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寝落ちてしまったフィーリアは、一宿の恩を彼らに返す。
第8話 銀貨一枚のすごさ(2)
しおりを挟む早々に自分の取り分を食べ始めた二人を少し観察し、なるほどこれもかぶりついて食べるのか、と密かに学ぶ。
昨日といい、今日といい、どうやらここでは銀食器を使って食事をしないのが普通らしい。私が知っているお肉の食べ方は、やはりナイフで切り分けてフォークで口へと運ぶ方法しかなかったから、こういう食べ方はかなり新鮮だ。
昨日食べたジャガイモも、今まで食べていたものとは違う美味しさがあった。もしかしたら、このお肉も今までとは違う味わいがあるのかもしれない。
少しドキドキとしながら、まずは右手のタレの方をエイッとかじる。
まず口の中いっぱいに、少し焦げたタレの香ばしさが広がった。パリッとした表面の食感と、中からジュワリと染み出る肉汁。濃厚なタレは絡みつくかのようなとろみだが、持って帰ってくる間に少し冷めたのか、温度も良く火傷はしない。
「……美味しい」
口元を押さえながら言葉を零すと、ディーダがフフンと得意げになる。
「ほら見ろやっぱりタレだろうがっ!」
「ちょっと、まだ塩を食べてないから。食べたら一目瞭然だから」
反論したノインが急かすような目を向けてきた。モグモグゴックンとタレ味のお肉を呑み込み、今度は塩味の串にエイッと噛り付く。
驚いた。
多分素材は、先程のタレと同じ肉だ。にも関わらず、味わいがまるで違っている。
鼻を抜ける香ばしさはないが、代わりに肉本来の甘みがよく分かるサッパリとした味付けだ。食べれば食べるほど深くなる旨味は、おそらく塩味だからこそ味わえるものなのだろう。
「美味しいです……」
肉を噛み締めながら、美味しいものを美味しいと感じられる幸せも噛み締める。
おそらく肉自体は、それ程品質の良いものではない。それこそ屋敷で昔食べていたような質のいい肉とは比べものにならない。
それでもとても美味しいのは、ここ一年は、これほど大きな肉の塊をろくに食べていなかったからか。それとも誰かと一緒に食べているからか。
どちらにしても、美味しいのだ。まどろむように余韻に浸っていると、二人分の影がにじり寄ってきた。
「で? 一体どっちが美味いんだよ」
「で? 一体どっちが美味しかったの?」
二人共からそれぞれに「タレだろ?」「塩でしょ?」という圧がものすごい。
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