冷徹王太子の愛妾

月密

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六十話

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 ブルマリアス国の支配下にあるユベルド国に目的の港があった。
 レアンドルは数人の配下を連れ、この土地を治める領主へと会いに向い残されたベルティーユや騎士団員等は暫くその場で待機する事になった。

「待たせてすまなかったな」

 数時間後、レアンドルが戻って来ると場所を移動する。着いた先は、今は使われていない屋敷だった。先に手紙で知らせを送り、受け入れ準備をしておいて貰っていたそうだ。

「港にリヴィエの迎えの船が来るまでの間、この屋敷で過ごす」

 早馬を近隣の元中立国であるルメール国へと向かわせた。そこからリヴィエへと知らせを出して貰う手筈となっていという。その為少し時間を要する。回りくどい感じがするが、敵対する国同士ならば普通の事だ。



「レアンドル、様……?」
「すまない、起こしてしまったか」

 この屋敷に滞在して十日余り。別段何かが起こる事もなく穏やかに過ごしていた。
 そんなある日の深夜、隣から温もりがなくなった事に気付いたベルティーユが目を覚ますと彼は窓辺で一人佇んでいた。

「いえ、大丈夫です。それよりどうされたんですか。眠れませんか?」
「まあ、そんな所だ」

 ベルティーユはベッドを抜け出し、苦笑するレアンドルの横に椅子を持って行くとそれに座った。そして彼に倣い窓の外の月を見上げた。漆黒の空は雲一つなく、少し欠けた金色の月が輝いている。それはとても美しい光景だった。

「なあベルティーユ……やはり君は」
「今更私を置いて行くなんて言わないですよね」

 不意に掛けられた言葉に先手を打つと、彼は眉根を寄せた。

「ベルティーユ、俺は心配なんだ。今ならまだ間に合う」
「……それは、私も同じです。それに、私よりもレアンドル様の方が遥かに危険なんですよ?」
「分かっている」

 兄の事は信じている。ただ一抹の不安はある。あの手紙を見た時に、確かに兄の筆跡ではあったが別人が書いたのではないかと一瞬疑ってしまった。兄は何時も必ずベルティーユを気遣う言葉を書いてくれていた。例え定例分の様な手紙でも、温かさを感じていた。だがあの手紙にはまるでそれが無かった。ベルティーユの事をブルマリアス国王の妾と称し、言葉遣いも冷たく突き放す様な感じを覚えたが思い違いだと信じたい。

「レアンドル様……私、もう一度リヴィエへ手紙を書きます。そして兄にはルメールへと出向いて貰える様に嘆願してみます」
「それこそ今更だろう。此方は言わば加害者の立場だ。余計な要求をすれば向こうが臍を曲げ兼ねない。そうなれば会談の機会は失われる。今回機会を逃せば、また数十年いや何百年も戦が続くかも知れない」

 レアンドルは、拳を握り締め顔を歪ませる。彼の怒りや悔しさがヒシヒシと伝わってきた。

「だからこそ、あの和平条約は希少な機会だったんだ。それなのにも関わらず、それをあの人は踏み躙った。あのままリヴィエと和平条約を結ぶ事が出来て入ればこんな事にはならなかった筈だ」

 確かに彼の言う通りだ。ただもしもあの時ブランシュが死ぬ事がなかったら、和平条約が問題なく結ばれていたとしたらーー今こうしてベルティーユがレアンドルの側にいる事もなかった。彼から愛される事も彼を愛する事も……なかった。もしかしたら、今頃クロヴィスと結婚していたかも知れない……。そう考えると何とも言い難い気持ちになる。

 私は自分勝手で酷い人間だ。そんな事は嫌だと思ってしまった。
 ベルティーユは、レアンドルの顔を見ていられず俯きキツく目を瞑った。

「だが、そうなれば君とこうして愛する事も愛される事もなかった。そんなのは、俺は嫌だ」
「っ⁉︎」

 まるで子供の様に言い捨てると、彼から抱き締められた。
 驚いて顔を上げると貪る様な激しい口付けをされた。


「すまなかった……」

 ベッドに腰掛け項垂れるレアンドルの背中にベルティーユは擦り寄り抱き付く。
 あの後、興奮した様子のレアンドルはベルティーユを窓辺で抱いた後そのままベッドに移動し更に二回程果てた。そこでようやく彼は正気を取り戻し今に至る。

「私はレアンドル様に抱いて貰えて幸せなんですから、謝らないで下さい」
「ベルティーユ……」
「ふふ、また元気になっちゃいましたね」
「っ……」

 寝衣の上からでも彼のものが反り上がっているのが分かり、ベルティーユは悪戯心が芽生え上から摩ってみた。するとまるで生きているみたいに、ピクピクと反応をする。彼の顔を覗き込めば悩まし気な表情を浮かべていた。

(レアンドル様、可愛い……)

「ベルティーユっ」
「え、あっ……‼︎」

 視界が大きく揺らぎ、気付けばまたベッドに組み敷かれていた。

「煽る君が悪い」

 結局その後、外が明るくなるまでレアンドルにベルティーユは貪られ続けた。
 
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