溜息だって吐きたくなるわっ!〜100賢人仕込みの龍姫は万年反抗期〜

ぽん

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皇帝が欲しかったもの

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ーーーそれは、貴方が多くを求めたから。
 そして、彼が多くを求めなかったから。


 龍の姫巫女リリィの言葉に昔を思い出していたハイゴール・ウィリはハッとした。

「奴は最初から何でも持っていた。」

 母であるカヤノ・オーマンからの愛情
 父である先帝からの笑顔
 才能豊かで剣技や魔法も使える・・・。

 決して、劣等生ではなかったハイゴール・ウィリは、いつも心が満たされずにいた。
 
 母から笑顔を向けられた事はない。
 父も自分には興味など、まるでなかった。
 他者は期待をかけるだけで、何も手を貸してはくれない。
 自分が落ちぶれれば、逃げ出していくような薄情者ばかりだ。

 ぽっかりと空いた心で、ふと思い出す。

 ディミトリオ・ハクヤの物であって、ハイゴール・ウィリが唯一奪えなかった物。

 それが、彼の母であるカヤノ・オーマンであった事は間違いない。

 父である先帝でさえ、彼女の心を手に出来たとは思えない。

 後宮で過ごす彼女の全ての愛情はディミトリオ・ハクヤに注がれていた。

 誰にも奪われる事なく、一心に息子を愛するカヤノ・オーマンはハイゴール・ウィリにとっても特別だったのかもしれない。

 1つだけ忘れる事の出来ない事がある。

 いつだったが、彼女から向けられた憐れみに似た視線が、どうしても忘れられない。
 あれには、どんな意味があったのだろう。
 何故、自分には笑顔ではなく哀れみなのだ・・・。

「奴は、最初から何でも持っていた。
 兄である私よりも・・・。」

 呟くハイゴール・ウィリにリリィの苦笑が聞こえた。

「貴方に全て奪われたけどね。
 全てを持っていたというのなら、貴方も同じように多くの物を持っていたのよ。」

 リリィの言葉にハイゴール・ウィリはキッとなった。

「ないっ!
 私には何もなかった!」

 リリィは目を細めるとハイゴール・ウィリをジッと見つめた。

「母からの愛情?
 父からの期待?
 才覚や剣技の強さ?
 貴方、思っていたよりも単純ね。」

「クッ!」

 悔しそうなハイゴール・ウィリにリリィは溜息を吐いた。

「それ以外は全て持っていたでしょうに?
 本当に欲張りね。
 街で暮らすお金に困っている市民の中には拾った小石を磨いて幸せを感じている人間もいる。
 そして、貴方のように全てを持っていても金塊を並べられようが満たされずにいる人間もいる。
 ・・・・人なんてのはね。
 自分で満足を決めていいのよ。
 
 幸せの上限を決めたのは貴方。
 持っている物で幸せになれないのも貴方。
 結局は貴方が自分を好きになる事が出来なければ、いくら人から奪おうと貴方は満たされない。
 それは永遠に・・・死ぬまで。
 それを決めたのも貴方。」

 眉を下げるリリィにカヤノ・オーマンの顔が重なる。
 ハイゴール・ウィリはグッと目頭を抑えた。
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