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第一章 幼少期編

49.経験値?①

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「と、言う訳なんです」

「はぁ……アル、あなた……いえ、なんでもないわ。よく頑張ったわね」

 氷魔法を放てるようになるまでの経緯を母さんに説明すると、彼女は呆れつつも俺を優しく撫でながら褒めてくれた。
 この一年の頑張りを自慢したくて説明した訳だけれど、実際こうやって素直に褒められると照れてしまう。
 そんな俺の姿を見て、ジャックスたちがボソリと呟く。

「こういう姿を見ると、アル様も三歳の子供なんだって実感するよな」

「……主は案外お子様。知らなかった?」

 二人の言葉に、母さんが楽しそうにフフッと微笑む。
 そんな彼らの反応に顔が熱くなるのを感じつつ、俺は慌てて口を開いた。
 
「か、母さん。もう十分だから。それよりも、この後はどうするの?」

「そうね……じゃぁ実際の魔物相手に魔法を試してみましょうか。ライムちゃんの実力も確認しておきたいものね」

 そう言って、ホーンラビット姿に変身しているライムの頭を撫でる母さん。
 ライムも、“キュイッ”と眼を細めて応える。
 
 俺もライムもちゃんとした戦闘はこれが初めてだ。
 俺は手がじっとりと濡れるのを感じつつ、集中して周囲の様子を観察する。

「……来た」

 魔力視で周囲を観察していたであろうソフィーネが、魔物が近づいてくることを教えてくれる。
 よーく目を凝らすと、確かにホーンラビットが一匹こちらに向かってきているのが分かった。

 俺たちは各々ホーンラビットに注目し、手の平を向け集中する。
 しかし普通の兎よりも二回りほど大きなホーンラビットが突進してくる姿に、俺は思わず息を呑んでしまった。
 そして――

土球サンドボール!」

 真っ先に放たれるジャックスの土球サンドボール
 しかし距離があったためか、ホーンラビットは斜め前方に飛び出すようにして躱してしまう。
 チッと舌打ちをしつつ、俺たちの前に出て盾を構えようとするジャックス。
 しかしその間際、

「……#風矢_ウインドアロー__#」
「ギュッ!?」

 ジャックス目掛けて突進してきたホーンラビットの右足の付け根に、ソフィーネの風の矢が突き刺さり血しぶきを上げる。
 そこでようやく、ホーンラビットの勢いが弱まった。
 俺は慌てて集中し直し、ホーンラビットに向けて魔法を放つ。

氷針アイスニードル!」
「ギャッ!」

 俺が放った三十センチメートル程の氷の針が、ホーンラビットの頬に突き刺さる。
 しかし一瞬怯んだものの、ホーンラビットはそのまま俺たち目掛けて突進してきた。
 盾を構えるジャックスが、前に進み出て的になる。
 そして――

 ――ガキャッ!!

 盾か骨かは分からないが、何かが軋む音が響き渡る。
 ジャックスは身体強化魔法をかけていたのか、少し後ろにずれながらも耐えた様だ。
 勢いを止められたホーンラビットが、再び助走距離をとろうとする。が、

「キュイッ!」

 横から飛び出したライムがホーンラビット目掛けて突進し、そしてそのまま自分の角をホーンラビットの首元に突き刺した。
 ビクビクッと痙攣し、動きを止めたホーンラビット。
 しばらくしても動きが無いことを確認して、俺はやっとホッと息をつく。

「キュキュイ!」
 
 とどめを刺したことを褒めて欲しいのだろう。
 ライムが俺の前まで走ってきて、血に染まった頭を摺り寄せようとしてくる。
 俺は若干引きつつも、なんとかライムを褒めてやる。

「よ、よし、えらいぞ!」

「キュイキュイッ」

 嬉しそうに目を細めるライムを見て、ソフィーネが何か不思議そうな顔をしていた。

「ソフィ、どうかした?」

 俺の問いに、ゆっくり口を開くソフィーネ。

「……魔力の、流れが」

「魔力の流れ?」

「……うん。魔力が、あのホーンラビットから、ライムに流れて来てる……割とたくさん」

 ソフィーネの言葉に、首を傾げる俺たち三人。
 
「それって……なんか拙いのか?」

 ジャックスの不安そうな言葉に、首を振るソフィーネ。

「……大丈夫、だと思う。人が魔物を倒しても、ほんの少しだけ、魔物から魔力が流れてくるから。……でも、ライムのは、私たちよりもかなり多いみたい」

「確かにそんな噂は聞いたことがあるけれど……それってただの迷信だと思っていたわ」

 母さんの言葉に、首をフルフルと振ってソフィーネが答える。

「……魔物から人に流れてくる魔力は、本当に僅か、です。多分、スキルが無いと、見えない、かも?」

 なるほど。魔物を倒すと魔力が流れ込んでくることは、既に知られていることだったのか。
 でも微量過ぎて、普通の魔力視では見えない、と。
 きっと過去に魔力視のスキル持ちが、同じことを言って広めたのだろう。
 俺が一人で納得していると、ジャックスが首を傾げる。

「でもさ、それって何か意味があんのか? 魔力が流れ込むと、魔力量が増えるとかか?」

「……さぁ?」

「さぁってお前……」

 彼と同様に首を傾げるソフィーネに、ジャックスが呆れてため息をつく。

「……流れてくる魔力は、本当に僅か。だから、あまり意味が無い、かも……」

 彼女の言葉に、“な~んだ”と興味を失くすジャックス。
 しかし彼女は、“でも……”と言葉を続けた。

「強いて言うなら、強い人は、魔力が少し濃い。もしかしたら、この魔力の影響、かも?」

「……マジで?」

「……飽くまで、推測、だけど……」

 自信なさげに呟くソフィーネ。
 そんな彼女を見ながら、俺は母さんに尋ねてみる。

「母さんはどう思う? 魔物を倒すと強くなったりするの?」

「う~ん、確かにそういう話も聞いた事はあるけれど、それも噂でしかないわねぇ。私もたくさん魔物は倒してきたけれど、特別力が強くなったりはしてないし……属性魔法の威力が上がるなんて話もあるけれど、それも練度が上がれば自然と上がるから、はっきりしたことは分からないわ」

「そっかぁ……」

 うーん……ソフィーネの話を聞いて、てっきりゲームでありがちな経験値とレベルアップを連想したんだが、違うのだろうか。
 まぁモンスターを倒しても得られる魔力はほんの少しみたいだから、ほとんど誤差みたいなものなのかもしれない。

「ん? でもライムに流れる魔力はそれなりに多いんだよね? だったら今のライムと、沢山魔物を倒した後のライムを比べれば、はっきり分かるんじゃない?」

 俺の提案に、ソフィーネが頷く。

「……多分。試してみる価値は、ある、と思う」

 もしこれでライムが強くなるのなら、流れてくる魔力は経験値の様な役割を果たしているということになる。
 今まで誰もきちんと検証出来なかったことが、証明出来るかもしれない。
 おぉ、少しワクワクしてきたぞ。

 俺が一人でテンションを上げていると、思い出したようにジャックスが呟く。

「と言うかソフィ、お前、嫌み以外でも長文話せたんだな」

「……うるさい」

 少し頬を赤らめつつ、ジャックスを睨むソフィーネ。
 そんな二人に苦笑しつつ、俺たちは早速検証に乗り出すことにした。
 
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