王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝

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七 ファリシア

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「あっ」
「ファリ、どうした」
「糸が切れちゃった」

メンテナンスのためのパペットの糸が切れた。
こういうことはよくある。またやり直せばいいだけだ。

大丈夫、と笑んでみせれぱ、心配症の夫は胸をなでおろした。

王城で騎士をやっていた彼は、職務としてではなく、ファリシアと共に居ることを選んで騎士をやめた。
彼の祖母は有名な人形師で、彼女に弟子入りし、数年で師の技を覚え、子が生まれる頃に独り立ちをした。

まさか、夫が人形師になろうとは思いもしなかった。
これも運命なのかと不思議な引き合わせだと思った。


ファリシアの家系は人形を操る傀儡の特技を持っていた。

演芸の一種として今は扱われているが、時代が違えば呪いの術だと迫害されていた技術。

父は貴族の家の生まれでありながら奔放で、他国をまわり傀儡師としてかなり名を馳せているらしい。

父の技は娘のファリシアからみても目を見張る。
まるで本当に生きているかのように人形を操る。
それこそ、呪術のようだと良い意味で称えられている。

そんなわけで、自国の名が出れば、国王の名前より父の名が先に出てくるほど他国には浸透している。

舞台で出会った歌姫だった母を娶り、母を苦労させぬためにと祖国に戻ると、それまでの活動が国への貢献度が高いと評価を受け、叙爵が認められた。

そんな父に、当時の国王は嫉妬していた。
ただの一貴族が、自他国共に、王よりも有名であったこと。
その妻が見目もよく、王の好みであったこと。

王がファリシアを王太子の婚約者に選んだのは、我が家に王家の間者を入れ込みやすくする為だったのだろうと、後に父は言っていた。

王は画策していたのだ。父に罪を着せ投獄し、母を奪う事を。

そしてそれは速やかに実行された。
父は抵抗せずに、王が用意した罪を受け入れた。
捕らえに来た騎士らは、父と母に似た人形を抱えて去っていった。

彼らには、人形が本物の人に見えていた。

父は傀儡師の力を使い、身代わりを立てたのだ。

「財産は他国に移動させてあるし、爵位など返してやる。もはやこの国に未練はない。お前は好きにしていいぞ」と言い残して父と母は国を出た。

ファリシアも、受け継いだ傀儡の技で身代わりを立てて逃げることも考えたが、密室牢でひたすら刺繍ろうどうをこなすという刑罰と知り、おとなしく投獄された。

深い考えはない。
三食昼寝付きの環境で過ごせそうだと緩く思ってのことだ。

刺繍は、こっそり持ち込んだ小さい人形に傀儡の力で代行させ、半年の刑期をまったりごろごろと過ごしていた。


出所日にまさか迎えがあるとは思っていなかった。

婚約破棄をした元婚約者が、護衛にと騎士を寄こしたのだった。

とにかく、元婚約者はファリシアに対しての執着が酷かった。
初めこそお断りをしたが、破棄した元婚約者の身を案じてのことと聞いて驚いた。

彼は身勝手で独りよがりな性格だった。
こちらの都合などお構いなしで、正直なところ苦手な人間だった。

その彼が、ファリシアを助ける事ができなかったと謝罪の手紙を騎士に託していた。

住む場所まで、わざわざ王家と不仲の辺境伯の領地に用意してあったのは、辺境領主なら、国王の不当な命令などに応じず、ファリシアを匿ってくれるだろうとの事。
わざわざ彼は辺境伯と交渉してくださったのだろう。
あの男が。

以前では考えられないほど、人が変わったような仕事ぶりにファリシアは元婚約者だった男を少し見直した。

だから、彼がキャスリン様と婚姻したと知って、夫に木彫りの作品を用意して貰い、祝福を施してお祝いに贈った。

彼のおかげで、キャスリンも最愛となった男と一緒になれたから。

ただ、退位した前国王が、ファリシアの母(の傀儡)を自室で囲い込んでいるなんて話は知りたくはなかった。

まだ、あの傀儡は稼働しているのか。
操師の手の届かぬ場所で、十年は超えるだろうに。

ファリシアが、夫のように師を超えるような技を身につけるのは程遠い。


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