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ライバル令嬢登場!?
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♢ ♢ ♢
のどかな美しい庭園。薔薇などの花が咲き乱れ、その間を風がザザァーと通り過ぎていく。そんな中で私は
「ふふふ……」
と思わず私はほくそ笑んだ。
すべて自分が思い描いた通り、計画通りに事が運んでいる。ちらりと右の方を向けば、庭園の傍にある城の建物の窓に自らの姿が映し出された。
明るい黄金色の髪に、浅葱色の瞳。そこに映し出されたのはどこからどう見ても、『エレナ・クレメンス』の姿。
“私”が『ベル・フォーサイス』だと誰が思うだろうか。
「あの男の変身魔法は大したものね。連れてきて正解だったわ」
ノアと言ったか。報酬さえ払えば完璧に計画を進めてくれ、最高の結果をもたらしてくれる何でも屋。
レイ様の誕生日の日に婚約を申し込んだ私は、その日のうちに断られた。けれども、諦めきれずに話の場を設けてもらっても、レイ様は私の婚約の申し出に決して首を縦には振らなかった。大切な人がいると言われても、レイ様の側にずっといたのは私だ。心当たりもなく、私は途方に暮れていた。
そんな私の耳に、レイ様にはどうやら幼い時に誓いを交わした令嬢がいるのではないかと噂話が飛び込んできたのはつい昨日のこと。城からレイ様が乗った馬車が街を出るのを複数人が見たらしい。
王族が公務以外で街を出ることはほとんどない。18歳になり、婚姻もできる年になったので、婚約者を迎えに行ったのではないかと囁かれた。
嫌な予感がした。レイ様が手の届かないところへ行ってしまいそうで。だからこそ、ノアを雇っておいた。もし、手の届かないところに行きそうなら、何をしても繋ぎ止めなければと思ったのだ。
そして、その予感は的中した。真相を確かめたくて、今日城を訪れてみると、私とレイ様よりも10歳ほど上だろうか。黄金色の髪を結い上げ、空色の瞳の妙齢の女がレイ様と寄り添って城の中へ入っていくのが見えた。
あんな女のせいでレイ様の婚約を断られたのかと思うと悔しくてたまらなかった。それを認めたくなかった私は、二人の仲を引き裂いてやろうと私が婚約者だと一芝居打った。けれども、あろうことか私の目の前でレイ様は『エレナ・クレメンス』という名の女の首元に、深い口づけを落としたのだ。もちろん、そのレイ様の唇のあとは、ノアが完璧に再現した。窓に移る自らの姿を見れば、首元あたりにソレが映し出されている。
口づけをしてあの女の肩を引き寄せるレイ様を見て、私は目の前が真っ暗になった。
「愛していたのに……」
ずっとずっとレイ様だけを想って生きてきた。皇后陛下に気に入ってもらえるように、礼儀や振る舞い、そしてマナーありとあらゆる努力をした。おかげで、周囲からは婚約者候補の筆頭だと言われるまでになった。
けれど、突然現れた女にレイ様を奪われた。この女がいなければとこんな想いをしなくて済んだのに……と思った。
だからノアにあの女を閉じ込めてほしい。そして、私を『エレナ・クレメンス』に化けさせてほしいと頼んだ。ここまでは完璧。あとは――……と思った瞬間、誰かの足音が聞こえた。足音をした方を見れば
「レイ様……」
すぐ傍で亜麻栗色の髪を額に張りつかせ、エメラルドグリーンの瞳を瞬いている私の愛しい人が肩で息をしていた。どれほど急いできたのかが見て取れた。薄っすらと額に汗をかいている。いつも涼しげに何でもこなしていたのに、そんなに必死になるほどこの女がそんなにも大事なのか。
「エレナ・クレメンス――……」
唇を噛みしめてあの女の名前を呟く。全く、忌々しい。
庭園に造られた大きな垣根が死角になって、レイ様からこちらは見えていないようだった。ゆっくり息を吐いて、目を閉じて開いた。そして、レイ様の背後へと歩みをすすめた。あの女の一人称は『私』で、レイ様の呼称は……
「レイ君……」
あの女の姿で、貴方がいかに愚かな選択をしたのか、貴方の目を覚まさせてあげるわ。
のどかな美しい庭園。薔薇などの花が咲き乱れ、その間を風がザザァーと通り過ぎていく。そんな中で私は
「ふふふ……」
と思わず私はほくそ笑んだ。
すべて自分が思い描いた通り、計画通りに事が運んでいる。ちらりと右の方を向けば、庭園の傍にある城の建物の窓に自らの姿が映し出された。
明るい黄金色の髪に、浅葱色の瞳。そこに映し出されたのはどこからどう見ても、『エレナ・クレメンス』の姿。
“私”が『ベル・フォーサイス』だと誰が思うだろうか。
「あの男の変身魔法は大したものね。連れてきて正解だったわ」
ノアと言ったか。報酬さえ払えば完璧に計画を進めてくれ、最高の結果をもたらしてくれる何でも屋。
レイ様の誕生日の日に婚約を申し込んだ私は、その日のうちに断られた。けれども、諦めきれずに話の場を設けてもらっても、レイ様は私の婚約の申し出に決して首を縦には振らなかった。大切な人がいると言われても、レイ様の側にずっといたのは私だ。心当たりもなく、私は途方に暮れていた。
そんな私の耳に、レイ様にはどうやら幼い時に誓いを交わした令嬢がいるのではないかと噂話が飛び込んできたのはつい昨日のこと。城からレイ様が乗った馬車が街を出るのを複数人が見たらしい。
王族が公務以外で街を出ることはほとんどない。18歳になり、婚姻もできる年になったので、婚約者を迎えに行ったのではないかと囁かれた。
嫌な予感がした。レイ様が手の届かないところへ行ってしまいそうで。だからこそ、ノアを雇っておいた。もし、手の届かないところに行きそうなら、何をしても繋ぎ止めなければと思ったのだ。
そして、その予感は的中した。真相を確かめたくて、今日城を訪れてみると、私とレイ様よりも10歳ほど上だろうか。黄金色の髪を結い上げ、空色の瞳の妙齢の女がレイ様と寄り添って城の中へ入っていくのが見えた。
あんな女のせいでレイ様の婚約を断られたのかと思うと悔しくてたまらなかった。それを認めたくなかった私は、二人の仲を引き裂いてやろうと私が婚約者だと一芝居打った。けれども、あろうことか私の目の前でレイ様は『エレナ・クレメンス』という名の女の首元に、深い口づけを落としたのだ。もちろん、そのレイ様の唇のあとは、ノアが完璧に再現した。窓に移る自らの姿を見れば、首元あたりにソレが映し出されている。
口づけをしてあの女の肩を引き寄せるレイ様を見て、私は目の前が真っ暗になった。
「愛していたのに……」
ずっとずっとレイ様だけを想って生きてきた。皇后陛下に気に入ってもらえるように、礼儀や振る舞い、そしてマナーありとあらゆる努力をした。おかげで、周囲からは婚約者候補の筆頭だと言われるまでになった。
けれど、突然現れた女にレイ様を奪われた。この女がいなければとこんな想いをしなくて済んだのに……と思った。
だからノアにあの女を閉じ込めてほしい。そして、私を『エレナ・クレメンス』に化けさせてほしいと頼んだ。ここまでは完璧。あとは――……と思った瞬間、誰かの足音が聞こえた。足音をした方を見れば
「レイ様……」
すぐ傍で亜麻栗色の髪を額に張りつかせ、エメラルドグリーンの瞳を瞬いている私の愛しい人が肩で息をしていた。どれほど急いできたのかが見て取れた。薄っすらと額に汗をかいている。いつも涼しげに何でもこなしていたのに、そんなに必死になるほどこの女がそんなにも大事なのか。
「エレナ・クレメンス――……」
唇を噛みしめてあの女の名前を呟く。全く、忌々しい。
庭園に造られた大きな垣根が死角になって、レイ様からこちらは見えていないようだった。ゆっくり息を吐いて、目を閉じて開いた。そして、レイ様の背後へと歩みをすすめた。あの女の一人称は『私』で、レイ様の呼称は……
「レイ君……」
あの女の姿で、貴方がいかに愚かな選択をしたのか、貴方の目を覚まさせてあげるわ。
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