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第一章 The war ain't over!
13-2 締め出しと抜け駆けのメリーゴーランド
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遅めの昼食を終え、ルーシーを連れて自宅に向かったレインは眉間にしわを寄せた。どうにも鍵の金具が妙に新しく見えるのだ。
「……やられた」
レインの低い声にルーシーは首を傾げながら、鍵の先が示す物を見る。
「これ」
レインが持っている鍵は鍵穴に入らない。
「どうする」
顔を見合わせ、ルーシーは眉を顰める。
「鍵屋さん、呼べば何とかなるかな。一応、俺の家なんだけど。賃貸契約もしてないし」
「……交換したのはこの一時間以内の事だろう、近隣の神屋に問い合わせてみるか」
「うん」
レインはルーシーと二人、この近辺で営業している鍵屋を探して電話をかけて回った。すると、その内の一軒が鍵の交換をした事を認めた。どうやら取り換え工事に不備が有った物として話を聞いているらしく、レインはそのまま現場にもう一度来て欲しいと依頼した。
それから一時間半あまり、件の鍵屋が再びやって来た。
レインは何も知らない職人に、交換の依頼主は自分の親だが此処には住んでいない事、住んでいるのは自分であり、持ち分の一部を譲渡された共有者である事、賃貸契約はしておらず、口約束で自分が現状暮らしている事を伝えた。
幸い、職人は住んでいる人物が締め出されているのは異常だと理解し、レインにスペアキーを手配したが、二人が中に入れたのは夕刻の事だった。
「中、大丈夫か」
玄関を開けると、玄関先の電話代に妙な物が置かれていた。
――差し押さえ告知書。
桜色の紙に印刷されたそれは何らかの行政文書の様だったが、用紙は明らかに民生品の薄い印刷用紙で、印字に顔料か染料の擦れた後が見受けられる。
手の込んだ嫌がらせをするものだとルーシーが呆れていると、仕事部屋を覗いたレインの間抜けな声が聞こえた。
「どうした」
「これ酷くね? モニター、一カ月前に慌てて買った中華製とはいえ、この扱い、無くね?」
仕事部屋に置かれた椅子や机にも容赦なく令状を模した物がばらまかれているが、パソコンのモニターに関しては強粘着性のテープで液晶画面に直接それが貼り付けられている。
「それ……ダクトテープの類じゃないのか?」
「ダクトテープ……あの映画でよく口塞いでる」
「どんな認識だ」
「てか、これは液晶終了のお知らせだね、粘着取れる気がしない。しかもさ、キャビネットは、多分かーさんの趣味、百円のマステなのにね」
モニターへの悪辣な仕打ちに比べ、その隣にあるキャビネットのガラス戸に貼り付く礼状もどきはハート柄のテープでぎりぎり止まっている状態だった。
「中身は……案の定ね」
キャビネットの中にあるハードディスクドライブの筐体は荷紐で括られており、紐の隙間に礼状もどきが差し込まれていた。
「中古のハードディスクはフォーマットしないと使えないんだけど……ま、パソコンのログインコードは知らない相手だし、多分中身は大丈夫かな。完成品のデータはフィンランドにも有るし」
レインは机の引き出しを開けて鋏を取り出し、荷紐を切った。
「ユウキ君、ちょっと待っててくれるか」
家の中の惨状を見たルーシーは何かに気付いた様子で、外に出る。そして程無くして戻ってきた。
「ユウキ君、車、やられたな。車止めのロックがされていた」
「はぁ?」
レインは表情を歪ませる。
「心当たりは」
「あぁ、そっか、あれはとーさんに借金して買ったけどさぁ……借用書作って返済はきちんとしてるよ? そりゃ、引き落としみたいに毎月同じ日にきっかりではないし、仕事の都合で返せる金額が変動するにせよ、年額は正しく返してる。つか、車使えなくするって、これもう業務妨害じゃん」
ルーシーはおじとおばの振る舞いに眉を顰めていた。
「ユウキ君、他の部屋も見た方がいい」
「あー、そうだね」
レインが見て回ったところ、家中の家財道具に礼状もどきがばらまかれていたが、可愛らしい柄のテープでは保持できず、何枚もの紙が床に落ちていた。
レインはそんなテープを剥がしてそこら中に放り出しながら、家財を持ち出さねばならないだろうと考えていた。
「ユウキ君、大丈……」
一階に戻ってきたレインに声を掛けようとして、ルーシーはその手に有る物に絶句した。
それは強粘着テープを巻き付けて封印された箱の様な物。
「それは」
「アクセサリーケースにしてるパーツケース。量販店の安物なんだけど、凄いよね、なんかの映画に出てくるバクダンみたい」
言いながら、レインはダイニングテーブルにまな板を出し、少し錆びの見えるカッターナイフをテープに突き刺した。
「ブランドも宝石も入ってないんだけど、自分で作ったり、連れ合いに任せて作って貰ったりした物が入っててね、ま、プライスレスってところかな」
粘着テープに切り込みを入れ、レインはそれをこじ開ける。
「お惣菜パックが棚にあるの、取ってくれる?」
「あ、あぁ……」
ルーシーは台所の棚に押し込まれた食品容器を手渡す。
透明な容器に収められるのは、銀細工のペンダントや、大ぶりなガラスビーズを使ったイヤリング。
「パワーストーンの類もさ、気に入ったのが有ると安い時に買ってたんだ。連れ合いに頼んで、なんかいい感じにして欲しいと言ったら、ガラスビーズ調達して、サンキャッチャーみたいにしてくれた。めったに使う事無いんだけど、ステージで着けると綺麗なんだ。髪で隠れちゃうのが、勿体ないくらい」
粘着テープの封印に際して中身はかき乱されていたが、壊れた物は無かった。
キッチンペーパーを緩衝材に詰め込まれたそれを鞄に押し込み、レインは粘着テープに固められたケースを手に取った。
「ランに連絡して、こっちに来てもらおうと思う。荷造りするから、少し手伝ってくれるかな」
「分った」
「……やられた」
レインの低い声にルーシーは首を傾げながら、鍵の先が示す物を見る。
「これ」
レインが持っている鍵は鍵穴に入らない。
「どうする」
顔を見合わせ、ルーシーは眉を顰める。
「鍵屋さん、呼べば何とかなるかな。一応、俺の家なんだけど。賃貸契約もしてないし」
「……交換したのはこの一時間以内の事だろう、近隣の神屋に問い合わせてみるか」
「うん」
レインはルーシーと二人、この近辺で営業している鍵屋を探して電話をかけて回った。すると、その内の一軒が鍵の交換をした事を認めた。どうやら取り換え工事に不備が有った物として話を聞いているらしく、レインはそのまま現場にもう一度来て欲しいと依頼した。
それから一時間半あまり、件の鍵屋が再びやって来た。
レインは何も知らない職人に、交換の依頼主は自分の親だが此処には住んでいない事、住んでいるのは自分であり、持ち分の一部を譲渡された共有者である事、賃貸契約はしておらず、口約束で自分が現状暮らしている事を伝えた。
幸い、職人は住んでいる人物が締め出されているのは異常だと理解し、レインにスペアキーを手配したが、二人が中に入れたのは夕刻の事だった。
「中、大丈夫か」
玄関を開けると、玄関先の電話代に妙な物が置かれていた。
――差し押さえ告知書。
桜色の紙に印刷されたそれは何らかの行政文書の様だったが、用紙は明らかに民生品の薄い印刷用紙で、印字に顔料か染料の擦れた後が見受けられる。
手の込んだ嫌がらせをするものだとルーシーが呆れていると、仕事部屋を覗いたレインの間抜けな声が聞こえた。
「どうした」
「これ酷くね? モニター、一カ月前に慌てて買った中華製とはいえ、この扱い、無くね?」
仕事部屋に置かれた椅子や机にも容赦なく令状を模した物がばらまかれているが、パソコンのモニターに関しては強粘着性のテープで液晶画面に直接それが貼り付けられている。
「それ……ダクトテープの類じゃないのか?」
「ダクトテープ……あの映画でよく口塞いでる」
「どんな認識だ」
「てか、これは液晶終了のお知らせだね、粘着取れる気がしない。しかもさ、キャビネットは、多分かーさんの趣味、百円のマステなのにね」
モニターへの悪辣な仕打ちに比べ、その隣にあるキャビネットのガラス戸に貼り付く礼状もどきはハート柄のテープでぎりぎり止まっている状態だった。
「中身は……案の定ね」
キャビネットの中にあるハードディスクドライブの筐体は荷紐で括られており、紐の隙間に礼状もどきが差し込まれていた。
「中古のハードディスクはフォーマットしないと使えないんだけど……ま、パソコンのログインコードは知らない相手だし、多分中身は大丈夫かな。完成品のデータはフィンランドにも有るし」
レインは机の引き出しを開けて鋏を取り出し、荷紐を切った。
「ユウキ君、ちょっと待っててくれるか」
家の中の惨状を見たルーシーは何かに気付いた様子で、外に出る。そして程無くして戻ってきた。
「ユウキ君、車、やられたな。車止めのロックがされていた」
「はぁ?」
レインは表情を歪ませる。
「心当たりは」
「あぁ、そっか、あれはとーさんに借金して買ったけどさぁ……借用書作って返済はきちんとしてるよ? そりゃ、引き落としみたいに毎月同じ日にきっかりではないし、仕事の都合で返せる金額が変動するにせよ、年額は正しく返してる。つか、車使えなくするって、これもう業務妨害じゃん」
ルーシーはおじとおばの振る舞いに眉を顰めていた。
「ユウキ君、他の部屋も見た方がいい」
「あー、そうだね」
レインが見て回ったところ、家中の家財道具に礼状もどきがばらまかれていたが、可愛らしい柄のテープでは保持できず、何枚もの紙が床に落ちていた。
レインはそんなテープを剥がしてそこら中に放り出しながら、家財を持ち出さねばならないだろうと考えていた。
「ユウキ君、大丈……」
一階に戻ってきたレインに声を掛けようとして、ルーシーはその手に有る物に絶句した。
それは強粘着テープを巻き付けて封印された箱の様な物。
「それは」
「アクセサリーケースにしてるパーツケース。量販店の安物なんだけど、凄いよね、なんかの映画に出てくるバクダンみたい」
言いながら、レインはダイニングテーブルにまな板を出し、少し錆びの見えるカッターナイフをテープに突き刺した。
「ブランドも宝石も入ってないんだけど、自分で作ったり、連れ合いに任せて作って貰ったりした物が入っててね、ま、プライスレスってところかな」
粘着テープに切り込みを入れ、レインはそれをこじ開ける。
「お惣菜パックが棚にあるの、取ってくれる?」
「あ、あぁ……」
ルーシーは台所の棚に押し込まれた食品容器を手渡す。
透明な容器に収められるのは、銀細工のペンダントや、大ぶりなガラスビーズを使ったイヤリング。
「パワーストーンの類もさ、気に入ったのが有ると安い時に買ってたんだ。連れ合いに頼んで、なんかいい感じにして欲しいと言ったら、ガラスビーズ調達して、サンキャッチャーみたいにしてくれた。めったに使う事無いんだけど、ステージで着けると綺麗なんだ。髪で隠れちゃうのが、勿体ないくらい」
粘着テープの封印に際して中身はかき乱されていたが、壊れた物は無かった。
キッチンペーパーを緩衝材に詰め込まれたそれを鞄に押し込み、レインは粘着テープに固められたケースを手に取った。
「ランに連絡して、こっちに来てもらおうと思う。荷造りするから、少し手伝ってくれるかな」
「分った」
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