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寝落ちてしまったフィーリアは、一宿の恩を彼らに返す。
第9話 夢を見てはいけない(1)
しおりを挟むえぇぇ、困った。どちらかなんて聞かれても――。
「えっと……両方?」
「はぁーっ?! お前、ハッキリしろよ!」
「アンタが答えを出してくれないと、ボクたちの決着がつかないんだけど」
ここまで綺麗にハモるくらい気が合うのなら、いっその事好きな物も同じだったら良かったのに。
そもそも自己主張が苦手な上に味の好みも特に無い私に、そんな問いをする事自体が間違っているのではないだろうか。しいて言うなら甘いものが好みだけれど、どちらも勿論甘くないし――なんて思っている事など、この二人はまさか知る由もない。
困り顔で焦っていると、ふと二人の手元に目がいった。
二人は既に串を二本ともぺろりと平らげてしまっていた。ディーダが残った棒でノインをピッと差しながら「こうなったら別の方法で決着を付けるか?」などと言っている。
昨日初めて出逢った時も思ったが、彼らはひどく痩せている。たとえ昨日今日と二食続けてご飯を食べる事が出来たところで、そう簡単にガリガリの体が健康体になる訳ではない。
一切れずつ食べたとはいえ、私の手にはまだ幸いにも二本とも串が残っている。
おあつらえ向きに彼らが好きなタレと塩が一本ずつだし、刺してある肉の数も等数だ。おそらく二人がケンカになる事はないだろう。
「あの、二人とも、これ食べますか?」
子供にお腹は空かせられない。だからこれは私にとって、至極当たり前の選択だった。
しかし彼らは二人して「はぁ?」と言いたげな顔になる。
「お前バカだろ。何で自分の飯を他人にやるなんて発想になる」
「だってそんなにガリガリでは体に悪いですよ。もっとたくさん食べてちゃんと栄養を付けないと」
「はぁ、アンタ変な事言うね」
「えっ」
理由を話せばお礼を言われるか、最悪無言でも受け取ってはくれるだろうと思っていた。それが、何故か更に妙なものを見る目を向けられてしまった。
何故。
思わずキョトンとしていると、心底呆れたような声でディーダがぶっきらぼうに言う。
「言っとくけど、お前も似たようなもんだからな?」
「え?」
「痩せこけてんだろ、お前だって」
「え、あ……」
そういえば、昨日水たまり越しに見た自分の姿は、一年前とは比べ物にならないくらいやせ細っていた。彼らに「他人の事、言えないだろ」と言われても仕方がないような風体だったかもしれない。
ディーダの口から舌打ちと共に「自覚無しかよ」という言葉まで投げられてしまい、恥ずかしくなって思わず俯く。
「ホントに変なヤツだな、お前。そもそもそんなじゃなくったって、普通は自分の取り分を他に分けたりしないんだよ。食え!」
面倒くさそうに手でシッシッとあしらわれて、そういうものかと独り言ちた。食欲がないという訳でもないので、続きを再びモグモグと食べる。
幾分か冷めた肉だったが、それでも十分美味しい。
気が付けば口元を綻ばせている自分が居た。そして気が付く。
あぁ、食べるって幸せな事なんだな。
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