ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
8 / 26
生粋の貴族夫人・フィーリアは、強い瞳の彼らに出逢う。

第4話 ふかしジャガイモの食べ方を知る(1)

しおりを挟む

 ◆

 多少のお金はあるにしても、この街の事などまったく知らない。
 思えば嫁いで来て以降、仕事で忙しかったザイスドート様から「一緒に街に降りよう」と言われた事はなかったし、私自身も特に街に対して興味を抱いた事が無かった。
 その程度の私だから当然、どこに行けば食べ物が買えるのかも知らない。結局二人に案内されるままにお店に入り、彼等が欲しいという物を三人分購入した。

 そうして連れて来られたのは、一軒の家。
 古い上に中に入ればほぼ全てが見渡されてしまうくらいの広さしかないその家は、隙間風は吹き込むし、薪がパチパチと爆ぜる音にまじって雨漏りの下に置いた器を水がピチョンピチョンと打つ音が聞こえる。 
 しかしそれさえ許容すれば雨ざらしになる事も無い、明かりも無く薄暗い室内も暖炉に火を入れたお陰で少しだけ明るくなった。


 できるだけドレスの水を絞ってから中に入った私はもちろんのこと、どうやら彼等にも着替え用の服は無いらしい。濡れネズミのまま、髪を拭く事も無くノインが早々に温かな火の側へと座り、買ってきた食べ物入りの紙袋の中を漁って丸い包みを一つ取り出した。

 続いてディーダも袋を漁り、すぐ近くの床にポスッと置いた。
 一緒に座って食べてもいいのだろうか。恐る恐る近付いてそろそろと座ってみたけれど、特に二人が怒る様子はなくて内心で少しホッとした。

 私も袋の中に手を入れる。取り出した球体は温かな熱を帯びていて、包みを空けると飾りっけが無く所々凸凹とした、薄茶色の皮の食べ物――ふかしジャガイモが顔を出した。

 しかしどうしよう。今まで食べた事のあるジャガイモは、どれも一口大に切ったものをスプーンやフォークで食べていた。
 こんな、口よりずいぶんと大きな状態で、食器もなしに、一体どうやって食べればいいのか。思わず眉尻を下げてしまう。
 パンのように手でちぎって食べればいいのだろうか。しかし湯気が出ていて熱そうだ。
 
 少し途方に暮れていると、目の端にちょうどノインが入った。
 彼はまず、ジャガイモに両手の親指を突き立てた。真ん中からパカッと割り、湯気が立ち昇る断面をフーフーと少し冷ました後で、パクッと食いつく。

 なるほど、あぁして食べるものなのか。
 半ば感心するように独り言ち、私も真似してみる事にする。しかし領の親指を突き立てた所で、何やら横からハフハフという息遣いが聞こえてきた。

 見てみれば、口を開けて必死に息をしている風の、涙目のディーダがそこに居た。
 どうしたのだろうと思っていると、すかさずノインの呆れ声を出す。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...