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俺、慕われる
しおりを挟む初めて見た時から目が離せなかった。生きているのか?人形じゃないのか?そう思うほどに全てが整っていた。
言葉数は少ない、表情も乏しい。だが時折見せる嬉しそうな顔や悲しそうな顔に目が釘付けになる。名前を教えて欲しいと言われた時には、天にも登る気持ちだった。
ジンさんと遠慮がちに呼ぶカーラ様。あぁ…美しい。この世界の事が知りたいと教えを乞うてくる。騎士団の言葉に一番反応していたが…。あなたとは無縁の場所ですよ。獣人、男しか存在しないと知った時には心底悲しそうな表情をされていた…。
「騎士団に所属していると言っていましたが
…見学は出来ますか?今から…」
あんな野蛮な奴が多い場所に連れて行ったら…心配だ…。ダメですよ、危険ですよと、目で教えてあげる。
「二人とも強そう…です…剣を振るっている姿を…見てみたいです…カッコイイと…思います…」
くっ…こんな…こんな嬉しい事を…カッコイイ?カーラ様の口からカッコイイと…歓喜のあまりに震える。
だが、訓練場に向かうまでに団長に見つかってしまった…。最悪だー。案の定怒られる。拳骨の一発二発ぐらいは覚悟したが、カーラ様の行動に驚く。なんと俺達を身を呈して庇ったのだ!!信じられない…俺でさえ団長の強面は少し怖いのに…。美しく気高いカーラ様。短い間にこんなにも心惹かれるなんて…。
翌日、エレ様がカーラ様にお会いしたいと言うので部屋にお通しした…。俺達は外すようにと…仕方なしに部屋の外でクルトと共に待機する。そして…ニコ様の部屋で二度目の奇跡を目の当たりにする。もう…いつ亡くなられてもおかしくなかったニコ様が…回復なされたのだ。団長の事と言い…本当に神子様ではないのか?と疑問に思う。
そして、放たれた警告の言葉…。まさか全てを見通して…。だがこれ以上は教えられないとばかりに口を閉ざすカーラ様。
急いでシヴァ様に報告に向かう。事は急を要す。これは重大な王族に対する反逆罪だ。シヴァ様に事のあらましを説明し、今後の対応策を講じる。カーラ様あなたのお陰で、城内に蔓延る膿を絞り出せそうです。
カーラ様の元に戻る途中、まさかのご本人に出会った。おかしい…何故こんな所を走っている?それに涙の跡が…そっと指でなぞる。
「カーラ様…」
体が震えている。何かを訴えかける目。胸騒ぎがする。何があったんだ…。
「何故一人なんですか?クルトは?」
少し間が空きカーラ様が言った。
「今は…鬼ごっ…追いかけっこ!!そう、追いかけっこをしています!!離して…欲しいです…?」
そんな見え透いた嘘を…。何に怯えているんですか…。大丈夫です。俺が守ってあげます。カーラ様を抱き締めた腕に力を込めて伝える。
「泣きながら追いかけっこですか…」
会話を続けようとした時、
「カーラ様ー!!!!」
クルトの焦ったような叫び声が聞こえる。間違いなく何かあったな…後でクルトにじっくりと聞かせて貰おうか。
▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣
最悪だッ!!どうしてこんな事に…。ベッドで横たわるカーラ様を見て、自分の不甲斐なさを痛感する。
神子様に何度も護衛の断りを入れていた。カーラ様も何か言われたらしく、護衛から外れても大丈夫、神子様を護衛しなくていいのかと、しきりに聞いてくる。俺はカーラ様をお守りしたいんです。
そして、ついに痺れを切らした神子様が行動に出た。神子としての務めを果たさないと…。シヴァ様に申し訳ないが、一日だけでいいからとお願いされ、クルトと共に護衛につく事になった。心配だ…。
カーラ様に笑顔で行ってらっしゃいと見送られる。嬉しいやら悲しいやら…複雑な気持ちだ。非常に後ろ髪を引かれる思いだが…神子様か…はぁ…。
「ジン様ー!!クルト様ー!!お会いしたかったです!!」
耳がキーンとなる程、甲高い声。煩い。この神子様は初めから俺達の名前を知っていた…何故だ?予知力か?
「どうして護衛を引き受けてくださらないんですかぁ?僕、寂しくて…。
この世界にいきなり召喚されて不安だし…」
上目遣いで抱きついてくる神子様。今すぐにでも腕を振りほどきたい…。
「すみませんが、俺はカーラ様の護衛なので」
「カーラ?あぁ、あのエルフか。でも神子は僕だよ?あの人はおまけでしょ?」
カーラ様の事を鼻で笑い馬鹿にする。今すぐこの場から去りたいが、今日一日だけだと、ぐっと堪える。その後も媚びをうる言葉に態度。勘弁してくれ。
そんな時、一人の従者が慌てて部屋に転がり込んできた。カーラ様が襲われたと…。血の気が引くとはこの事か。俺の足は部屋の外へと向かって、自然に駆け出していた。
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