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56 世界樹だぞ

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「あれぇ……!? なんでえええええええ……!?」

 目が覚めると、俺は世界樹のすがたに戻っていた。
 なんということだ。せっかく人間のすがたになって、今までいろいろやってきたのに。
 そこに、エルフのエラがやってきた。

「なあ、エラ。これはどういうことなんだ……!?」
「おそらく、長時間分身を出していたからでしょうね。分身は信仰パワーのおかげで形作られていますが、それも永遠にというわけにはいきません。それに、魔法の練習をしたことで、かなりの魔力を消費していました。分身に込められた魔力が枯渇したことが原因かと思います」
「そういうことか……」

 なら、もう一度信仰ポイントを使って、分身をつくればいいだけだ。
 俺はもう一度分身を作ろうとしてみる。
 しかし、分身はあらわれない。
 どういうことだ。

「あれ……? おかしいな、分身が出ないぞ……」
「おそらく疲労が原因でしょう。しばらく信仰ポイントや魔力をチャージする期間が必要でしょうね」
「そうか……それはだいたいどのくらいだろうか」
「おそらくですが、月か年単位でかかるかと……。セカイ様はそのくらい長い間分身になられておりましたから」
「そんなにながくか……」

 せっかく魔法もうまくなってきたところなのに……。
 くそ……。世界樹のままだと、なにもできないじゃないか。
 俺はまたなにもできない、動けない身体に後戻りか。
 だけどまあ、理屈は理解できる。
 そりゃああんな便利な分身状態でずっといられたら、チートすぎるもんな。
 俺のもともとの身体は、あくまでこの世界樹のからだなんだ。
 それをつい忘れていた。
 どこまでいっても、人間の肉体は俺が信仰ポイントと魔力で作り出した分身でしかない。
 結局、俺はこの身体でどうにかするしかないようだ。

「はぁ……じゃあまたしばらくは暇だな……」

 せっかく国に娯楽施設などを作って、楽しく暮らせていたところなのに。
 木の身体じゃ、またひまなままだ。
 俺はおとなしく、魔力がチャージされるのを待つことにした。


 ◆


 街で問題が起こった。
 ドラゴンが何匹も入植したことで、食料がかなり減ってきている。
 ドラゴンはその大きな体を維持するためか、かなりの大食漢だ。
 それにドラゴンは野菜が嫌いで、肉しか食わない。
 肉はワーウルフたちが狩りで確保していたけど、それも限界だ。
 狩りだけでは十分な肉が確保できなくなってきている。

 ということで、俺は肉を確保することにした。
 さて、いつものように信仰ポイントのメニューを開いて……っと。

 メニューを開いたはいいものの、これ、どうやって操作しようか。
 信仰メニューは、タブレット端末のように、タッチで操作する。
 操作画面が空中に浮いていて、それを手でタッチして操作する仕様だ。
 だけど、今のこの世界樹の身体じゃ、操作なんかできない。

 まさか、世界樹の身体のままじゃ、信仰ポイントをロクに使うことさえできないのか……!?
 くそ、そんなの不便すぎる……!
 本来ならもっと、こまめに世界樹の身体に戻って、魔力をチャージするべきだったんだろうな。
 俺が調子にのって、長い間人間の身体でいたせいで、こんなに長い間チャージが必要になったんだ。
 くそ、もっと考えておけばよかった。
 そりゃあ、人間の身体になれるのに、なんの制約もないほうがおかしい。
 少し考えればわかることだった。

 くそ、信仰ポイントを使えないんじゃ、創造も、設置も購入もできないぞ。
 これじゃあ、なにもできないのと同じだ。
 そうだ……!
 じゃあ、世界樹の枝でタッチすればいいのでは……?
 俺はそう考えた。
 根っこが動かせるのなら、枝も動かせるんじゃないのか。
 俺は枝の先に意識を集中させ、それを動かした。
 動いた……!

 俺の枝はまるで触手のように動いた。
 俺はそれを、画面の前にもってくる。
 そして購入メニューをタッチだ。
 しかし、反応がない。
 あ、これもしかして、人の手じゃないと反応しないパターンのタッチパネルか……!
 スマホとかでも、布ごしとかじゃ反応しないんだよな。
 手袋をしたままスマホをタッチできないのと同じ原理だ。
 くそ……まさかこんなところまでタッチパネルと同じ仕様だなんて……。
 
 この世界樹の信仰ポイントシステムを作ったやつに文句を言いたい。
 誰だ……?
 俺を転生させた女神がこういうのの仕様を決めているのだろうか。
 だったら女神に一言いってやりたい。
 
 まあ、とにかく使えないのなら、しょうがない。
 なにか信仰ポイント以外で、肉を大量に手に入れる手段を考えよう……。
 肉と言えば、そうだ。
 家畜を飼って、牧場を作れば安定供給ができるぞ。
 だけど、どこから家畜を連れてこようか。

 とりあえず、その前に柵だな。
 俺はエルフに通訳を頼んだ。
 そしてドワーフやゴブリンたちに、家畜ようの柵を作らせる。
 これで準備はよし。

 あとは家畜をどうやって捕まえてくるかだが……。
 俺に今できることと言えば、枝を動かすくらいだ。
 なら、それを使ってどうにかするしかない。
 ちょっとまて、この枝ってどこまで伸びるんだ……?

 俺は背の高い世界樹だ。
 だから、森の外まで、かなりの範囲を見渡せる。
 そして、俺の目から、草原が見えていた。
 草原には、たくさんの羊がいた。

 あれをなんとか連れてこられればいいんだけどな。
 もしかして、草原まで枝が伸びたりしないかな……。
 俺は、枝をちょっと伸ばしてみた。
 すると、枝は思ったよりも伸びる。
 おお……!
 これならなんとか……!

 俺は枝を伸ばして、草原の頭上までやってくる。
 これで羊を捕まえよう。
 俺はまるでユーフォーキャッチャーのように、羊を捕まえる。
 キャトルミューティレーションだ。
 枝で羊を捕まえて、それを家畜の柵まで持ってきて、入れる。
 おお……!
 これで羊捕まえ放題だぞ……!

 それにしても、まさか枝がここまで自由に動くとはな……!
 これなら、世界樹の身体のままでも、かなりいろんなことができそうだ。

 俺は数時間かけて、大量の羊を捕まえてきた。
 他にも、牛なども捕まえた。
 牛からは牛乳がとれるから、かなりお得だ。
 そしてニワトリも捕まえた。
 これで卵にも困らない。
 
 これで、大規模牧場の完成だ……!
 牧場の管理は、国のみんなで手分けしてやることになった。

 
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