7 / 7
七 ファリシア
しおりを挟む
「あっ」
「ファリ、どうした」
「糸が切れちゃった」
メンテナンスのためのパペットの糸が切れた。
こういうことはよくある。またやり直せばいいだけだ。
大丈夫、と笑んでみせれぱ、心配症の夫は胸をなでおろした。
王城で騎士をやっていた彼は、職務としてではなく、ファリシアと共に居ることを選んで騎士をやめた。
彼の祖母は有名な人形師で、彼女に弟子入りし、数年で師の技を覚え、子が生まれる頃に独り立ちをした。
まさか、夫が人形師になろうとは思いもしなかった。
これも運命なのかと不思議な引き合わせだと思った。
ファリシアの家系は人形を操る傀儡の特技を持っていた。
演芸の一種として今は扱われているが、時代が違えば呪いの術だと迫害されていた技術。
父は貴族の家の生まれでありながら奔放で、他国をまわり傀儡師としてかなり名を馳せているらしい。
父の技は娘のファリシアからみても目を見張る。
まるで本当に生きているかのように人形を操る。
それこそ、呪術のようだと良い意味で称えられている。
そんなわけで、自国の名が出れば、国王の名前より父の名が先に出てくるほど他国には浸透している。
舞台で出会った歌姫だった母を娶り、母を苦労させぬためにと祖国に戻ると、それまでの活動が国への貢献度が高いと評価を受け、叙爵が認められた。
そんな父に、当時の国王は嫉妬していた。
ただの一貴族が、自他国共に、王よりも有名であったこと。
その妻が見目もよく、王の好みであったこと。
王がファリシアを王太子の婚約者に選んだのは、我が家に王家の間者を入れ込みやすくする為だったのだろうと、後に父は言っていた。
王は画策していたのだ。父に罪を着せ投獄し、母を奪う事を。
そしてそれは速やかに実行された。
父は抵抗せずに、王が用意した罪を受け入れた。
捕らえに来た騎士らは、父と母に似た人形を抱えて去っていった。
彼らには、人形が本物の人に見えていた。
父は傀儡師の力を使い、身代わりを立てたのだ。
「財産は他国に移動させてあるし、爵位など返してやる。もはやこの国に未練はない。お前は好きにしていいぞ」と言い残して父と母は国を出た。
ファリシアも、受け継いだ傀儡の技で身代わりを立てて逃げることも考えたが、密室牢でひたすら刺繍をこなすという刑罰と知り、おとなしく投獄された。
深い考えはない。
三食昼寝付きの環境で過ごせそうだと緩く思ってのことだ。
刺繍は、こっそり持ち込んだ小さい人形に傀儡の力で代行させ、半年の刑期をまったりごろごろと過ごしていた。
出所日にまさか迎えがあるとは思っていなかった。
婚約破棄をした元婚約者が、護衛にと騎士を寄こしたのだった。
とにかく、元婚約者はファリシアに対しての執着が酷かった。
初めこそお断りをしたが、破棄した元婚約者の身を案じてのことと聞いて驚いた。
彼は身勝手で独りよがりな性格だった。
こちらの都合などお構いなしで、正直なところ苦手な人間だった。
その彼が、ファリシアを助ける事ができなかったと謝罪の手紙を騎士に託していた。
住む場所まで、わざわざ王家と不仲の辺境伯の領地に用意してあったのは、辺境領主なら、国王の不当な命令などに応じず、ファリシアを匿ってくれるだろうとの事。
わざわざ彼は辺境伯と交渉してくださったのだろう。
あの男が。
以前では考えられないほど、人が変わったような仕事ぶりにファリシアは元婚約者だった男を少し見直した。
だから、彼がキャスリン様と婚姻したと知って、夫に木彫りの作品を用意して貰い、祝福を施してお祝いに贈った。
彼のおかげで、キャスリンも最愛となった男と一緒になれたから。
ただ、退位した前国王が、ファリシアの母(の傀儡)を自室で囲い込んでいるなんて話は知りたくはなかった。
まだ、あの傀儡は稼働しているのか。
操師の手の届かぬ場所で、十年は超えるだろうに。
ファリシアが、夫のように師を超えるような技を身につけるのは程遠い。
「ファリ、どうした」
「糸が切れちゃった」
メンテナンスのためのパペットの糸が切れた。
こういうことはよくある。またやり直せばいいだけだ。
大丈夫、と笑んでみせれぱ、心配症の夫は胸をなでおろした。
王城で騎士をやっていた彼は、職務としてではなく、ファリシアと共に居ることを選んで騎士をやめた。
彼の祖母は有名な人形師で、彼女に弟子入りし、数年で師の技を覚え、子が生まれる頃に独り立ちをした。
まさか、夫が人形師になろうとは思いもしなかった。
これも運命なのかと不思議な引き合わせだと思った。
ファリシアの家系は人形を操る傀儡の特技を持っていた。
演芸の一種として今は扱われているが、時代が違えば呪いの術だと迫害されていた技術。
父は貴族の家の生まれでありながら奔放で、他国をまわり傀儡師としてかなり名を馳せているらしい。
父の技は娘のファリシアからみても目を見張る。
まるで本当に生きているかのように人形を操る。
それこそ、呪術のようだと良い意味で称えられている。
そんなわけで、自国の名が出れば、国王の名前より父の名が先に出てくるほど他国には浸透している。
舞台で出会った歌姫だった母を娶り、母を苦労させぬためにと祖国に戻ると、それまでの活動が国への貢献度が高いと評価を受け、叙爵が認められた。
そんな父に、当時の国王は嫉妬していた。
ただの一貴族が、自他国共に、王よりも有名であったこと。
その妻が見目もよく、王の好みであったこと。
王がファリシアを王太子の婚約者に選んだのは、我が家に王家の間者を入れ込みやすくする為だったのだろうと、後に父は言っていた。
王は画策していたのだ。父に罪を着せ投獄し、母を奪う事を。
そしてそれは速やかに実行された。
父は抵抗せずに、王が用意した罪を受け入れた。
捕らえに来た騎士らは、父と母に似た人形を抱えて去っていった。
彼らには、人形が本物の人に見えていた。
父は傀儡師の力を使い、身代わりを立てたのだ。
「財産は他国に移動させてあるし、爵位など返してやる。もはやこの国に未練はない。お前は好きにしていいぞ」と言い残して父と母は国を出た。
ファリシアも、受け継いだ傀儡の技で身代わりを立てて逃げることも考えたが、密室牢でひたすら刺繍をこなすという刑罰と知り、おとなしく投獄された。
深い考えはない。
三食昼寝付きの環境で過ごせそうだと緩く思ってのことだ。
刺繍は、こっそり持ち込んだ小さい人形に傀儡の力で代行させ、半年の刑期をまったりごろごろと過ごしていた。
出所日にまさか迎えがあるとは思っていなかった。
婚約破棄をした元婚約者が、護衛にと騎士を寄こしたのだった。
とにかく、元婚約者はファリシアに対しての執着が酷かった。
初めこそお断りをしたが、破棄した元婚約者の身を案じてのことと聞いて驚いた。
彼は身勝手で独りよがりな性格だった。
こちらの都合などお構いなしで、正直なところ苦手な人間だった。
その彼が、ファリシアを助ける事ができなかったと謝罪の手紙を騎士に託していた。
住む場所まで、わざわざ王家と不仲の辺境伯の領地に用意してあったのは、辺境領主なら、国王の不当な命令などに応じず、ファリシアを匿ってくれるだろうとの事。
わざわざ彼は辺境伯と交渉してくださったのだろう。
あの男が。
以前では考えられないほど、人が変わったような仕事ぶりにファリシアは元婚約者だった男を少し見直した。
だから、彼がキャスリン様と婚姻したと知って、夫に木彫りの作品を用意して貰い、祝福を施してお祝いに贈った。
彼のおかげで、キャスリンも最愛となった男と一緒になれたから。
ただ、退位した前国王が、ファリシアの母(の傀儡)を自室で囲い込んでいるなんて話は知りたくはなかった。
まだ、あの傀儡は稼働しているのか。
操師の手の届かぬ場所で、十年は超えるだろうに。
ファリシアが、夫のように師を超えるような技を身につけるのは程遠い。
3,257
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる