独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

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第60話:超魔具

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マリエル護衛をもっと安全に行うため、『マリエルになるべき気がつかれない道具』が完成した。

「よし、ドルトンさんで実験してみよう!」

新しい道具を実戦で使う前には、必ず実験が必須。
事前に設定の準備をして、道具を装着。ドルトンさんを驚かせにいくことにした。

奥のドルトンさんの作業場に移動する。

「ドルトンさん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、“サラの嬢ちゃん”か? ハルクなら奴の作業場にいるぞ」

「いえ、私はサラでないですよ、ドルトンさん」
「ん? 何かの冗談か? その声も、どこから、どう見てもサラの嬢ちゃんだろ?」

真面目なサラは冗談を言わない。だからドルトンさんは首を傾げながら、不思議そうにこっちを見てくる。

よし、実験は成功だ。
これ以上騙すのは問題ななりそうだから、種明かしをする。
新しい道具の機能を解除だ。

ポワ――――ン

「ん? なっ⁉ ハ、ハルクだと⁉ どうして、サラの嬢ちゃんが、ハルクになったのだ⁉ これはどういうことじゃ……まさか魔族がワシを化かしにきたのか⁉」

まさかの現象にドルトンさんは目を見開き、言葉を失っている。
作業場あった魔戦斧を手にとり、こちらを威嚇してきた。
あっ……これはマズイ状況だ。

「間違いなくボクですよ! ハルクです! この新しい道具で、姿と声を変えていたんです!」

自分が本当にハルクあることを、慌てて証明する。
でも言ってから、ふと気がつく。こんな道具を見せたところで、魔族じゃないことの証明はできないのだ。

「むっ……その道具は⁉ そんな精密な鍛冶仕事をできるのは、ヤツだけだ。ふう……そうか、本物のハルクか。まったく驚かせやがって」

だがドルトンさんは信じてくれた。魔戦斧を置いて、深い息を吐き出す。
よく分からないけど誤解が解けて、本当によかった。

「すみません、驚かせて。まさか、そんなに信じるとは思わないで。ボクの予想では“少しだけ”サラに似ていた予定だったんですが」

「いや、いや。さっきの姿は、どこからどう見ても“サラの嬢ちゃんそのもの”だったぞ。いったい、その道具はなんだ⁉」

ドルトンさんはこちらに近づき、新しい道具をマジマジと見てきた。今度はちゃんと説明をしないと。

「えーと、これは魔道具を応用して作った鍛冶道具です。機能は『使用者の姿を、他人に似せる』です!」

マルキン魔道具店に『風景を一枚の紙に写す魔道具』と『絵を壁に透写する魔道具』が売ってあった。

ボクはその部品を使い、新たな道具を製造。事前に撮影した人物の容姿に、使用者を見せかける道具を作ったのだ。

さっきサラの顔と格好を、こっそりボクは撮影してきた。そのデータを使い、サラの格好に変身したのだ。

ちなみに声も同じように『音を少しだけ録音する魔道具』と『録音した音を再生する魔道具』を組みわせて、ボクの声をサラの声に変質させたのだ。

「……という訳です。機能は全部、市販の魔道具をそのまま応用しました」

今回の製造はそれほど難しい作業はしていない。
売り物の魔道具を分解して、パーツを取り出し少しだけ改造。
ミスリル・マジックミラーで変身できるように改造。あと超小型ミスリルモーターで声も変質にも改造しておいた。

ちなみにミスリル金属の保護のお蔭で、魔法による妨害や探知も受けつけない仕様だ。

他人の姿と声に変身できる道具……

――――その名も《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》だ!

どうですか、ドルトンさん。今の説明で分かってくれましたか?

「――――っ⁉」

説明を聞いて、ドルトンさんは固まっている。いったいどうしたんだろう。

「い、いや、どうしたのだろう、じゃないぞ、小僧⁉ オヌシはとんでもない性能の魔道具を、新たに作りだしたんじゃぞ! 自覚はあるのか?」

「えっ、『とんでもない性能の魔道具』をですか? “少しだけ”他人に変装できるだけの道具ですよ、これは?」

どうしてドルトンさんはここまで興奮しているのだろう。もしかしたら何か問題もあるのだろうか。

「ふう……本人とまったく同じ姿と声に変装でき、魔法による探知も不可能。そんな恐ろしい道具があったら、そんな城やお宝のある場所にも、当人は潜入可能なのじゃぞ!」

「あっ……そうか。でも、安心してください。使うには、特殊な認証取得機能があるので、悪用はできないです!」

買ってきた魔道具の中に『人を認識できる魔道具』があった。
今回はそれを組み込んでいるから、悪用される心配はないのだ。

「なるほど、それならひと安心じゃ。だが、とにかく、とんでもない魔道具を、いや……魔道具を超えた“超魔具”を作り出したモノだな、オヌシは」

ドルトンさんの言う“超魔具”とは魔道具と、鍛冶技術を組み合わせ名称なのであろう。呼び方が格好いいから、ボクも今度から使うことにしよう。

「ところで、その超道具《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》は、どう使うのじゃ?」

「とりあえず、マリエルが王都で行く先に出入りしている人物を、今後は撮影と録音してきます。明日以降は《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》を装備して、何気ない顔でマリエルに近辺にいる予定です!」

マリエルの王都でのスケジュールは把握済み。その利点を最大限に使い、先回りして準備をしていく。
彼女の護衛騎士や侍女。王城の騎士兵。王都の商館の関係者。色んな人物を、撮影していく予定だ。

ちなみに《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》は百人分の姿と声を記録可能。今後は常にマリエルの近くで、密かに護衛ができるのだ。

「ふむ、なるほど、そういう使い方か。気を付けて準備するのだぞ」

「たしかに、そうですね。それじゃ明日の分の準備に、行ってきます!」

ボクは工房を出発。向かう先は王都の“ある場所”だ。
こっそり撮影と録音をして、ついで情報も収集。変装してもバレないように、メモにとって整理しておく。

陽が落ちてから工房に帰宅。
夕食後は《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》を更に改造して、使いやすく調整する。

明日から絶対に失敗はできない。
集中して作業していると、あっとう間に夜はふけていく。



翌朝になる。
今日はマリエルにとって大事な日。
彼女がミカエル城に登城して、現ミカエル国王に謁見する日なのだ。

ボクも朝から気合が入りまくり。
早朝から護衛の準備をして、朝食もしっかり食べておく。

執事セバスチャンさんには『今日は徒歩で外出するので、お構いなく』と伝えて、こっそりと庭の工房に向かう。

「サラ、ドルトンさん。それじゃ、マリエルの後を追いましょう!」

「はい、ハルク君。いよいよ王城に潜入するのですね。また秘密の通路を使うのですか?」

「ん、今日は違うよ。“ボクたち三人”は城の正門から、正々堂々と登城するよ」

「ん? “ボクたち三人”? ハルク、キサマ……まさか。ワシらも正面から行くのか⁉」

「はい、ドルトンさん。二人の分の《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》も作って、調整しておきました! さぁ、変装して三人でミカエル城に行きましょう!」

こうして王都でも最大の警備が厳しいミカエル城に、ボクたちは超魔具で潜入に挑むのであった。
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