新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

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修行する蛙 2

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 俺とトンボはそれからこっそりとカワズさんを観察してみることにした。

 ただ、気がすむまでやったら収まるだろうと思っていたカワズさんの修行は、まだこれでも序の口だった。

 カワズさんの修行はその後も苛烈を極め、時には岩を背負って山を走り。時には激流を遡る。

 嵐の中、竹の足場の上で決まった動作を何度も繰り返していた時は正気を疑ったし、雷の降る中山の山頂で座禅を組んでいた時は心配すらしたものである。

 ある日の俺は家のリビングで呆然としながら頭を抱えていた。

「……何やってんだカワズさん」

「……やっぱ、タロが謝った方がいいって」

 そしてトンボちゃんの指摘にどきりとした。

「い、いや。まぁ蛙にしたのは俺ですよ? 俺ですけど、今更謝るのっておかしいじゃないですか? お互い悪かったってそれで終わった話なんですし。蒸し返すのもどうなんでしょう?」

「密かに気にしてるんだって。言っちゃいな? 謝るのなんて一瞬だよ? とりあえず額の皮が剥けるくらいこすり付ける所から?」

「……とりあえずのハードル高くない?」

 ぼそぼそと囁きあう俺はトンボの指導の下、木を削る。

 葛藤しながら気分をごまかすように、木片を削りだしていた俺は肩を叩かれて、振り返る。

 そこには蛙がいた。

「にゅおう! カワズさん! なに!」

「にゅおうってお前。やけにでっかいリアクションじゃのぅ」

 声をかけたカワズさんは俺の声に驚いて目を丸くしていた。

 だが驚いたのは俺の方だ。なにを言われるかと身構えていると、カワズさんは極普通のテンションで言った。

「組手がしたいから相手を用意してくれんかのぅ? ざっと百人ほど」

「……はい?」

 俺は耳を疑って、木片をしまうと、思わず聞き返す。

「組手の相手を用意しろ? しかも百人?」

「うむ。頼む」

 なんというか――正気の沙汰とは思えない。

 これが修行の延長線上だと言うのなら、何が彼をそこまでさせるのだろうか? 

 俺は眩暈を覚えて、カワズさんの肩を掴んだ。

「カワズさん……。悩みがあるなら聞くけども?」

「なんじゃ急に? 気持ちが悪い。そんなことよりも、組手の相手を……」

「何か気になっていることがあるんじゃないだろうか!? 今なら俺は世の中に優しくなれる気がする!」

「だから何の話をしとるんだ!」

 何とか本音を聞きだそうとする俺に、カワズさんは青筋を立てて怒鳴る。

 俺はしかしサッと視線を逸らした。

「いや……何って事ではないけど」

「なんじゃい、変な奴じゃな?」

 訳が分かっていなさそうなカワズさんだった。

 カワズさんだって一度許した話なのだ。

 今更「やっぱ蛙やだから、人間にして!」なんて俺の方から言い出せるはずがない。

 とりあえず俺は遠まわしに修行の辺りの事から尋ねて見ることにした。

「……だってさ。なんだって、百人組手? カワズさんなんかもう完全に格闘家だよね?」

 どう考えてもおかしいだろうと、暗に尋ねる。

 すると思い当たる節があるのか今度はカワズさんが動揺して両手を振って否定した。

「い、いや。そんな事はないぞ? あくまで趣味でやっておるだけで」

「あー。じゃあ、この質問に答えてみてよ」

「んん? なんじゃよ?」

 俺は即興で考えた心理テストを試みた。

「俺の手元に杖と、ヌンチャクがある。さぁどっちが欲しい?」

「ヌンチャク」

「即答か。もう根っからの格闘家じゃないか」

「! いや、気になるじゃろヌンチャク! 無理矢理こじつけるんじゃないわい!」

 カワズさんが慌てて叫ぶが、もはや手遅れである。

 ヌンチャクという言葉の響きが面白いという事を考慮したって、こんな見え透いた質問で即答は勘弁してほしいものだ。

 俺は渋い顔で、言葉を濁した。

「だって……なんていうか。このまま武道を邁進させていい物かと不安になってきたんだよ。一魔法使いとして」

 しかしカワズさんは俺の物言いが気に食わなかったのか、子供の様にぷいっと顔を背けた。

「ふん! 趣味にとやかく言われる筋合いはないわい!……それに、武道での物の考え方は魔法に通じる所がないわけではないんだしのぅ」

「そ、そうなの?」

 カワズさんは鼻を鳴らし、こちらとしては思っても見なかった、意味ありげなことを口走ったのである。

 何も言えないでいる俺に、特大のため息を吐いたカワズさんは面倒くさそうに肩をすくめた。

「わかったら、さっさと頼めるか? 今のわしの相手になる様な猛者を百人も調達するのはさすがに難しいんでのぅ」

「そんなに難しいなら百人組手なんてやらなきゃいいのに」

 俺は思わず身も蓋もないことを言ってしまうが、カワズさんは険しい顔つきで、拳を握り締め言うのである。

「バカこけ! 男にはやらなきゃならない時があるんじゃ!」

「おお……無駄にカッコイイな。でも思い付きだよね? その上趣味だし」

 今回の苦行の数々を観察していればカワズさんが本気だという事くらいはわかる。

 俺の今のメンタルではとても拒否なんて出来るわけがなかった。

「わかった。そこまで言うなら……じゃぁ、地下になんかそれっぽい奴を作ってみるよ」

「まったく……なんなんじゃ一体? じゃあ先に行っておるからな?」

 地下に歩いていくカワズさんの背中を眺め、俺は飛んできて俺の肩に止まったトンボに見つめられた。

 おしゃべりなトンボが何も言わない。

 じーっとただ見ているだけのトンボが何か言い出す前に、根を挙げたのは俺の方だ。

「いやだってさ! やっぱ言えるわけねーよ!」

「わたしは、何にも言ってないよ」

「うううう……承諾してよかったんだろうか?」

 トンボは俺達を観察していた様だったが、難しい顔をしていた。

「どうだろう? いいんじゃない? 本人の希望だし」

「そ、そうだな。そうしよう」

 俺達も方針を決定してカワズさんの後を追った。
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