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契約者たちの戦い方

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「・・・なんだこれ。
 聞いてない。聞いてないぞ。」

 男は恐怖で動かなくなった自身の体に叱咤しながら、ジリジリと後退した。

 目の前で人が木の葉の様に吹き飛んでいく様は、現実とは思えなかった。

 男が“ドラゴニルス”と呼ばれる組織に加わって3年ほど経った。

 世界各地で不作となった田畑は,多くの人を飢えと疲弊のドン底に落とした。

 この世界は龍と、その恩恵に縋るロンサンティエ帝国に牛耳られている。
 他の国はロンサンティエ帝国が搾り取った富の残り滓で生きている様なもの。

 “ドラゴニルス”に加入して世界の歪さを理解した。

 与えられる幸福を待つなんて愚かだ。
 龍から施しを受ける生活ではなく、龍の力を利用してこそが人間が幸せに暮らす方法だ。

 この聞こえの良い言葉に彼は飛びついた。
 ただの獣でしかない龍の機嫌を、なぜ人間が気にしなけらばならないのだ。

 龍に振り回されて、自分達は不幸だったではないか。

 溜まりに溜まった不満は、奪うという単純な思考へと変化していった。

 フロドゥール国を隠れ蓑にして暗躍していくうちに、自分達が裏社会をコントロールしている気でさえいた。

 多くの仲間の活躍に高揚し、ますます思想に溺れていく日々。
 
 だが、彼等は忘れていた。
 自然の世界において自分達がちっぽけな存在であるいう事を・・・。

 人間に牙を向く自然は、容赦なく安寧を壊していく。
 加えて人々は争い、自分達で平和を乱し、子供達へ未来の天望を考えさせる暇さえ失くす。

 それでも、弱い人間達は誰かの所為にしないと生きていけないし、何かを理由しなければ躓いた言い訳をする事も出来ないのだ。

 今回は、人間が龍から力を奪う絶好の機会だった。

 噂で聞けば、ロンサンティエ帝国に現れた龍の姫巫女は6匹の龍を従えているという。
 
 1匹でも従属させれば“ドラゴニルス”が人類の頂点に立つのも夢ではない。

 むしろ、それこそが人を幸せに導く唯一の方法であるとさえ思っていた。

 愚かな人間達は忘れたのか?

 かつて、龍を無理やり使役し、力を奪い蹂躙した事によって、龍達の怒りに触れた過去を・・・。

 忘れたのではない。

 今度こそ上手くいくという根拠のない自信が、今回の傲慢な行動に現れていた。

 龍を奪おうと意気込んできた“ドラゴニルス”。

 現実では、龍ですらない人間達の返り討ちにあっていた。

 恐怖が彼等の自身の根底をグラグラと破壊していく。

「・・・ダメだ。もう、無理だ・・・。」

 逃げ出そうと重い足を引きずる男は背後から突っつかれ「ギャァァ!」と情けない声を出した。

 振り返れば、先程からいた少年が自分を不思議そうに見上げていた。

「お帰りの時間はまだですよ。
 おもてなししなさいってクレイさんが言ってました。」

「・・・おもてなし?」

 先程まで狂人じみた者の戦いを見ていたのだ。
 少年が目の前に現れて、何処か安堵している自分がいた。

 しかし、少年の手から炎が現れると、男の視界は一気に塞がれたのだった。

 
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