上 下
29 / 57
ライバル令嬢登場!?

16

しおりを挟む
♢ ♢ ♢








 のどかな美しい庭園。薔薇などの花が咲き乱れ、その間を風がザザァーと通り過ぎていく。そんな中で私は

「ふふふ……」

と思わず私はほくそ笑んだ。

 すべて自分が思い描いた通り、計画通りに事が運んでいる。ちらりと右の方を向けば、庭園の傍にある城の建物の窓に自らの姿が映し出された。

 明るい黄金色の髪に、浅葱色の瞳。そこに映し出されたのはどこからどう見ても、『エレナ・クレメンス』の姿。

 “私”が『ベル・フォーサイス』だと誰が思うだろうか。

「あの男の変身魔法は大したものね。連れてきて正解だったわ」

 ノアと言ったか。報酬さえ払えば完璧に計画を進めてくれ、最高の結果をもたらしてくれる何でも屋。

レイ様の誕生日の日に婚約を申し込んだ私は、その日のうちに断られた。けれども、諦めきれずに話の場を設けてもらっても、レイ様は私の婚約の申し出に決して首を縦には振らなかった。大切な人がいると言われても、レイ様の側にずっといたのは私だ。心当たりもなく、私は途方に暮れていた。

そんな私の耳に、レイ様にはどうやら幼い時に誓いを交わした令嬢がいるのではないかと噂話が飛び込んできたのはつい昨日のこと。城からレイ様が乗った馬車が街を出るのを複数人が見たらしい。

王族が公務以外で街を出ることはほとんどない。18歳になり、婚姻もできる年になったので、婚約者を迎えに行ったのではないかと囁かれた。

嫌な予感がした。レイ様が手の届かないところへ行ってしまいそうで。だからこそ、ノアを雇っておいた。もし、手の届かないところに行きそうなら、何をしても繋ぎ止めなければと思ったのだ。

そして、その予感は的中した。真相を確かめたくて、今日城を訪れてみると、私とレイ様よりも10歳ほど上だろうか。黄金色の髪を結い上げ、空色の瞳の妙齢の女がレイ様と寄り添って城の中へ入っていくのが見えた。

あんな女のせいでレイ様の婚約を断られたのかと思うと悔しくてたまらなかった。それを認めたくなかった私は、二人の仲を引き裂いてやろうと私が婚約者だと一芝居打った。けれども、あろうことか私の目の前でレイ様は『エレナ・クレメンス』という名の女の首元に、深い口づけを落としたのだ。もちろん、そのレイ様の唇のあとは、ノアが完璧に再現した。窓に移る自らの姿を見れば、首元あたりにソレが映し出されている。

口づけをしてあの女の肩を引き寄せるレイ様を見て、私は目の前が真っ暗になった。

「愛していたのに……」

 ずっとずっとレイ様だけを想って生きてきた。皇后陛下に気に入ってもらえるように、礼儀や振る舞い、そしてマナーありとあらゆる努力をした。おかげで、周囲からは婚約者候補の筆頭だと言われるまでになった。

けれど、突然現れた女にレイ様を奪われた。この女がいなければとこんな想いをしなくて済んだのに……と思った。

 だからノアにあの女を閉じ込めてほしい。そして、私を『エレナ・クレメンス』に化けさせてほしいと頼んだ。ここまでは完璧。あとは――……と思った瞬間、誰かの足音が聞こえた。足音をした方を見れば

「レイ様……」

すぐ傍で亜麻栗色の髪を額に張りつかせ、エメラルドグリーンの瞳を瞬いている私の愛しい人が肩で息をしていた。どれほど急いできたのかが見て取れた。薄っすらと額に汗をかいている。いつも涼しげに何でもこなしていたのに、そんなに必死になるほどこの女がそんなにも大事なのか。

「エレナ・クレメンス――……」

唇を噛みしめてあの女の名前を呟く。全く、忌々しい。

庭園に造られた大きな垣根が死角になって、レイ様からこちらは見えていないようだった。ゆっくり息を吐いて、目を閉じて開いた。そして、レイ様の背後へと歩みをすすめた。あの女の一人称は『私』で、レイ様の呼称は……

「レイ君……」

あの女の姿で、貴方がいかに愚かな選択をしたのか、貴方の目を覚まさせてあげるわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

処理中です...