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第三章 力を持つと人は道を踏み外すのかな

3-4 僕はまだまだ弱かった

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 この荒野エリアには、強い魔物がゴロゴロいるのに、このままでは、今日中にもう一度レベルアップするという目標が未達に終わる。
 僕は、マナヒールを掛けると、再び魔物探しに出かけた。
 程なく、八体の赤い点を見つけた。
 またあの狼軍団かと思ったが、動きが遅いので、違う筈だと信じて、その方向へと、歩みを進めた。

 近寄ると、やはり狼ではなく、全長一メートル弱の蜘蛛の軍団だった。蜘蛛と言っても、上の森ににいたタラテクトとは異なる種類だ。
 五十メートル位離れた位置から、こっちを向いている蜘蛛の一匹を鑑定してみると、アラクネクトとあった。レベル45で、能力値は、ほぼ均等な2000程度で、タラテクトほどの機動性はない。
 かなり弱い部類の魔獣で、それが八体も居て、これはいい経験値稼ぎになる。
 知力、創造力が僕より遥かに勝っているのに、僕はその点を気にもせず、自らに身体強化のバフを掛け、抜刀して蜘蛛狩りを始めることにした。

 先ず一体目と、目の前蜘蛛に切りかかって走り寄ると、正面の一匹以外は、さっと散開するかのように逃げ出した。
 それでも構わないと、僕は目の前の蜘蛛に襲い掛かったが、その一匹は待っていたかのように、後方に飛び退いた。
 気づけば、僕は四体に包囲されていた。
 逃げようとしているのは四体だけで、残りの三匹は、僕を包囲するために動いただけだった。
 八体相手でも勝てる自信があったので、四体に包囲されても恐るるに足らずと、そのまま戦闘をつづけた。
 だが、どうも奴らの動きがおかしい。SPが80程度にしかあがらず、必死さが見られない。攻撃も砂掛けや、前足での牽制で、攻撃を受けないように、回避に徹している感がある。
 逃げたと思っていた四匹も、距離を取った位置で、お尻を向けたまま、しきりに穴を掘っている。
 穴を掘って地中に逃げようとしているのかと気にしていなかったが、敵から逃げるなら、そのまま走り去った方がいいに決まっている。これは何か変だ。
 僕は、お尻を向けている穴掘り中の四匹へと向かう事にした。
 だが、そうはさせないとばかりに、包囲していた蜘蛛が、襲ってくる。やはり、何かの作戦に違いない。
 僕は、蜘蛛のスキルを確認して、漸く彼らの意図を理解した。吹っ飛ばしというスキル以外に、トラップマスターのスキルを持っていたのだ。

 この荒野で、この程度の強さで生き残ってきたのは伊達じゃない。巧みな戦略で敵を罠に陥れ、勝って来たのだ。
 距離を取った後衛四体は、今、罠の仕込み中で、残り四体でその罠が完成するまでの時間稼ぎをしている。
 戦闘開始前に、スキル確認しておけば、重力魔法で動きを止め、罠を作る暇を与えなかったし、魔法無しの開戦を選んだとしても、逃げたと誤解せず、罠を仕掛けさせない様な戦いができた。
 なかなかレベルアップできない焦りから、敵を甘く見て、大失敗してしまった。

 後衛の罠張り部隊も、罠を仕掛け終わったのか、こちらを向いて、大急ぎでこちらにやって来た。
 そして、今度はU字状に陣形を変えて、罠の方に誘導するように、真剣に攻撃しはじめた。

 僕は罠地帯には近づかないようしたが、八匹相手だとそうもいかない。吹っ飛ばしスキルがあるので、体当たりの突進を完全に交わしきれないと、吹っ飛ばされてしまう。どんなに匠に受けたとしても、このスキルの効果で、突進してきた方向に吹っ飛ばされる。
 そういう訳で、徐々に罠のある方向に移動させられ、気づけば、後衛部隊がしきりに穴を掘っていた近くにまできてしまっていた。

 僕は仕方なく、初めてトラップマスターを発動してみた。スキルは常時発動しているが、トラップ位置を視認できるようにするには、トラップマスターと念じないとならない。

 すると、地面にマークが浮かび上がった。この記号は落とし穴という意味らしい。僕の周りに八個の落とし穴があり、僕はもう少しで、その穴の一つに落ちてしまうところだった。
 見事なトラップで、肉眼では落とし穴があることが全く分からない。トラップマスターを発動していなければ、落とし穴に落ちていたのは間違いない。
 先ずは、ここから離れないとならないが、蜘蛛たちは本当に匠で、このトラップ地帯から逃がさないよう完全な包囲陣を敷いている。連続瞬歩で空中に飛び上がろうとしても、飛び上がると必ず突進してきて、僕を吹き飛ばして、空高く舞い上がらせてくれないのだ。
 かといって、地上戦で仕留めようとしても、攻撃されている蜘蛛は僕を罠に落とすように方向を意識して回避に徹し、他の蜘蛛が突進してきて、僕を罠に落とそうとしてくる。

 さてどうしたものか。
 つい必死に考え込んでしまったのが悪かった。意外な方向からの蜘蛛の突進をもろに受けて、大きく吹っ飛ばされてしまった。僕の近くの罠に落とそうとしてくると思い込んでいて、この方向からの突進を警戒していなかったのだ。
 吹っ飛ばされて行く先にも、落とし穴マーク。これは不味い。直ぐに連続瞬歩で回避しないと。
 そう思ったが、この空中姿勢だと、どう蹴っても回避できない。
 僕は、どうにもできず、その落とし穴に落ちてしまった。

 予想してたより浅い穴だったが、中はべとべとの粘糸だらけ、抜け出そうとするほど糸が絡んでくる。まるでゴキブリホイホイの粘着シートの様な感じだ。

 蜘蛛たちは空中に足場となる糸を張って、粘糸には触れないようにして、毒牙攻撃をしてきた。
 火球を使いたいが、蜘蛛を指差すこともできず、真上にいるので重力魔法も使えず、蜘蛛の毒牙を受け続けることになった。
 それでも、頑張って精神統一して、自分に火傷のリジェネを掛け、僕自身を火球で焼いた。
 身体中、大火傷することになったが、蜘蛛は慌てて距離を取り、僕もトラップから何とか抜け出すことができた。だが、リュックは粘糸と共に燃え、治癒薬も毒消し薬もなくなってしまった。

 一旦距離を取った蜘蛛も、既に臨戦態勢を取っていて、再び僕に突進してきた。
 僕は、初めて土防壁グランドバリアを発動した。その防壁のなかで、僕は火傷用のヒールを身体中に掛けて治療した。
 蜘蛛は防壁を壊そうと何度も突進してきて、壁に皹が入り、直ぐに壊されそうだが、なんとか動けるまでに回復する時間は稼げた。
 だが、毒の継続ダメージは消せない。毒耐性があるといっても、みるみるHPがけづられていく。
 僕の最大HPは510あるので、それでも簡単には死なないが、早く片を付けないとならない。

 僕は防壁が崩れ切らない内に、真上に連続瞬歩で飛び上がり、そのまま空中高くまで飛んでから、蜘蛛の軍団を飛び越え、彼らから距離を取って、川がある方向へと移動した。彼らの罠から十メートル程の位置で、僕と罠との間に蜘蛛が位置する位置関係だ。
 その位置で僕は、これまた初めて大津波タイダルウェイブを放った。
 レベル13で獲得した上級広域範囲水魔法で、五十メートルもの高波で前方の全てを押し流し、更地に変える超絶破壊力を持つ魔法だ。海や湖といった巨大な水源がないと使えない魔法なので、今まで使えなかったが、ここなら巨大な川がある。
 ここから川までは百メートル程距離があるので、威力がかなり減衰してしまうが、一気に片付けるにはそれしかない。

 水源の水量は十分あったみたいで、川の水が信じられない程、高く持ち上がり、巨大津波となって、こちら目掛けて、押し寄せてくる。ここに届くまでに威力が弱まってしまったが、それでも二メートル程の波高はあり、僕は空中に飛んで、それを交し、蜘蛛たちは波にのまれて、ひっくり返る様に流されて行く。
 僕の狙い通りに、自分たちの罠にかかったのは二匹だけしかいなかったが、残りの六匹もかなり流され、危険を察して、蜘蛛の子を散らす如く、逃げて行った。
 自分で仕掛けたトラップで動けなくなっている蜘蛛を、僕は刀で滅多切りして仕留めた。

 暫く大の字姿勢で寝転んで休んでいると、毒状態からも抜け出せたみたいで、僕は体力を全快にまで戻すことができた。
 だがこれまた三十分以上も戦ったのに、止めをさせたのはレベル45の魔物二匹とという情けない結果に終わった。

 朝のレベルアップの後、レベル30の蜂二十匹と、レベル48の蜂二匹、レベル45の蜘蛛二匹を倒しているので、そろそろレベルアップしてもいいと思うのだが、今回もレベルアップはしなかった。

 その後、気配感知に映っていた赤点の場所生き、そこにいた蠍を狩った時、漸く女神の声がした。
『能力レベルが17に上昇しました。スキル「刀光暫」を習得しました。耐性「窒息耐性レベル1」が「窒息耐性レベル2」に上がりました。魔法「グランドウェイブ」を習得しました』
 本日の目標はこれで達成し、昨日の分も取り返せた。

 早速、刀光暫や、グランドウェイブを確認するため、川に戻った。
 刀光暫は、前方放射範囲型の剣技で、前方プラスマイナス四十度の放射平面状に、光の刃を飛ばす技だった。距離が離れる程威力は小さくなるが、通常の間合いであれば、兜割り程度の威力がある。
 これで、横切りも、縦切りの威力と同等になる。

 グランドウェイブは、自分を中心とした周囲広範囲型の上級土魔法で、土津波をおこす魔法だった。大津波程大規模なものではないようだが、高さ五メートル程の土石流の山を作り出し、それを津波のように周囲に押し広げて、辺り一面を敵・味方・建造物関係なく、更地に返すという強烈な魔法だ。
 地面さえあればどこでも発動できるので、ありがたい。

 ついでに、現基本能力も確認した。

   攻撃力 4853
   防御力 4940
   耐久力 5204
   精神力 4876
   機動力 4911
   知力  1321
   創造力 1225

 レベル70の秀でた能力値は、4930なので、攻撃力、精神力、機動力が目標未達だが、次のレベルアップで、目標達成できるのは間違いない。

 そこで、残る時間は、あの狼軍団の壊滅に当てることにした。
 神速で走り回り、あの狼達を探し回っていると、再び八個の赤い点の塊を発見した。動きがないので、狼軍団ではないかもしれないが、狼は基本夜行性なので、休憩中の可能性は高い。

 近づくと、やはり狼たちが昼寝していて、その一匹が僕に気づいたのか、立ち上がり僕の方を見つめてきた。
 百メートル近い距離があり、ここは風下なのに、僕に気づくとは大したものだ。そう感心しながら、鑑定してみると、『距離が遠すぎるため、鑑定に失敗しました』と言われてしまった。
 僕は、一歩ずつ距離を詰めては鑑定するを繰り返したが、その動きを不審に思ったのか、「ウオォ~~~ン」と遠吠えを始め、残りの狼たちも、一斉に起き出し、こっちを睨みつけて来た。
 でも、警戒しているだけで、襲ってくる気配はない。
 八十メートルほどまで近づくと、漸く鑑定に成功した。
 スコルハングというレベル45から48の魔獣で、防御力、攻撃力、耐久力、機動力が4000以上もあった。
 しかも、全員、神速と、噛み砕きというスキルを持っていて、噛みつき攻撃は、攻撃力がなんと二倍になる。
 どうりで、あの蠍の硬い殻を、噛み砕ける筈だ。

 あの時戦っていたら、確実に殺されていたと再確認し、今度は彼らから目を逸らさないように、後ろ歩きして距離をとっていった。
 狼達も、僕に戦意無しと判断したのか、その場に身体を伏せて、再び昼寝の続きをし始めた。

 僕は百二十メートル程距離を取って、精神強化のバフで魔力の威力を上げてから、爆裂魔法を発動すべく、恥を忍んで発動の儀式を始めた。
 呪文を声にだしながら、先ずは片足を一歩前に踏み出して、変身ポーズの様に手を回して交差させ、そのまま回転ジャブして足を踏みかえ、今度は腕ごと天を指差し、最後の詠唱「エクスプロージョン」と大声を出す。
 すると、狙い通りの位置で大爆発が起きた。ここまで爆風が吹きつけて吹っ飛ばされそうになるほどの威力だ。
 僕は、急いで、爆心地に駆け寄ると、丁度、砂塵が納まり、狼たちが全員血まみれになって倒れていた。だが、あの爆発の直撃を受けても、まだ生きている。防御力4000は伊達じゃない。
 僕は、もしかしてまたレベルアップできるかもと期待して、狼たちに止めを刺していったが、流石に八匹ではレベルアップはしなかった。
 でも、明日には必ず届くはずだと、まだ夕刻には時間があったが、マナヒールで魔力回復させ、今日はこのまま戻ることにした。

 だが、数歩歩い時、僕の気配感知レーダーに一匹の魔物が映った。
 さっきの狼の三倍以上もの速さで、一目散にこちらを目指して近寄って来る。きっと奴らのボスに違いない。
 時間もあるので、このボスも倒してから帰ろうかと思った途端、急に悪寒が走った。
 一匹だとしても、あの狼達ですら、とんでもなく強い。そのボスだとすると……。
 僕は、踵を返して、全速力で逃げ出したが、あっという間にその魔物は僕に追いつき、僕の行く手を阻むかのように四つ足で立ちふさがった。
 さっきの狼たちと見た目が違い、銀髪のアフガン・ハウンドの様な容姿をして、体長五メートルもあり、銀のタテガミを風になびかせている。スコルハングが進化した狼の魔物に違いない。
 鑑定してみたが、「鑑定阻害により、鑑定に失敗しました」とレベルどころか、種族名すらわからない。
「よくも、我が眷属達を殺してくれたな」 なんと魔獣なのに声までだした。
 僕より強い気がするが、もう逃げることはできないので、抜刀して、もう一度、マナヒールで魔力回復を計り、身体強化と精神強化のバフを掛け直し、睨みあった。

「ほう。降参せず、我と対峙しようというのか。面白い。相手してやろう」
 
 最後に、リジェネまで発動して、万全にして、先ずは重力魔法を二連続でかけ、更に電撃を落とし、一気に懐に飛び込んでいった。
 なのに、大狼は高々と跳躍して、僕の剣戟を回避した。まさか魔法が効いていないのかと、確認するため、空中から火球を放った。
 すると、当たる直前、バリアの様なものが見え、火の玉はそれに当たると分解するかのように消え去った。
 絶対魔法防壁で、魔法を無効化しているに違いない。
 ならばと、着地地点に飛び込んで、金剛突きを放ってみたが、前足で、受け流され、こちらがカウンターを浴びる。
 長い爪で、僕は顔をざっくりと切り刻まれ、軽い脳震盪まで起こしていた。
 
 その後も、致命傷を与えないように、明らかに手加減されて嬲られ、死なないぎりぎりで生かされ、もう刀も手放し、意識朦朧で全く戦えない状態なのに、嬲る様に蹴り飛ばし、弄ぶ。
 
 僕は飛んでもなく強くなったと思っていたのに、上には上がいるものだ。
 フェイの笑顔が思い浮かんだが、もう僕は彼女と二度と会えない。彼女を幸せにすると約束したのに、僕はもうこの世界からも居なくなる。
 でも、楽しいことが沢山できた。僕が死んだと知って、悲しみに暮れると思うと、それだけが心残りだが、今回の転生人生は最高だった。
 僕はそんなことを考えながら、次第に意識が遠のいていった。

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