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他の女に目移りしたら、婚約者は他の男と親密だった

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「そうなんですねー殿下って」

「ふふ、内緒にしてくれよ?」


王太子ダナリムは、城の庭園で息抜きをしてる所で迷い込んできた令嬢と知り合った。
ころころと表情を変える伯爵家の令嬢に心が癒やされた。


彼女とは違う。
婚約者のマルシアとは。


ダナリムの婚約者、公爵令嬢マルシアは、美しい令嬢だがいつも鋭い目線でダナリムを射抜く。

声を上げることはない。
それも、ダナリムの愚かな発言のせいなのだが。
じっとただただダナリムを見ている。

そんな時は決まって、ダナリムが何かを忘れているときだ。

手順を反芻する。
何度繰り返しても焦りで飛ぶことが未だにある。
抜かした作法の手順を思い出し、無作法にならないよう盛り込む。

マルシアの視線から解放されれば、正解。

表に出さずに息を吐くのが常だ。
表に出そうものなら、ゴミを見るような視線が飛んでくる。

婚約者だというのに教育係のようだと思う。

そんな婚約者との茶会が楽しいと思ったことはない。
ずっとダナリムの粗を探しているようで落ち着かない。
失敗を恐れて萎縮してしまう。


昔はそうではなかった。
どちらかといえば仲が良かった。

いつしかマルシアが変わった。
王太子の婚約者としての自覚が芽生えたのかもしれなかったが、ダナリムは反抗した。

偉そうにするな!
うるさい!黙れ!

小言が多かったマルシアは黙った。
その時を境に、何も言わなくなった。

なんだ。
こう言えばよかったのか。

優越感にひたれたのは束の間だった。

招いた他国の王族への挨拶に立った。
頭を下げ、周りは騒然とした。
周りの妙な雰囲気に気づき、マルシアに視線を送ったが彼女は何も言わなかった。
いつものさりげない助言がなかった。


「ふざけているのか!先方の国では頭を下げる行為は相手に服従を意味するのだぞ!!」

場を収めた国王陛下が控室で雷を落とした。
優しい父しか知らないダナリムはその剣幕に股間をじわりと濡らした。

「この国の礼式としてなんとか流せてもらったが、もし先方の国であったなら危うく属国になるところだぞ!次はないと思え!マルシア!!」

父は、愚かな対応をした息子ではなく、婚約者の令嬢を叱りとばした。

「申し訳ございませんでした」

口答えもせず、頭を下げるマルシア。
父が去った現場でマルシアに

「悪かった」

そう謝れば、こちらを一瞥して

「いつもの事ですので」

言い残して彼女も去った。


いつもの事。

マルシアは不出来なダナリムの代わりに叱咤を受けていたことを知った。


次の日から心を入れ替え気を引き締めるが、気合だけでなんとかなるものではない。
黙れなどと言ってしまったせいで、マルシアの忠告もフォローももらえない為、前以上に手間取った。

以前のように助けがほしい。

堪らず、彼女に願い出た。

「王になろうとする方が簡単に発言を覆すものではありません」

マルシアは冷たく言い、対応を変えなかった。

そんな状態で何年も個人的な会話もなくなっていた。

王太子の張り詰めた心を慰めるのは伯爵令嬢の存在だけだった。



いつも同じ庭園ではつまらない。

思い切って、伯爵令嬢と城下に出た。
護衛は付いていたが、二人でのデートは楽しかった。

こうやって街をあるくなど婚約者とはしたことがない。


ふと、喫茶店に知った顔見た。

男女のカップル。

品はあるがおそらく平民の男と、向かい合うのは婚約者であるマルシアだった。

彼女の笑顔など何年ぶりだろうか。
屈託なく笑うマルシアは美しいというより、愛らしかった。


「殿下…?」

伯爵令嬢が動かなくなったダナリムに声をかけたが、耳に入ってない。

「…なんで…」

他の男にその顔を向けるんだ。
浮気じゃないか。

自分のことは棚上げして、頭にきた。
彼女のもとに乗り込もうとして、護衛が立ちはだかる。
だが、これはダナリムの連れていた護衛ではない。

マルシアの護衛だった。

一瞬マルシアがこちらに目を向け、ダナリムと視線が交わった。
確かに目があったのに、何事もなかったかのように正面の男に顔を向けた。

叫び出しそうな口を護衛に塞がれると、馬車に放り込まれて城に連れ戻されることとなった。
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