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俺様114箇条
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「エリス、お前の婚約が決まった」
9歳の時、エリスは、突然、夕食の席で父のバレット伯爵に告げられた。
公爵家の嫡男で同い年のネイト・ガーランドとの婚約成立を。
父は上機嫌でいつもより多めにワインを飲んでいた。
それも道理で、皇帝の従兄弟であるガーランド公爵は帝国内で権勢を誇る宰相。
エリスの父はその下で財務監査官を務めており、おかげで幸運な話が舞い込んだという。
「宰相閣下に呼び出されて仕事ぶりを褒められたあと、お前とご子息との婚約の話を頂いたのだ」
誇らしげに言う父の横で母がエリスに言い聞かせる。
「こんな夢のような良縁が頂けたのはお父様の働きぶりのおかげですよ、エリス。感謝なさいね」
確かにまだ子供のエリスが聞いても、この上なく恵まれた縁談のように思えた。
それから一週間後。
両親と共に招かれたガーランド公爵邸の広々した庭で開かれた盛大なガーデンパーティー。
恋に恋する年頃のエリスは会場に着いてからずっとそわそわして落ち着かなかった。
「ねぇ、なぜか婚約相手を紹介されないんだけど、私から挨拶に行くべきかしら?」
偶然会った物知りな幼馴染に相談すると即助言が返ってくる。
「女の方から行くのははしたないと思うな。こういうのは男の方から来るのを待つべきでは?」
しかし、いくら待っても向こうから来ないので、こっそり様子を見てくることにした。
「ねぇどの人か知ってる?」
再度、幼馴染みに質問すると指さしして教えてくれる。
「あの庭のど真ん中の席に座っている黒髪がガーランド公爵令息だよ」
さっそく見つからないよう慎重に近ずき、物陰から婚約者を観察したエリスは目を見張った。
同い年な筈なのに、そこにいたのは11歳以上に見える、クールな切れ長の瞳の大人びた美少年だったからだ。
「どうしよう、物凄く格好いい人だった!」
戻ったエリスははしゃいで報告し、高鳴る胸と熱くなる頬を押さえ、再度待ち続けた。
密かに遠目に観察していると、多くの子供達が固まって遊んでいる中、婚約者のネイト・ガーランドはずっと一人でつまらなさそうに椅子にふんぞり返っている。
まったく挨拶に来る気配はなく、エリスが痺れを切らしていた頃、母がすっ飛んできた。
「急いで、ネイト様にご挨拶に行きなさい!」
有無を言わせぬ口調に促され、仕方なく近づいて行くと、真っ青な瞳を向けてきたネイトはエリスの顔を見るなり、ふんと鼻を鳴らした。
それから口にした言葉はエリスにとって何年経っても忘れられないほど衝撃的だった。
「挨拶に来るのが遅い!」
しかも文句は続いた。
「会場に着いたら、まっさきに婚約者の俺の元へ来るべきだっただろう?」
とりあえずエリスは謝った。
「申し訳ございません」
ネイトは長い長い溜め息をつき、
「初めてだから今日のところは許してやろう」
寛容な言葉をくれた後、エリスの姿をじろじろ見回しこう言った。
「まあ、見た目は俺の婚約者として合格だな」
エリスの期待に膨らんでいた胸がしぼみきった瞬間だった。
さらにその2年後の11歳の時。
母親同士が集まるお茶会に同行したエリスは、相変わらず一人でいるネイトを横目にしつつ、幼馴染みと楽しく会話していた。
あえて近づかないでいると、ネイトの方からやってきて、一枚の紙を押し付けるように渡される。
「こ、これは?」
とまどいながら質問すると、ネイトはふんと鼻を鳴らして答えた。
「俺が作った婚約者の心得5箇条だ。さっそく声に出して読み上げてみろ」
威圧的な命令口調で言われたエリスは仕方なく従う。
「一つ、何よりも俺を優先しろ。
二つ、俺に逆らうな。
三つ、俺以外の男に話かけるな。
四つ、俺以外の男に笑いかけるな。
五つ、俺以外の男を見るな。
なお、一つでも違反した場合、婚約破棄される覚悟をしろ」
のちにその5箇条は114箇条にまで増えた。
さらにその2年後の13歳の春。
王侯貴族の子女が通う帝立学院に入学したエリスは、ネイトと同じクラスになってしまう。
毎朝ネイトの乗った馬車が迎えに来て、一緒に登校。
授業中も、お昼も、帰りも、休み時間まで毎日一緒に過ごすハメになった。
それから3年後の16歳。
上級学年に進み、それぞれ専門科に進級。
やっとクラスが離れてエリスはほっとする。
そして現在、18歳。
最終学年を迎え、帝立学院からの卒業を意識し始めた秋。
たとえようもないぐらいエリスは憂鬱だった。
なぜならネイトの強い希望で卒業と同時に結婚が決まっていたからだ。
9歳の時、エリスは、突然、夕食の席で父のバレット伯爵に告げられた。
公爵家の嫡男で同い年のネイト・ガーランドとの婚約成立を。
父は上機嫌でいつもより多めにワインを飲んでいた。
それも道理で、皇帝の従兄弟であるガーランド公爵は帝国内で権勢を誇る宰相。
エリスの父はその下で財務監査官を務めており、おかげで幸運な話が舞い込んだという。
「宰相閣下に呼び出されて仕事ぶりを褒められたあと、お前とご子息との婚約の話を頂いたのだ」
誇らしげに言う父の横で母がエリスに言い聞かせる。
「こんな夢のような良縁が頂けたのはお父様の働きぶりのおかげですよ、エリス。感謝なさいね」
確かにまだ子供のエリスが聞いても、この上なく恵まれた縁談のように思えた。
それから一週間後。
両親と共に招かれたガーランド公爵邸の広々した庭で開かれた盛大なガーデンパーティー。
恋に恋する年頃のエリスは会場に着いてからずっとそわそわして落ち着かなかった。
「ねぇ、なぜか婚約相手を紹介されないんだけど、私から挨拶に行くべきかしら?」
偶然会った物知りな幼馴染に相談すると即助言が返ってくる。
「女の方から行くのははしたないと思うな。こういうのは男の方から来るのを待つべきでは?」
しかし、いくら待っても向こうから来ないので、こっそり様子を見てくることにした。
「ねぇどの人か知ってる?」
再度、幼馴染みに質問すると指さしして教えてくれる。
「あの庭のど真ん中の席に座っている黒髪がガーランド公爵令息だよ」
さっそく見つからないよう慎重に近ずき、物陰から婚約者を観察したエリスは目を見張った。
同い年な筈なのに、そこにいたのは11歳以上に見える、クールな切れ長の瞳の大人びた美少年だったからだ。
「どうしよう、物凄く格好いい人だった!」
戻ったエリスははしゃいで報告し、高鳴る胸と熱くなる頬を押さえ、再度待ち続けた。
密かに遠目に観察していると、多くの子供達が固まって遊んでいる中、婚約者のネイト・ガーランドはずっと一人でつまらなさそうに椅子にふんぞり返っている。
まったく挨拶に来る気配はなく、エリスが痺れを切らしていた頃、母がすっ飛んできた。
「急いで、ネイト様にご挨拶に行きなさい!」
有無を言わせぬ口調に促され、仕方なく近づいて行くと、真っ青な瞳を向けてきたネイトはエリスの顔を見るなり、ふんと鼻を鳴らした。
それから口にした言葉はエリスにとって何年経っても忘れられないほど衝撃的だった。
「挨拶に来るのが遅い!」
しかも文句は続いた。
「会場に着いたら、まっさきに婚約者の俺の元へ来るべきだっただろう?」
とりあえずエリスは謝った。
「申し訳ございません」
ネイトは長い長い溜め息をつき、
「初めてだから今日のところは許してやろう」
寛容な言葉をくれた後、エリスの姿をじろじろ見回しこう言った。
「まあ、見た目は俺の婚約者として合格だな」
エリスの期待に膨らんでいた胸がしぼみきった瞬間だった。
さらにその2年後の11歳の時。
母親同士が集まるお茶会に同行したエリスは、相変わらず一人でいるネイトを横目にしつつ、幼馴染みと楽しく会話していた。
あえて近づかないでいると、ネイトの方からやってきて、一枚の紙を押し付けるように渡される。
「こ、これは?」
とまどいながら質問すると、ネイトはふんと鼻を鳴らして答えた。
「俺が作った婚約者の心得5箇条だ。さっそく声に出して読み上げてみろ」
威圧的な命令口調で言われたエリスは仕方なく従う。
「一つ、何よりも俺を優先しろ。
二つ、俺に逆らうな。
三つ、俺以外の男に話かけるな。
四つ、俺以外の男に笑いかけるな。
五つ、俺以外の男を見るな。
なお、一つでも違反した場合、婚約破棄される覚悟をしろ」
のちにその5箇条は114箇条にまで増えた。
さらにその2年後の13歳の春。
王侯貴族の子女が通う帝立学院に入学したエリスは、ネイトと同じクラスになってしまう。
毎朝ネイトの乗った馬車が迎えに来て、一緒に登校。
授業中も、お昼も、帰りも、休み時間まで毎日一緒に過ごすハメになった。
それから3年後の16歳。
上級学年に進み、それぞれ専門科に進級。
やっとクラスが離れてエリスはほっとする。
そして現在、18歳。
最終学年を迎え、帝立学院からの卒業を意識し始めた秋。
たとえようもないぐらいエリスは憂鬱だった。
なぜならネイトの強い希望で卒業と同時に結婚が決まっていたからだ。
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