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第三章 力を持つと人は道を踏み外すのかな
3-5 子犬の恩返し?
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「健斗、しっかりしなさい」
薄れていく意識の中で、フェイの声が聞こえた気がして、僕はもう一度、生きる気力を振り絞った。
すると、なぜか僕は、攻撃されていなかった。
あの巨大狼は、僕が既に死んだと思って、攻撃をやめたに違いない。
そう思ったが、「ううっ」と頭上で呻き声が聞こえた。
今、動くと、再び攻撃される気がしたが、首をその方向に何とか捻じり、腫れて重く開かなくなっている瞼を必死に見開いて見た。
すると、五日前に助けた子犬が、毛を逆立てて、僕を守ろうとしてくれている。
大狼は、何もしないで、その子犬をじっと見つめつづけている。
この子犬のお蔭で、僕はまだ生きているという訳だ。
あの時の恩返しのつもりで、こんな無茶なことをしてくれているのだろうが、このにらみ合いがいつまで持つか。
今は、子犬なので、見逃してもらえているが、大狼の機嫌を損ねると、その時点で全てが終わる。
それでも折角時間稼ぎしてくれているので、そのことに感謝し、僕は自分にヒールを掛け、少しでも回復を計ることにした。
暫く、その睨みあいが続き、突如、巨大狼が話し始めた。
「この人族の男が、お前の恩人だというのか。仕方がない。お前に免じて、この男は見逃してやる」
そういって、大狼は、その場から消える様に高速移動していなくなった。
子犬は嬉しそうに、僕の顔をぺろぺろと舐め始めた。
「ありがとう。助かったよ。まさか、君に助けられるとは思っていなかった」
そういえば、この子犬は洋犬の赤ちゃんのようで、さっきの大狼と容姿が似ている気もした。
まさかこの子犬は、あの大狼の子供なのか。
鑑定してみて驚いた。かわいい子犬と思っていたのに、あの有名なフェンリルの赤ちゃんだったのだ。
と言う事は、さっきのが、最高神オーディンに勝ったといわれる最強魔獣フェンリルということなる。
「そうか、お前の父ちゃんは、伝説のフェンリルだったんだな。どうりで全然叶わなかった筈だ。お前が説得してくれていなければ、今頃、僕は死んでいた。本当にありがとう」
僕は身体を起こして、立ち上がり、もう一度、ヒールを掛けてから、ゆっくりと立ち去ることにした。
なのに、チビフェンリルが、尻尾を激しく振りながら、僕を再び追いかけて来た。
「御免、妻が帰りを待ってるから、遊んであげられないんだ。もう、パパやママの所にお帰り」
なのに、抱っこしてとでもいう様に、オチンチンの体勢になって、ぴょんぴょん跳ねてきた。
「フェン、お願いだから、言う事を聞いて」
『フェンリル幼体に命名したことにより、フェンリル「フェン」が眷族となりました。以降、「フェン」を影格納して、任意召喚可能となりますが、「フェン」を影格納しますか?」
『ちょっと待ってくれ、命名なんてしてないぞ。フェンリルの子供だから略してフェンと呼んだだけだ。眷族契約を解除してくれ』
女神の声は聞こえない。
もう一度、フェンを鑑定してみると、さっきはレベル8だったのに、命名したからかレベル9に上がっていて、分類も、篠崎健斗眷族と括弧書きされていた。
【
分類 魔獣 フェンリル (篠崎健斗眷族)
レベル 9
名前 フェン
年齢 0歳 幼体
性別 雌
HP: 63/65
MP: 183/183
SP: 52/150
】
SPが150というのも、理解不能だが、レベル9だと言うのに、その能力値はとんでも無かった。
【
攻撃力 1101
防御力 1021
耐久力 652
精神力 1829
機動力 7735
知力 752
創造力 100
】
知能が極めて高く、基本能力も、人間のレベル33程度あり、機動力は僕より遥かに高い。スキルは、神速、噛み砕き、威圧と、3つも持っている。魔法適正も高いので、魔法も確認してみたが、習得魔法は一つもなかった。
でも、成体のフェンリルになったら、とんでもない化け物になるのは、このパラメータを見るだけでも理解できる。
「フェンは、パパやママといるより、僕と一緒に居たいのか」
「ワン」 嬉しそうに尻尾を振っている。
これだけ強いと、フェイの護衛にもなるし、可愛いのできっと飼う許可ももらえる筈だ。
僕はフェンを連れて帰ることにした。
暫く歩き、僕がこの荒野に降り立った位置までくると、僕はフェンを抱っこした。だが、抱っこされるのは嫌いなのか、何故か暴れ出した。仕方なく腕を緩めると、びょんと飛び降り、再び激しく尻尾を振った。
「この崖を上るんだけど、フェンはついてこられるのか」
「ワン」
急勾配のこの絶壁は、高さ二百メートル近くあり、幾ら身軽なフェンでも無理だと思うが、挑戦させてみることにした。
僕が連続瞬歩で空中を上昇していくと、フェンも六十度以上ある絶壁を必死にジャンプして足場を渡る様にして登ってついてきた。
本当に大したものだと感心したが、中腹、百メートルほど登った位置までくると、ついてこれなくなった。
足場がなくなったのか、しきりに行ったり来たりを繰り返し、それ以上、登れなくなった。
僕が、フェンの位置まで降りていくと、済まなそうな表情を浮かべ、「クウ~ン」と鳴いてきて、本当に可愛い。
僕は、フェンを抱きかかえて、崖の上まで、登って行った。
「ワンワン」
そこからは、また尻尾を振りながら地面を走り回っていたが、蜘蛛の魔物タラテクトに遭遇してしまった。
僕が倒してあげようと思ったが、フェンがやる気満々だっし、基本能力はフェンが上で勝てそうだったので、任せてみることにした。
危なくなったら援護するつもりで観戦していたが、その必要は全くなかった。
信じ難い程の高速移動で攪乱し、蜘蛛に攻撃態勢すら取らせないし、背後を取ってはガブリと噛みつきダメージを与える。やけくそに繰り出した敵の攻撃なんか、余裕で回避するし、距離を取って、蜘蛛の粘糸を吐く攻撃も、同じ手は二度と食らわないとでもいう様に、吐いた瞬間に余裕で回避して、距離を詰め、再びガブリ。
攻撃力が1101でも、噛み砕きスキルがあるので、実質、2202もあり、僕がレベル12だった時と同等の攻撃力だ。嫌、攻撃間隔があの時の僕よりずっと短いので、時間当たりの与ダメージはフェンの方がずっと高い。
その後も、ノーダメージのまま、一方的にダメージを与え続け、フェンはなんと十分もかからず、蜘蛛に止めを刺した。
繰り返しになるが、フェンはゼロ歳の赤ちゃんで、レベルもまだ9だ。フェンリルは幼体でも化け物だった。
「フェンは凄く強いんだね。それじゃ、行こうか」
そして、滝の絶壁に来て、これは無理だと思ったが、一応、フェンに独りで行けるかと聞いてみた。
フェンも流石に無理と思ったのか、崖を見下ろし、尻尾を下げ、僕を不安そうに見つめては、何度も左右に移動して確認した。
高さは五十メートルもないが、ほぼ垂直と言っていい絶壁で、しかも四つ足が苦手とする下りだ。
当然、「クウ~ン」鳴いてくるなと思っていたのに、フェンは行けると判断したのか、尻尾を振って、ワンと吠えて来た。
いざとなったら、僕が拾い上げて救うつもりで、フェンの一メートル程下の崖の直ぐ傍を並走する様に、降りることにした。
フェンは下方向ではなく、横方向にびょん、びょんと足場を移動していき、この急勾配であっても、少しづつ、降りていった。だが、途中でやはり右往左往して動けなくなった。
でも、今度は助けを拒否して、まだ地上まで十五メートル以上も高さがあり、滝の方にも十メートル近い距離があったのに、滝壺に向かって飛び込んでいったのだ。
そして、水の中を泳いで、無事に地上までたどり着いた。本当に大したものだ。
ブルブルと水を引っかけられて最悪だったけど、可愛いペットができた。
「いいかい、この中に僕の妻フェイが夕飯を作って待ってるんだけど、決して吠えたり、噛みついたりしないでくれよ。僕の大切な愛妻だからな」
「ワン」
それでも、不安だったが、洞窟の入り口で身体を屈めて、フェンと共に中に入った。
「只今」「ワン、ワン」
僕の心配は杞憂だったみたいで、フェンは尻尾を激しく降って、飛びつき、ちんちんするように、二本脚で立って、何度もジャンプして、そのままフェイを押し倒し、ぺろぺろと顔を舐めだした。
僕にフェイの匂いが染みついていたからかもしれない。
「お帰りなさい。どうしたのこの子犬、ちょっと、やめて。えっ、フェンリル? 健斗の眷族って、いったい何があったの」
「話せば長くなるから、食事でも食べながら話すよ。ますば食事にしよう」
そういう訳で、フェンにも人間の食事をお裾分けして、床で食べさせ、ことの経緯を説明することにした。
「実は、魔物の森に最初に入った日に、……」
蜘蛛から助けた所から、今日、フェンリルにボコボコにされたことまですべてを話して聞かせた。
「もう、そんな危険な所になんでいくのよ。ケントが死んだりしたら、私がどんなに悲しむか分かってる?」
その後も、延々と説教が続き、食事が終わっても、暫く許してもらえなかった。
でも、これまたフェンが仲裁に入ってくれて、漸く、永い説教は終りになった。
それからは、新たな家族との団欒タイム。お風呂をパスすることにして、フェンと遊んだ。
フェイが追いかけっこして遊んでいる間に、僕は枯れ木を加工してボールを作り、そのボールを投げて拾わせる遊びを延々に繰り返した。
フェンも僕らも楽しんで、時間が経つのを忘れていたが、フェイの一言で、僕ら二人にとって深刻となる問題に気づいた。
「犬小屋も、首輪もないのに、この子、どうするつもり」
気づけば、愛の営みの時間になっていたが、フェイがいると、セックスできなくなってしまうのだ。
「ここで、大人しく、寝てもらえばいいさ」
僕は、フェイに先に行ってもらい、バスタオルを敷いてフェンの寝床をつくると、フェンの説得に掛かった。
「いいかい、フェンは今日からここで寝るんだ。僕とフェイは、子作りという大変な苦行をしないとならないから、ここでおとなしくしてるんだぞ」
だが、やはりダメ。その後もいろいろと言い訳して説得してみたが、どうしても納得してもらえず、寝室の入り口までついてきてしまった。
こうなれば強行手段だ。僕は入り口の石を横にどけると、「ほら、拾っておいで」とボールを鍾乳洞の奥へと投げ、入り口を中から、石で蓋をした。
フェンは直ぐにボールを取って来て、外でワンワンと吠え始めて、可哀そうだったが、仕方がない。諦めて、台所に準備した寝床でねるだろうと判断した。
フェイは既にローブに着替えて、ランタンを付けたまま、布団の中で待っていてくれた。
そんな訳で、僕も急いで裸になって、布団にもぐりこみ、いつもの様に口づけして愛撫していたら、フェンが僕らの間に鼻を突っ込んできた。
「おまえ、あの石をどけてきたのか」
「ワン」
「この子、私より力があるから、そんなことしても無理よ。今日は諦めるしかなわね」
フェイは、本気でそんなことをいっているのか、裸で立ち上がって、ローブを再び着てしまった。
「魔物が入ってくると大変だから、ちゃんと石で蓋をしてきてね」
僕はパンツ一丁の姿で、蓋をしに下に降り、戻ってくると既に真っ暗になっていて、フェンがクンクンと辺りの臭いを嗅ぎまわっていた。
「なあ、良いだろう。フェンがいないと思えば。ねっ」
「しかたがないわね」 やはりフェイもしたかったみたいだ。
僕らは再びキスをして愛撫を始めたが、その途端、やはりフェンが割り込んで邪魔しに来た。
「これじゃ、無理ね。やはり、今日は無しにしましょう」
彼女はそう言って、ローブを正し、まだ寝るには早いのに、寝ようとした。
でも、僕はどうしてもしたかった。彼女を抱き寄せ、キスをして、胸を揉む。
「ちょっと、何考えてるの。フェンがいるんだから、できる訳ないでしょう。おやすみなさい」
フェイは、拒絶して背を向けてしまった。
それでも、後ろから手を伸ばして、ガウンのあわせから手を入れたが、思いっきり、その手をつねられた。
しかも、フェンがまたも僕とフェイの間に鼻を突っ込んで潜り込んできて、あきらめるしかなかった。
でも、目が冴えて寝むれない。毎日、何度も愛し合うのが習慣になっていたので、身体は凄く疲れているのに、セックスしないと寝むれない。
こんな犬、連れて帰って来るんじゃなかったと、酷く後悔したが、その日は、狭い布団を一匹と二人で分け合って寝ることになった。
薄れていく意識の中で、フェイの声が聞こえた気がして、僕はもう一度、生きる気力を振り絞った。
すると、なぜか僕は、攻撃されていなかった。
あの巨大狼は、僕が既に死んだと思って、攻撃をやめたに違いない。
そう思ったが、「ううっ」と頭上で呻き声が聞こえた。
今、動くと、再び攻撃される気がしたが、首をその方向に何とか捻じり、腫れて重く開かなくなっている瞼を必死に見開いて見た。
すると、五日前に助けた子犬が、毛を逆立てて、僕を守ろうとしてくれている。
大狼は、何もしないで、その子犬をじっと見つめつづけている。
この子犬のお蔭で、僕はまだ生きているという訳だ。
あの時の恩返しのつもりで、こんな無茶なことをしてくれているのだろうが、このにらみ合いがいつまで持つか。
今は、子犬なので、見逃してもらえているが、大狼の機嫌を損ねると、その時点で全てが終わる。
それでも折角時間稼ぎしてくれているので、そのことに感謝し、僕は自分にヒールを掛け、少しでも回復を計ることにした。
暫く、その睨みあいが続き、突如、巨大狼が話し始めた。
「この人族の男が、お前の恩人だというのか。仕方がない。お前に免じて、この男は見逃してやる」
そういって、大狼は、その場から消える様に高速移動していなくなった。
子犬は嬉しそうに、僕の顔をぺろぺろと舐め始めた。
「ありがとう。助かったよ。まさか、君に助けられるとは思っていなかった」
そういえば、この子犬は洋犬の赤ちゃんのようで、さっきの大狼と容姿が似ている気もした。
まさかこの子犬は、あの大狼の子供なのか。
鑑定してみて驚いた。かわいい子犬と思っていたのに、あの有名なフェンリルの赤ちゃんだったのだ。
と言う事は、さっきのが、最高神オーディンに勝ったといわれる最強魔獣フェンリルということなる。
「そうか、お前の父ちゃんは、伝説のフェンリルだったんだな。どうりで全然叶わなかった筈だ。お前が説得してくれていなければ、今頃、僕は死んでいた。本当にありがとう」
僕は身体を起こして、立ち上がり、もう一度、ヒールを掛けてから、ゆっくりと立ち去ることにした。
なのに、チビフェンリルが、尻尾を激しく振りながら、僕を再び追いかけて来た。
「御免、妻が帰りを待ってるから、遊んであげられないんだ。もう、パパやママの所にお帰り」
なのに、抱っこしてとでもいう様に、オチンチンの体勢になって、ぴょんぴょん跳ねてきた。
「フェン、お願いだから、言う事を聞いて」
『フェンリル幼体に命名したことにより、フェンリル「フェン」が眷族となりました。以降、「フェン」を影格納して、任意召喚可能となりますが、「フェン」を影格納しますか?」
『ちょっと待ってくれ、命名なんてしてないぞ。フェンリルの子供だから略してフェンと呼んだだけだ。眷族契約を解除してくれ』
女神の声は聞こえない。
もう一度、フェンを鑑定してみると、さっきはレベル8だったのに、命名したからかレベル9に上がっていて、分類も、篠崎健斗眷族と括弧書きされていた。
【
分類 魔獣 フェンリル (篠崎健斗眷族)
レベル 9
名前 フェン
年齢 0歳 幼体
性別 雌
HP: 63/65
MP: 183/183
SP: 52/150
】
SPが150というのも、理解不能だが、レベル9だと言うのに、その能力値はとんでも無かった。
【
攻撃力 1101
防御力 1021
耐久力 652
精神力 1829
機動力 7735
知力 752
創造力 100
】
知能が極めて高く、基本能力も、人間のレベル33程度あり、機動力は僕より遥かに高い。スキルは、神速、噛み砕き、威圧と、3つも持っている。魔法適正も高いので、魔法も確認してみたが、習得魔法は一つもなかった。
でも、成体のフェンリルになったら、とんでもない化け物になるのは、このパラメータを見るだけでも理解できる。
「フェンは、パパやママといるより、僕と一緒に居たいのか」
「ワン」 嬉しそうに尻尾を振っている。
これだけ強いと、フェイの護衛にもなるし、可愛いのできっと飼う許可ももらえる筈だ。
僕はフェンを連れて帰ることにした。
暫く歩き、僕がこの荒野に降り立った位置までくると、僕はフェンを抱っこした。だが、抱っこされるのは嫌いなのか、何故か暴れ出した。仕方なく腕を緩めると、びょんと飛び降り、再び激しく尻尾を振った。
「この崖を上るんだけど、フェンはついてこられるのか」
「ワン」
急勾配のこの絶壁は、高さ二百メートル近くあり、幾ら身軽なフェンでも無理だと思うが、挑戦させてみることにした。
僕が連続瞬歩で空中を上昇していくと、フェンも六十度以上ある絶壁を必死にジャンプして足場を渡る様にして登ってついてきた。
本当に大したものだと感心したが、中腹、百メートルほど登った位置までくると、ついてこれなくなった。
足場がなくなったのか、しきりに行ったり来たりを繰り返し、それ以上、登れなくなった。
僕が、フェンの位置まで降りていくと、済まなそうな表情を浮かべ、「クウ~ン」と鳴いてきて、本当に可愛い。
僕は、フェンを抱きかかえて、崖の上まで、登って行った。
「ワンワン」
そこからは、また尻尾を振りながら地面を走り回っていたが、蜘蛛の魔物タラテクトに遭遇してしまった。
僕が倒してあげようと思ったが、フェンがやる気満々だっし、基本能力はフェンが上で勝てそうだったので、任せてみることにした。
危なくなったら援護するつもりで観戦していたが、その必要は全くなかった。
信じ難い程の高速移動で攪乱し、蜘蛛に攻撃態勢すら取らせないし、背後を取ってはガブリと噛みつきダメージを与える。やけくそに繰り出した敵の攻撃なんか、余裕で回避するし、距離を取って、蜘蛛の粘糸を吐く攻撃も、同じ手は二度と食らわないとでもいう様に、吐いた瞬間に余裕で回避して、距離を詰め、再びガブリ。
攻撃力が1101でも、噛み砕きスキルがあるので、実質、2202もあり、僕がレベル12だった時と同等の攻撃力だ。嫌、攻撃間隔があの時の僕よりずっと短いので、時間当たりの与ダメージはフェンの方がずっと高い。
その後も、ノーダメージのまま、一方的にダメージを与え続け、フェンはなんと十分もかからず、蜘蛛に止めを刺した。
繰り返しになるが、フェンはゼロ歳の赤ちゃんで、レベルもまだ9だ。フェンリルは幼体でも化け物だった。
「フェンは凄く強いんだね。それじゃ、行こうか」
そして、滝の絶壁に来て、これは無理だと思ったが、一応、フェンに独りで行けるかと聞いてみた。
フェンも流石に無理と思ったのか、崖を見下ろし、尻尾を下げ、僕を不安そうに見つめては、何度も左右に移動して確認した。
高さは五十メートルもないが、ほぼ垂直と言っていい絶壁で、しかも四つ足が苦手とする下りだ。
当然、「クウ~ン」鳴いてくるなと思っていたのに、フェンは行けると判断したのか、尻尾を振って、ワンと吠えて来た。
いざとなったら、僕が拾い上げて救うつもりで、フェンの一メートル程下の崖の直ぐ傍を並走する様に、降りることにした。
フェンは下方向ではなく、横方向にびょん、びょんと足場を移動していき、この急勾配であっても、少しづつ、降りていった。だが、途中でやはり右往左往して動けなくなった。
でも、今度は助けを拒否して、まだ地上まで十五メートル以上も高さがあり、滝の方にも十メートル近い距離があったのに、滝壺に向かって飛び込んでいったのだ。
そして、水の中を泳いで、無事に地上までたどり着いた。本当に大したものだ。
ブルブルと水を引っかけられて最悪だったけど、可愛いペットができた。
「いいかい、この中に僕の妻フェイが夕飯を作って待ってるんだけど、決して吠えたり、噛みついたりしないでくれよ。僕の大切な愛妻だからな」
「ワン」
それでも、不安だったが、洞窟の入り口で身体を屈めて、フェンと共に中に入った。
「只今」「ワン、ワン」
僕の心配は杞憂だったみたいで、フェンは尻尾を激しく降って、飛びつき、ちんちんするように、二本脚で立って、何度もジャンプして、そのままフェイを押し倒し、ぺろぺろと顔を舐めだした。
僕にフェイの匂いが染みついていたからかもしれない。
「お帰りなさい。どうしたのこの子犬、ちょっと、やめて。えっ、フェンリル? 健斗の眷族って、いったい何があったの」
「話せば長くなるから、食事でも食べながら話すよ。ますば食事にしよう」
そういう訳で、フェンにも人間の食事をお裾分けして、床で食べさせ、ことの経緯を説明することにした。
「実は、魔物の森に最初に入った日に、……」
蜘蛛から助けた所から、今日、フェンリルにボコボコにされたことまですべてを話して聞かせた。
「もう、そんな危険な所になんでいくのよ。ケントが死んだりしたら、私がどんなに悲しむか分かってる?」
その後も、延々と説教が続き、食事が終わっても、暫く許してもらえなかった。
でも、これまたフェンが仲裁に入ってくれて、漸く、永い説教は終りになった。
それからは、新たな家族との団欒タイム。お風呂をパスすることにして、フェンと遊んだ。
フェイが追いかけっこして遊んでいる間に、僕は枯れ木を加工してボールを作り、そのボールを投げて拾わせる遊びを延々に繰り返した。
フェンも僕らも楽しんで、時間が経つのを忘れていたが、フェイの一言で、僕ら二人にとって深刻となる問題に気づいた。
「犬小屋も、首輪もないのに、この子、どうするつもり」
気づけば、愛の営みの時間になっていたが、フェイがいると、セックスできなくなってしまうのだ。
「ここで、大人しく、寝てもらえばいいさ」
僕は、フェイに先に行ってもらい、バスタオルを敷いてフェンの寝床をつくると、フェンの説得に掛かった。
「いいかい、フェンは今日からここで寝るんだ。僕とフェイは、子作りという大変な苦行をしないとならないから、ここでおとなしくしてるんだぞ」
だが、やはりダメ。その後もいろいろと言い訳して説得してみたが、どうしても納得してもらえず、寝室の入り口までついてきてしまった。
こうなれば強行手段だ。僕は入り口の石を横にどけると、「ほら、拾っておいで」とボールを鍾乳洞の奥へと投げ、入り口を中から、石で蓋をした。
フェンは直ぐにボールを取って来て、外でワンワンと吠え始めて、可哀そうだったが、仕方がない。諦めて、台所に準備した寝床でねるだろうと判断した。
フェイは既にローブに着替えて、ランタンを付けたまま、布団の中で待っていてくれた。
そんな訳で、僕も急いで裸になって、布団にもぐりこみ、いつもの様に口づけして愛撫していたら、フェンが僕らの間に鼻を突っ込んできた。
「おまえ、あの石をどけてきたのか」
「ワン」
「この子、私より力があるから、そんなことしても無理よ。今日は諦めるしかなわね」
フェイは、本気でそんなことをいっているのか、裸で立ち上がって、ローブを再び着てしまった。
「魔物が入ってくると大変だから、ちゃんと石で蓋をしてきてね」
僕はパンツ一丁の姿で、蓋をしに下に降り、戻ってくると既に真っ暗になっていて、フェンがクンクンと辺りの臭いを嗅ぎまわっていた。
「なあ、良いだろう。フェンがいないと思えば。ねっ」
「しかたがないわね」 やはりフェイもしたかったみたいだ。
僕らは再びキスをして愛撫を始めたが、その途端、やはりフェンが割り込んで邪魔しに来た。
「これじゃ、無理ね。やはり、今日は無しにしましょう」
彼女はそう言って、ローブを正し、まだ寝るには早いのに、寝ようとした。
でも、僕はどうしてもしたかった。彼女を抱き寄せ、キスをして、胸を揉む。
「ちょっと、何考えてるの。フェンがいるんだから、できる訳ないでしょう。おやすみなさい」
フェイは、拒絶して背を向けてしまった。
それでも、後ろから手を伸ばして、ガウンのあわせから手を入れたが、思いっきり、その手をつねられた。
しかも、フェンがまたも僕とフェイの間に鼻を突っ込んで潜り込んできて、あきらめるしかなかった。
でも、目が冴えて寝むれない。毎日、何度も愛し合うのが習慣になっていたので、身体は凄く疲れているのに、セックスしないと寝むれない。
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