かれてしまったのだ。なにより、レインの丁寧な演奏は誰が見ても十分な技量を感じさせるものだった。
バンド活動はしない。高校でも軽音楽部に入る事はせずにギターを弾き続けてきたレインにとって生まれて初めてのバンド活動の仲間がイエロー・リリー・ブーケになった。
その過酷さを知るまでは、粗末なスタジオでの練習もレインにとって夢の様な時間だった。ささくれたフローリングの上で安い機材をだましだまし使いながらの演奏はロックスターを夢見るケリーには通過点でしかなかったが、レインにとってはその光景が全てであり、今もスタジオの良し悪しや機材の良し悪しは二の次でしかない。
当時の彼は学業には真面目に取り組んでいたものの、将来の希望はこれと言ってなく、ただ漠然と、親の手前それなりの企業へ就職せねばならないと考えていた。
その父親は仕事に役立つであろう資格を次々と勧め、レインは話を合わせる様に参考書を読んでは親子関係を維持する為だけにその話題を食卓に持ち出していた。
その鬱々として息苦しい生活の中、音楽だけは救いだったが、それを生業は出来ないという諦めも有った。だが、止めてしまえば何もかも忘れて自分で居られる手段を失ってしまう。。
バンド活動はしない、就職すればギターなんて弾けなくなるから、今だけ。レインはエレキギターもロックも嫌う父親に何度も反論し、表向きには優等生ではないが真面目な大学生であり続けた。
その日々が一変したのはある秋の終わりの事だった。
二本目のギターを見つけた楽器店でピックを探していたところ、レインは背が高く色白な男に声を掛けられた。始めはどんなギターを使っているのかという話題だったが、次第にどんなバンドが好きなのか、どれほどギターを続けているのかといった話に発展した。
そして男は自分のバンドでギタリストを急ぎ探しており、一度セッションに来て欲しいと言った。レインはバンド活動はしないしと断ったが、幸か不幸か、レインがどれほどギターの弾ける人間か、店主が話に割って入ってしまった。
男は店主の話を聞き、ならばぜひスタジオに来て欲しいというが、レインは親の手前バンド活動は出来ないと言った。だが、男は引かなかった。自分の機材を貸すから身ひとつでスタジオに来ればいいとまで言い、その大きな眸で真っ直ぐにレインを見つめた。
強い光を湛えた、三白眼気味の眸は蜘蛛の糸の様で、レインは遂に一度だけならとスタジオに行く事を承諾した。
友人とカラオケに行くから遅くなる。適当な言い訳をして指定されたスタジオに向かうと、其処に在ったのはとある芸能事務所だった。困惑するまま連れて行かれた物置の様なスタジオには、今目の前にあるのと同じように機材が用意されていた。
だが、当時のドラマーは結成当時からのメンバーであるテリーで、ドラムセットの攻勢は異なっており、ギターの機材はケリーが使っていた物だった。
芸能事務所の中で練習しているとはどういうことか、混乱するレインに対し、ケリーは自分たちがメジャーデビューを控えたロックバンドで、既にデビューアルバムのレコーディングは終えているが、復帰の見通しが立たない病気の為にギタリストが脱退せざるを得なくなり、困り果てているという事を打ち明けた。
自分が作っていないアルバムの曲を演奏するのはプライドが許さないかもしれないが、ルックスだけは百点満点、演奏に難が無ければこのまま合流して欲しい。ケリーはその眸を真っ直ぐに向けたまま、レインの手を取ってそう言った。
来てしまった以上、何か演奏して見せる必要がある。洋楽、事にグラムメタルを好んで聴いていたレインは適当な曲を弾いて聴かせた。ケリー達はメジャーシーンのロックバンドであり、四半世紀余り昔の洋楽ヘヴィメタルを聴けば音楽性の違いで諦めてくれるだろうと。
ところが、目論見は外れた。ハリーが洋楽から音楽に熱中したタイプのミュージシャンで、グラムメタルも多少なりと知っており、演奏の良しあしをあっさりと見抜かれてしまったのだ。なにより、レインの丁寧な演奏は誰が見ても十分な技量を感じさせるものだった。
バンド活動はしない。高校でも軽音楽部に入る事はせずにギターを弾き続けてきたレインにとって生まれて初めてのバンド活動の仲間がイエロー・リリー・ブーケになった。
その過酷さを知るまでは、粗末なスタジオでの練習もレインにとって夢の様な時間だった。ささくれたフローリングの上で安い機材をだましだまし使いながらの演奏はロックスターを夢見るケリーには通過点でしかなかったが、レインにとってはその光景が全てであり、今もスタジオの良し悪しや機材の良し悪しは二の次でしかない。
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