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16話目 ハプニングから始まる婚約

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「――あ」

 思わず自分でも驚くほど乾いた声が出た。
 それと共にゴクリと唾を呑み込む音。
 決してエロい意味ではない。
 そう、断じて!

「星空君……」

 それだけが聞こえた。
 それもポツリと――、

「あ、はい……」

 謝罪するタイミングを逸したところに、自分の名前が呼ばれたことで、完全にタイミングを逸してしまう。
 それにしても、どうして男が下着姿を見ているというのに、真正面に向いて何も隠すこともなく話しかけて来られるのか?
 ここは一発でも殴られた方が次のリアクションに繋げられるというのに。

「そこに座ってくださいね?」
「あ、はい……」

 同じような返事しかできない。
 俺は殆ど荷解きが終わっていないステラさんの部屋の一角で正座する。

「……」

 正座し無言になる俺。
 完全に死刑執行を待つ死刑囚の気持ちだ。
 知らんけど。

「えっと……星空君」

 再度、俺の名前を呼んでくるステラさん。
 それにしても、どうして下着姿のまま話しかけてくるのか。
 普通は、洋服をパパッと着て対応するのが普通な反応ではないのか。

「あの……。ステラ様?」
「……はぁ」

 俺の問いかけに溜息をつくと、ニコリとステラさんは笑みを向けてくる。
 そこには、笑顔があり――、笑顔が向けられているからこそ、逆にその笑みが怖い――、ちょー怖い。

「責任は取ってくれるのですよね? 星空君」
「は、はい」

 俺は携帯電話を取り出す。
 とりあえず責任ということは、警察に電話でいいのか? 

「ちょ! ちょっと! 待ってよ! 星空君っ!」
「え? 警察を呼べという意味では?」
「違うわよ! そんな事になったら私だって、お父様に迷惑をかけることになるじゃないの!」
「――で、でも責任をとれって……」
「そうね」

 堂々と下着姿のまま腕を組むステラ様は、ニコリと笑みを浮かべると――、

「殿方が女性に対して問題を起こした場合、どういう責任を取り方をするのか分かるわよね?」
「だから警察に……」
「違うって言っているでしょう?」
「男が責任を取るということは、女性に対して責任を取るということは、つまり――」

 そこでステラ様が頬を赤らめる。
 どうして、そこで頬を赤らめるのか……。
 その反応は下着を見られた時にしてほしかった。

「わ、分かった……」

 俺も何も分からないガキではない。
 男が責任をとれってことは、つまりそういうことだろう。
 とくに警察が関与しない場合での責任の取り方はそうなのだろう。

 ――金銭での支払いですね! わかります。

「本当に分かったのかしら?」
「もちろんだ! ステラ様の裸を見た責任は取るから」

 いくら払うか分からないのが怖いところが――。

「そう。じゃ、責任をとって婚約ということでいいのね?」
「もちろんだ。――ん?」

 俺の反応と共にパチッと言う音が聞こえた。
 
「――あ、あれ?」
「星空君。それでは、きちんと約束しましたからね? 責任をとってくださいね?」
「――い、いや! ま、待ってくれ! 責任って! 金銭の支払いでは?」
「え? 金銭?」
「お、おう」
「もう、本当に冗談が好きね? 星空君?」

 土下座したまま、上目遣いで彼女を見上げるが、その目にはハイライトはなく、冗談を言っているような表情ではない。

「えっと……、だから……」
「もう、本当に冗談が好きね? 星空君?」
「だ、だから……」
「もう、本当に冗談が好きね? 星空君?」
「裸を見ただけで婚約は流石に……」
「もう、本当に冗談が好きね? 星空君?」

 スッと、背中に隠していた右手をステラ様は見せてきた。
 そんな右手には、銀色のメタリックな色の機械が握られていて――、

「……そ、それは……?」
「えー、星空君。これとか、何か分からないかしら?」

 人差し指と親指でメタリックの機械を手に、右手で握っていたメタリック色の機械を見せびらかしてくるステラ様。
 それはどう見ても――、

「ま、まさか……ボイスレコーダー?」
「あたり!」

 両手をパン! と、軽く叩いたステラ様は、笑みを表情に張り付けたまま、ボイスレコーダーの再生ボタンを押す。

――本当に分かったのかしら?
――もちろんだ! ステラ様の裸を見た責任は取るから。
――そう。じゃ、責任をとって婚約ということでいいのね?
――もちろんだ。

 そこで再生は終わる。

「えーっと?」

 首を傾げて俺の方を見てくるステラ様。

「……お、俺は……どうすれば……?」
「婚約したわよね?」

 いつ、どこで、婚約したのか? ――と、いうことをステラ様は言ってこない。
 まぁ、答えは、たった今! ということなのだろうが。

「あ、はい……」
「良かったわ。それでは、今日から宜しくお願いしますね? 旦那様?」

 目は笑っておらず、ハイライトも入っていないが、笑みを――、自愛の笑みを俺に向けたままステラ様は、そう俺に話しかけてきた。



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