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第一章 The war ain't over!
13-1 締め出しと抜け駆けのメリーゴーランド
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――ユウキ君、一度話がしたいんだが、何処か行きたい店はないか?
ルーシーからの呼び出しに、レインはいつもの喫茶店を指定した。時刻は昼下がり、遅めの昼食に白北自慢のカツサンドを頼み、奥まった席で二人は顔を合わせた。
「バンドの話はしない、ただ、心配になった」
ルーシーは眉を顰め、レインを正面から見つめる。
「聞いたのか……」
「おじさんもおばさんも、随分怒っていた。もし、連絡が付くのであれば、それとなく話を聞くなり様子を見て欲しいと言われたよ。まあ、お目付け役に僕を指名したいという事だろう」
「それ、筒抜けにしていいのか?」
「隠す方が悪辣だ。身内同士で密告なんてすべきじゃない」
レインは溜息を吐き、無作法に上体を机に投げ出す。
「あー……なんか、やっとまともな人間に会った気がする」
「何がどうしたのか教えてくれ、おじさんもおばさんも、頭に血が上ってどうも話が見えない」
「あー、もう何から話したらいいかさぁ、よく分かんないんだけど……」
レインは姿勢を戻し、背凭れに体を任せた。
「発端はパパラッチに目を付けられた事。週刊誌に俺ジャンキー説がでっち上げられて、親子喧嘩で携帯が壊れた。其処に世を儚んで自分に火を付けちゃった仏さんが出て、背格好が近かった所為で親が勘違いしたけど、携帯壊れてるから連絡付かずに大喧嘩。挙句俺ジャンキー説を親が警察にタレこんで刑事さんお二人御来訪。もっとブチ切れられて家から出ていくか家賃十五万払うかで今此処」
何の感情も無い口調のレインに、ルーシーは閉口した。
「ちなみに、家の持ち分は譲渡されてたんだけど、それ返せとか何とかもセットで、税金どうするんだって抵抗したら屁理屈呼ばわり。とーさん、優秀なサラリーマンなんだけど、自分で税金計算する頭は足りてないみたいで効果なかったよ」
ルーシーは思わず首を振った。
「それは全部本当の事か?」
「嘘じゃないよ。携帯壊れたのも、仏さんの一件で暴走した二人と家の前の道路で車ごと鉢合わせたのも、刑事さんが来たのも、家の件も」
「心配しているのか、放り出したいのか、やってる事が滅茶苦茶だ……ユウキ君、俺の親と連絡は取ってるか?」
レインは首を振る。
「それなら、おばさんの方の親戚とは」
レインは重ねてさらに首を振った。
「母方の親戚とはさ、会った事無いし、祖父さん祖母さんの事もよく知らないんだ。話を聞いた覚えも無いし、折り合いが悪いんじゃないかな」
「そうか……親世代の身内同士で話が出来たら落ち着くかとも思ったんだが……悪いな、あの念書の効力は、永遠らしくてな」
ルーシーは十五年余り前、就職を巡って両親と諍いになった際、親兄弟との接触を金輪際禁じられ、念書に血判まで押している。
「どっちにせよ親の味方されたら意味ないし、別に問題じゃないよ。ただ、当座、とーさんは家賃を払わなきゃ火を点けてでも追い出すっていうから、十五万だけは払うよ」
レインの言葉にルーシーは眉を顰める。
「まー、今は家から少し先にあるあばら家、バンドの相棒の自宅兼アトリエってところに転がり込ませてもらってる訳なんだけどね……だから、いきなり追い出されてもいきなり路頭には迷わないよ。でも……このまま家を明け渡すってわけにもいかないかな。見掛け倒しの古い家だけど、配信の環境作っちゃってるし、其処はバンドの相棒にも貸してるし」
「なるほどな……」
レインの両親の暴走を止めるすべは見つからないまま、二人は黙り込む。
「お待たせしました」
重い沈黙に、カツサンドとジンジャーエールが割り込んだ。
「それで、これからどうする。十五万なんて家賃、払い続けられないだろう」
「でもただじゃあ終わらないだろうし……んー、建物だけでも俺が買った事にするとかなんとかしないと駄目かな」
「そんな金工面出来るのか?」
「築年数俺より年上だし、多分家自体の価値はないんじゃないかな」
「そんなもんなのか」
「そんなもんじゃないかな」
ルーシーからの呼び出しに、レインはいつもの喫茶店を指定した。時刻は昼下がり、遅めの昼食に白北自慢のカツサンドを頼み、奥まった席で二人は顔を合わせた。
「バンドの話はしない、ただ、心配になった」
ルーシーは眉を顰め、レインを正面から見つめる。
「聞いたのか……」
「おじさんもおばさんも、随分怒っていた。もし、連絡が付くのであれば、それとなく話を聞くなり様子を見て欲しいと言われたよ。まあ、お目付け役に僕を指名したいという事だろう」
「それ、筒抜けにしていいのか?」
「隠す方が悪辣だ。身内同士で密告なんてすべきじゃない」
レインは溜息を吐き、無作法に上体を机に投げ出す。
「あー……なんか、やっとまともな人間に会った気がする」
「何がどうしたのか教えてくれ、おじさんもおばさんも、頭に血が上ってどうも話が見えない」
「あー、もう何から話したらいいかさぁ、よく分かんないんだけど……」
レインは姿勢を戻し、背凭れに体を任せた。
「発端はパパラッチに目を付けられた事。週刊誌に俺ジャンキー説がでっち上げられて、親子喧嘩で携帯が壊れた。其処に世を儚んで自分に火を付けちゃった仏さんが出て、背格好が近かった所為で親が勘違いしたけど、携帯壊れてるから連絡付かずに大喧嘩。挙句俺ジャンキー説を親が警察にタレこんで刑事さんお二人御来訪。もっとブチ切れられて家から出ていくか家賃十五万払うかで今此処」
何の感情も無い口調のレインに、ルーシーは閉口した。
「ちなみに、家の持ち分は譲渡されてたんだけど、それ返せとか何とかもセットで、税金どうするんだって抵抗したら屁理屈呼ばわり。とーさん、優秀なサラリーマンなんだけど、自分で税金計算する頭は足りてないみたいで効果なかったよ」
ルーシーは思わず首を振った。
「それは全部本当の事か?」
「嘘じゃないよ。携帯壊れたのも、仏さんの一件で暴走した二人と家の前の道路で車ごと鉢合わせたのも、刑事さんが来たのも、家の件も」
「心配しているのか、放り出したいのか、やってる事が滅茶苦茶だ……ユウキ君、俺の親と連絡は取ってるか?」
レインは首を振る。
「それなら、おばさんの方の親戚とは」
レインは重ねてさらに首を振った。
「母方の親戚とはさ、会った事無いし、祖父さん祖母さんの事もよく知らないんだ。話を聞いた覚えも無いし、折り合いが悪いんじゃないかな」
「そうか……親世代の身内同士で話が出来たら落ち着くかとも思ったんだが……悪いな、あの念書の効力は、永遠らしくてな」
ルーシーは十五年余り前、就職を巡って両親と諍いになった際、親兄弟との接触を金輪際禁じられ、念書に血判まで押している。
「どっちにせよ親の味方されたら意味ないし、別に問題じゃないよ。ただ、当座、とーさんは家賃を払わなきゃ火を点けてでも追い出すっていうから、十五万だけは払うよ」
レインの言葉にルーシーは眉を顰める。
「まー、今は家から少し先にあるあばら家、バンドの相棒の自宅兼アトリエってところに転がり込ませてもらってる訳なんだけどね……だから、いきなり追い出されてもいきなり路頭には迷わないよ。でも……このまま家を明け渡すってわけにもいかないかな。見掛け倒しの古い家だけど、配信の環境作っちゃってるし、其処はバンドの相棒にも貸してるし」
「なるほどな……」
レインの両親の暴走を止めるすべは見つからないまま、二人は黙り込む。
「お待たせしました」
重い沈黙に、カツサンドとジンジャーエールが割り込んだ。
「それで、これからどうする。十五万なんて家賃、払い続けられないだろう」
「でもただじゃあ終わらないだろうし……んー、建物だけでも俺が買った事にするとかなんとかしないと駄目かな」
「そんな金工面出来るのか?」
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「そんなもんなのか」
「そんなもんじゃないかな」
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