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第34話 皇太女外遊
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その後の式典の内容をウィルはよく覚えていなかった。新国王リーデガルドが総大主教から王冠を頭に被せられている場面は何となく覚えているが、その後皇太女となったリーンの警護としてレーメルと共に王から直々に紹介されている最中も純白のローブに身を包んだサチの姿が頭から離れなかった。
式典が終わり出席者が帰り始める頃になってようやく正気に戻ったウィルはその場を離れ、本部へ帰ろうとしている総大主教達の列へ向かい駆け出した。
「あ、ウィルどこへ!?」
リーンの声もウィルの耳には届かない。ウィルの心の中はサチと少しでも話がしたい、その事しかなかった。
「・・・リーン様」
レーメルが心配そうな顔でリーンに歩み寄る。
「やっぱり悔しいわね、幾度と無く肌を重ねる事は出来ても心が重なる事が無いのを痛感させられてしまう」
リーンが下唇を噛みながら思いの丈を正直に話す、本音を語ってくれるまで信頼して貰えている事にレーメルは喜びを感じるがリーンと同様に報われない想いを何時まで我慢出来るのか予想する事が出来なかった。
「サチ!」
ウィルの叫びを聞いて総大主教は足を止める、サチは総大主教の横を並んで歩いていた。
「ウィル様、どの様なご用件でしょうか?」
ニナ主教がウィルに近付きながら、答えの分かりきっている質問をしてきた。
「サチと少しだけでも話をさせてください」
「申し訳有りませんが、それは出来ません」
「何故です!?」
「彼女は未だ修行中の身、異性との交遊は大切な修行の妨げとなります。修行を終える日までお待ち下さい」
ニナ主教がウィルに会釈すると、総大主教達の列は何事も無かったかの様に再び歩き始めた。
「待ってくれ・・・サチ、サチ!!」
ウィルは更に大きな声で大切に想う女性の名を叫んだ、その叫び声はリーンとレーメルの場所まで届き2人は胸を締め付けられた。
「大主教達は先に帰りなさい」
総大主教はそう言うと、サチを連れて列の先頭を離れウィルに近付く。そして
パァン!! 総大主教はウィルの頬に平手打ちをしていた。
「なんですか、その見苦しい真似は!?彼女の気持ちを少しでも考えてあげた事が有るのですか!あなたへの想いを明かせずに苦しんでいる事に何故気付けないのですか!?」
(え、俺への想い!?)
ウィルは総大主教の隣に居るサチを見た、ローブで顔を隠しているがサチは・・・涙を流しながら泣いていた。
「来なさい、話が有ります」
総大主教に連れられて、ウィルは教会関係者の控え室に来た。
「本当はこのまま寄らずに帰るつもりだったのですが、そうもいかなくなりました」
今、この部屋の中には総大主教・ウィル・サチの3人しか居ない。また総大主教が遮音の術を使い中の会話が外に漏れない様にしてくれている。
「まず最初に言っておかないとならないのは、彼女は現在神より加護として1つのスキルを与えられております」
「1つのスキル?」
「ええ、そのスキルの名は【未来を掴み取る意思】己が願う未来への強い気持ちを失わない限り、その願いを叶える為の力と力を得る機会を与え続けてくれるという物です。ニナはこのスキルに気付く事は出来ませんでした、強大な力を持つスキルは同じだけの力を持つ者にしか見抜く事が出来ません、教会内でも彼女のスキルについて知っているのは私だけしかおりません」
総大主教に匹敵すると言われていたニナ主教も実際は及んでいない事を暗に教えられた。
「今が1番大事な時期なのです、その時をあなたの近くで過ごしてしまえばサチは望む力を手に入れる事が出来なくなってしまいます。あなたになら話しておいて問題は無いでしょう、サチのステータスの平均はこの短期間で既に5桁に達しております」
総大主教の話の内容にウィルは驚くしかなかった、神はサチの願いを叶える為にウィルに与えたのと同様の非常識なスキルを与えていた事になる。
「最初に祭壇まで移動する間にあなたのステータスも見させて頂きました・・・スキルメーカーですか。神も人の運命を変える力を与えるのに夢中になりすぎて後の影響を考えていない節が見受けられる」
総大主教がやや呆れ気味に話す、ウィルは先程平手打ちしてきた時と雰囲気が違っているのに気付き心に少し余裕が持てた。
「総大主教としてでは無く、1人の同じ女性としてお願いします。あと1年、あと1年だけ彼女が修行を終えるまで待って頂けませんか?そうすれば、サチはきっと6桁後半か7桁前半のステータスまで届く筈なのです」
「何故それが分かるのですか?」
「私も・・・昔、神よりスキルを与えられた者だからです。スキルの名と効果は明かせませんがそのお陰でレーメルさんとほぼ同じステータスですよ」
総大主教はさらっと勇者や騎士を上回る猛者だと明かしてくれた、そしてサチはその総大主教さえ上回りウィルと同等の力を手に入れる事が出来るのだと言う。
「ウィルさん」
サチがウィルに泣き顔のまま話しかけてきた。
「私はあなたの隣に立ちたい、守られるだけの存在で居たくない。お互いの背中を任せあえる、そんな関係になりたい。だから修行を終えるまで会う事は出来ません、会ってしまうと決心が揺らいでしまうから」
サチをこれ以上苦しめる訳にはいかない、ウィルは待つ事を選ぶ。
「分かったよサチ、君が修行を無事に終えるまで俺は待ち続ける。そして修行を終えた時には俺のパートナーとして一緒に旅をして欲しい」
「はい、喜んで」
サチが精一杯の笑顔で答えを返してくれた、今はこれで十分だ。お互いの気持ちを確かめ合えたのだから・・・。
「あともう1つだけ、大事な事を言っておかないとなりません」
総大主教はウィルとサチの両方を見ながら語り出した。
「主教よりも上の地位となる者は妻帯、つまり婚姻関係を結ぶ事は出来ない。幾ら愛し合っていたとしても肉体関係を結ぶ事も絶対に許されない」
「そんな・・・!?」
「だが司祭までならば、婚姻関係や肉体関係を結ぶ事に何ら問題は無い。しかし、婚姻関係を結ぶ前に密通を行っていた場合破門される恐れも有る」
総大主教の話している事はこれからの2人の運命に直接関わる事柄だった。
「サチ、修行を終えた後あなたにはリーン皇太女の外遊の護衛に加わる形でウィル殿と行動を共にする許可を与えます。そして、その旅の中であなた自身で選ぶのです。主教より上の位を目指しより多くの人を救う道と、司祭のままウィル殿と夫婦となる道を選ぶのか、それとも・・・3つ目以降の道は言うのは止めておきましょう」
(言ってくれないと余計に気になってしまうよ、その3つ目の道)
考えている事が顔に出てしまっていたのか、総大主教がクスクスと笑い出す。
「3つ目以降の道は、あなた達2人だけの問題では有りません。これからの2人の選択で幾らでも変わっていきますから今は何も考えなくて大丈夫です」
何だか煙に撒かれた感じもするが、どの道2人の選択で運命だってきっと変えられる。出来る事をやっていくだけだ。
「ウィルさん、あと1年だけ待っていて下さい。それまで私の想いを預けておきます」
そう言って、サチはウィルに唇を重ねた。ほんのわずかの時間だが、サチの想いはウィルの心を満たしていった。
「サチ、それ以上していると唇の感触をずっと忘れられなくなってしまう。その位にしておきなさい」
「すいません、総大主教様。恥ずかしい所をお見せしました」
「サチ、私の事はフィリアと呼びなさいと何度も言っているでしょう。ようやくニナを呼び捨て出来る様になったというのにまだ先は長そうですね」
総大主教の名前はフィリアと言うのか、ウィルはこの時になってようやく名前を知った。
「さて、あまり長居をしていると皇太女様方から怪しまれてしまいますね。それでは、1年後にまた会いましょう」
フィリア総大主教はウィルに微笑みながら話すと、サチを連れて控え室を後にした。そして翌日
「それでは国王陛下、行って参ります」
「皇太女リーンよ、学ぶ事の多い旅となろう。より多くの物を得て帰って来なさい」
「はい!」
皇太女リーンとその警護の任に就く自由騎士ウィルと警護騎士レーメル、そしてウィルの従者であるタツトの4人は王城アルスブルグを出立した。目的は近隣諸国の外遊、期間は3年。1年後に一旦帰国し途中経過を報告した後修行を終えたサチ司祭を加えて改めて他の国を巡る予定となっている。
「ではタツト、夕暮れ時まで馬車の操縦をよろしく頼むわね」
リーンは優雅にタツトにお願いすると馬車の中に姿を消した。
(国王陛下、それに王妃。あの時の約束を果たせる自信が既に無い、許してくれ)
タツトは諦めて馬車を進ませる、その馬車の中でウィル・リーン・レーメルの3人は早々に裸になるとお互いを求め始めていた。
一方その頃、教会本部の修行の間。
「弟子よ、今日もそろそろ修行を始めるぞ」
「はい、師匠!よろしくお願いします!!」
ウィルの前ではお互いを名前で呼んでいたサチとフィリアは、修行の間の中では弟子と師匠で呼び合っていた。
「師匠、私の演技は如何でしたでしょうか?」
「まだまだ甘い部分は有ったが、まずは及第点だ。これから1年掛けてあの男から皇太女達を引き離す為により一層研鑽を積む様に」
「はっ!!」
「総大主教の後継者に選ばれた事を伝えた時におまえに言われた途方も無い夢は私にとっても理想へ繋がる道だ。2人で教会の古い慣習を打ち破り新たな流れを生み出そうじゃないか」
「勿論、最後に勝つのは愛の力です!」
なんとウィルの前で流した涙も別れ際にした口付けも全て、サチとフィリアが立てていた計画に基づく芝居だったのだ。最初フィリアから総大主教の後継者に選ばれた事と主教より上の位に就く者は婚姻関係や肉体関係を結ぶ事が出来ない事を知らされ、サチは絶望しそうになった。だが、サチはその運命をねじ伏せるべくフィリアにある計画を持ちかけたのだった。
『この世界の運命を変える男と共に世界を救い、その功績を盾に主教以上の婚姻と肉体関係を結ぶのを許さない古い慣習を破棄させ自由に婚姻や男女の関係を結ぶ事が出来る教会に作り変えよう』
フィリアも過去に好いた男との間で迷い、最後独身を貫く道を選んでいた。だがサチの目指す夢が実現すれば、フィリアも以後自由に男女の関係や夫婦となる事が出来る様になる。大主教以下の中には頑なに慣習を守ろうと考えている者も少なくない、だから反対意見を言えなくさせるだけの功績が必要なのだ。
「皇太女と警護の女騎士は既に肉体関係に及んでいます、あなたがした口付けで心を奪う事は出来なくなっていますが油断は禁物です。1年間は我慢して外遊に加わると同時に闇の女王の探索を始め見つけ次第討伐し功績を挙げるのです、私達の未来の為に!」
「はい!」
フィリアの耳には闇の女王が暗躍していた情報が既に入っていた、レーメルがその元操り人形の存在であった事や即位式前の3人の乱行の件など・・・・。
(ウィル、あなたと生涯添い遂げるのは私よ。あの女達には決して負けない!あなたと同等の力を得て、必ず泥棒猫達を追い払うんだから!!)
サチのスキルはウィルと添い遂げようとする願いを叶える為に総大主教を仲間に引き入れ、その目的の為に闇の女王の存在さえ利用しようとしていた。功績を挙げる事が出来なければ、生涯独身を貫く事になる。ウィルの知らない所でサチの女の戦いが始まっていたのだった。
式典が終わり出席者が帰り始める頃になってようやく正気に戻ったウィルはその場を離れ、本部へ帰ろうとしている総大主教達の列へ向かい駆け出した。
「あ、ウィルどこへ!?」
リーンの声もウィルの耳には届かない。ウィルの心の中はサチと少しでも話がしたい、その事しかなかった。
「・・・リーン様」
レーメルが心配そうな顔でリーンに歩み寄る。
「やっぱり悔しいわね、幾度と無く肌を重ねる事は出来ても心が重なる事が無いのを痛感させられてしまう」
リーンが下唇を噛みながら思いの丈を正直に話す、本音を語ってくれるまで信頼して貰えている事にレーメルは喜びを感じるがリーンと同様に報われない想いを何時まで我慢出来るのか予想する事が出来なかった。
「サチ!」
ウィルの叫びを聞いて総大主教は足を止める、サチは総大主教の横を並んで歩いていた。
「ウィル様、どの様なご用件でしょうか?」
ニナ主教がウィルに近付きながら、答えの分かりきっている質問をしてきた。
「サチと少しだけでも話をさせてください」
「申し訳有りませんが、それは出来ません」
「何故です!?」
「彼女は未だ修行中の身、異性との交遊は大切な修行の妨げとなります。修行を終える日までお待ち下さい」
ニナ主教がウィルに会釈すると、総大主教達の列は何事も無かったかの様に再び歩き始めた。
「待ってくれ・・・サチ、サチ!!」
ウィルは更に大きな声で大切に想う女性の名を叫んだ、その叫び声はリーンとレーメルの場所まで届き2人は胸を締め付けられた。
「大主教達は先に帰りなさい」
総大主教はそう言うと、サチを連れて列の先頭を離れウィルに近付く。そして
パァン!! 総大主教はウィルの頬に平手打ちをしていた。
「なんですか、その見苦しい真似は!?彼女の気持ちを少しでも考えてあげた事が有るのですか!あなたへの想いを明かせずに苦しんでいる事に何故気付けないのですか!?」
(え、俺への想い!?)
ウィルは総大主教の隣に居るサチを見た、ローブで顔を隠しているがサチは・・・涙を流しながら泣いていた。
「来なさい、話が有ります」
総大主教に連れられて、ウィルは教会関係者の控え室に来た。
「本当はこのまま寄らずに帰るつもりだったのですが、そうもいかなくなりました」
今、この部屋の中には総大主教・ウィル・サチの3人しか居ない。また総大主教が遮音の術を使い中の会話が外に漏れない様にしてくれている。
「まず最初に言っておかないとならないのは、彼女は現在神より加護として1つのスキルを与えられております」
「1つのスキル?」
「ええ、そのスキルの名は【未来を掴み取る意思】己が願う未来への強い気持ちを失わない限り、その願いを叶える為の力と力を得る機会を与え続けてくれるという物です。ニナはこのスキルに気付く事は出来ませんでした、強大な力を持つスキルは同じだけの力を持つ者にしか見抜く事が出来ません、教会内でも彼女のスキルについて知っているのは私だけしかおりません」
総大主教に匹敵すると言われていたニナ主教も実際は及んでいない事を暗に教えられた。
「今が1番大事な時期なのです、その時をあなたの近くで過ごしてしまえばサチは望む力を手に入れる事が出来なくなってしまいます。あなたになら話しておいて問題は無いでしょう、サチのステータスの平均はこの短期間で既に5桁に達しております」
総大主教の話の内容にウィルは驚くしかなかった、神はサチの願いを叶える為にウィルに与えたのと同様の非常識なスキルを与えていた事になる。
「最初に祭壇まで移動する間にあなたのステータスも見させて頂きました・・・スキルメーカーですか。神も人の運命を変える力を与えるのに夢中になりすぎて後の影響を考えていない節が見受けられる」
総大主教がやや呆れ気味に話す、ウィルは先程平手打ちしてきた時と雰囲気が違っているのに気付き心に少し余裕が持てた。
「総大主教としてでは無く、1人の同じ女性としてお願いします。あと1年、あと1年だけ彼女が修行を終えるまで待って頂けませんか?そうすれば、サチはきっと6桁後半か7桁前半のステータスまで届く筈なのです」
「何故それが分かるのですか?」
「私も・・・昔、神よりスキルを与えられた者だからです。スキルの名と効果は明かせませんがそのお陰でレーメルさんとほぼ同じステータスですよ」
総大主教はさらっと勇者や騎士を上回る猛者だと明かしてくれた、そしてサチはその総大主教さえ上回りウィルと同等の力を手に入れる事が出来るのだと言う。
「ウィルさん」
サチがウィルに泣き顔のまま話しかけてきた。
「私はあなたの隣に立ちたい、守られるだけの存在で居たくない。お互いの背中を任せあえる、そんな関係になりたい。だから修行を終えるまで会う事は出来ません、会ってしまうと決心が揺らいでしまうから」
サチをこれ以上苦しめる訳にはいかない、ウィルは待つ事を選ぶ。
「分かったよサチ、君が修行を無事に終えるまで俺は待ち続ける。そして修行を終えた時には俺のパートナーとして一緒に旅をして欲しい」
「はい、喜んで」
サチが精一杯の笑顔で答えを返してくれた、今はこれで十分だ。お互いの気持ちを確かめ合えたのだから・・・。
「あともう1つだけ、大事な事を言っておかないとなりません」
総大主教はウィルとサチの両方を見ながら語り出した。
「主教よりも上の地位となる者は妻帯、つまり婚姻関係を結ぶ事は出来ない。幾ら愛し合っていたとしても肉体関係を結ぶ事も絶対に許されない」
「そんな・・・!?」
「だが司祭までならば、婚姻関係や肉体関係を結ぶ事に何ら問題は無い。しかし、婚姻関係を結ぶ前に密通を行っていた場合破門される恐れも有る」
総大主教の話している事はこれからの2人の運命に直接関わる事柄だった。
「サチ、修行を終えた後あなたにはリーン皇太女の外遊の護衛に加わる形でウィル殿と行動を共にする許可を与えます。そして、その旅の中であなた自身で選ぶのです。主教より上の位を目指しより多くの人を救う道と、司祭のままウィル殿と夫婦となる道を選ぶのか、それとも・・・3つ目以降の道は言うのは止めておきましょう」
(言ってくれないと余計に気になってしまうよ、その3つ目の道)
考えている事が顔に出てしまっていたのか、総大主教がクスクスと笑い出す。
「3つ目以降の道は、あなた達2人だけの問題では有りません。これからの2人の選択で幾らでも変わっていきますから今は何も考えなくて大丈夫です」
何だか煙に撒かれた感じもするが、どの道2人の選択で運命だってきっと変えられる。出来る事をやっていくだけだ。
「ウィルさん、あと1年だけ待っていて下さい。それまで私の想いを預けておきます」
そう言って、サチはウィルに唇を重ねた。ほんのわずかの時間だが、サチの想いはウィルの心を満たしていった。
「サチ、それ以上していると唇の感触をずっと忘れられなくなってしまう。その位にしておきなさい」
「すいません、総大主教様。恥ずかしい所をお見せしました」
「サチ、私の事はフィリアと呼びなさいと何度も言っているでしょう。ようやくニナを呼び捨て出来る様になったというのにまだ先は長そうですね」
総大主教の名前はフィリアと言うのか、ウィルはこの時になってようやく名前を知った。
「さて、あまり長居をしていると皇太女様方から怪しまれてしまいますね。それでは、1年後にまた会いましょう」
フィリア総大主教はウィルに微笑みながら話すと、サチを連れて控え室を後にした。そして翌日
「それでは国王陛下、行って参ります」
「皇太女リーンよ、学ぶ事の多い旅となろう。より多くの物を得て帰って来なさい」
「はい!」
皇太女リーンとその警護の任に就く自由騎士ウィルと警護騎士レーメル、そしてウィルの従者であるタツトの4人は王城アルスブルグを出立した。目的は近隣諸国の外遊、期間は3年。1年後に一旦帰国し途中経過を報告した後修行を終えたサチ司祭を加えて改めて他の国を巡る予定となっている。
「ではタツト、夕暮れ時まで馬車の操縦をよろしく頼むわね」
リーンは優雅にタツトにお願いすると馬車の中に姿を消した。
(国王陛下、それに王妃。あの時の約束を果たせる自信が既に無い、許してくれ)
タツトは諦めて馬車を進ませる、その馬車の中でウィル・リーン・レーメルの3人は早々に裸になるとお互いを求め始めていた。
一方その頃、教会本部の修行の間。
「弟子よ、今日もそろそろ修行を始めるぞ」
「はい、師匠!よろしくお願いします!!」
ウィルの前ではお互いを名前で呼んでいたサチとフィリアは、修行の間の中では弟子と師匠で呼び合っていた。
「師匠、私の演技は如何でしたでしょうか?」
「まだまだ甘い部分は有ったが、まずは及第点だ。これから1年掛けてあの男から皇太女達を引き離す為により一層研鑽を積む様に」
「はっ!!」
「総大主教の後継者に選ばれた事を伝えた時におまえに言われた途方も無い夢は私にとっても理想へ繋がる道だ。2人で教会の古い慣習を打ち破り新たな流れを生み出そうじゃないか」
「勿論、最後に勝つのは愛の力です!」
なんとウィルの前で流した涙も別れ際にした口付けも全て、サチとフィリアが立てていた計画に基づく芝居だったのだ。最初フィリアから総大主教の後継者に選ばれた事と主教より上の位に就く者は婚姻関係や肉体関係を結ぶ事が出来ない事を知らされ、サチは絶望しそうになった。だが、サチはその運命をねじ伏せるべくフィリアにある計画を持ちかけたのだった。
『この世界の運命を変える男と共に世界を救い、その功績を盾に主教以上の婚姻と肉体関係を結ぶのを許さない古い慣習を破棄させ自由に婚姻や男女の関係を結ぶ事が出来る教会に作り変えよう』
フィリアも過去に好いた男との間で迷い、最後独身を貫く道を選んでいた。だがサチの目指す夢が実現すれば、フィリアも以後自由に男女の関係や夫婦となる事が出来る様になる。大主教以下の中には頑なに慣習を守ろうと考えている者も少なくない、だから反対意見を言えなくさせるだけの功績が必要なのだ。
「皇太女と警護の女騎士は既に肉体関係に及んでいます、あなたがした口付けで心を奪う事は出来なくなっていますが油断は禁物です。1年間は我慢して外遊に加わると同時に闇の女王の探索を始め見つけ次第討伐し功績を挙げるのです、私達の未来の為に!」
「はい!」
フィリアの耳には闇の女王が暗躍していた情報が既に入っていた、レーメルがその元操り人形の存在であった事や即位式前の3人の乱行の件など・・・・。
(ウィル、あなたと生涯添い遂げるのは私よ。あの女達には決して負けない!あなたと同等の力を得て、必ず泥棒猫達を追い払うんだから!!)
サチのスキルはウィルと添い遂げようとする願いを叶える為に総大主教を仲間に引き入れ、その目的の為に闇の女王の存在さえ利用しようとしていた。功績を挙げる事が出来なければ、生涯独身を貫く事になる。ウィルの知らない所でサチの女の戦いが始まっていたのだった。
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