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桃の涙と覚悟
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「えっ、ヤダ!
虫の話なんてしないでよ。」
マドレーヌが眉間に皺を寄せると、少年は小さく笑った。
「その虫こそが、花の美しさをを保つ助けをしてくれてるんだよ。
何も知らないで拒絶をしてはいけないよ。
支える者がいてこそ、花は輝けるんだから。」
マドレーヌには少年の言っている事が分からなかった。
答えずにいると少年はコチラを向く事なく再び微笑んだ。
「君のドレスは誰が作ったの?」
「え?・・・分からないわ。」
不貞腐れるマドレーヌに少年は教えた。
「ドレスの生地は植物から採る事が出来る。
それを摘む人がいて、植物から糸を作る人がいて、糸を布にする人がいて、布を裁断する人がいて、裁断した布を縫う人がいて、最終的に完成させる人がいる。
そして侍従やメイドに運ばれて、君は華やかに着飾らせてもらってるんだよ。
ドレスを作る人や、着せてくれる人が虫だとしたら、君は花だ。
君の美しさは君だけの力かな?」
マドレーヌは目を丸くした。
「・・・いいえ。
私にドレスを着せてくれるメイドがいなければ、私は美しくなれないわ。
運ぶドレスがなければメイドは仕事がなくなるし、最終的にドレスを完成させる人がいなければ、ドレスは美しくならないし、布を縫う人がいなければドレスは出来上がらないし、布を裁断してくれる人がいなければ縫う人は、ずっと暇だし、布を作る人がいなければ糸は細いままだし、糸を作る人だって何の為に糸を作っているのか分からなくなるわ。
そして植物を摘んでくれる人がいなければ何も始まらないのね・・・。」
マドレーヌの言葉に、少年は初めて興味を持ったのか顔を上げた。
真っ黒な髪の美しい少年だった。
「君、茶会はどうしたの?」
「面白くなくて、逃げて来たの。
貴方は?」
「・・・同じかな。」
そう言って目を逸らす少年にマドレーヌは微笑むと迷う事なく少年の隣に座り込んだ。
突然、隣に座られてギョッとした少年は、さっきまでの饒舌が嘘の様に言葉に詰まった。
「ド・・ドレス・・・汚れるよ。」
「良いのよ。
汚れたら、侍女達に謝るわ。
それより、何の本を読んでるの?」
グイッと顔を近づけるマドレーヌに少年は戸惑っていた。
「初代様と龍王様の話・・・。」
「わぁ。
神話ね。
私も少し読んだ事あるわ。
でも、この本は初めて見るわ。
貴方のお家の本?」
「まぁ・・・そうかな。」
「貴方のお家って本が沢山あるの?」
少年はチラッと建物を見るとコクンと頷いた。
「図書室にいっぱいあったよ。」
「わぁ。
私も見てみたいな。」
「・・・今度、見てみる?
母上に聞いてみる。」
「良いの?
でも、無理しなくて良いからね。
貴方が怒られたら私が悲しくなるもの。」
「聞くだけなら怒られないよ。」
茶会が盛り上がりを見せている中、2人の少年と少女は本に顔を寄せて楽しんだ。
「ねぇ。
貴方の名前は?
私の名前はマドレーヌ・ヴァロア。」
「・・・ハクヤ。
ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエだ。」
「ロンサンティエ?
さっきの偉そうな男の子も、そう言ってたわ。」
「・・・兄さんだからね。」
少年が気まずそうに目を逸らす中、マドレーヌは勢いよく立ち上がると、淑女の御辞儀をした。
「そう。
会えて嬉しいわ。
ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエ様。」
少年は驚いた様に目を見開き、恥ずかしそうに立ち上がった。
「・・・ハクヤでいいよ。
家族は・・・母上は、そう呼ぶから。」
「舌を噛むくらい長い名前だものね。
いいわ。
ハクヤね。
私の事はマドレーヌと呼んでね。」
小さな恋の始まりだった。
虫の話なんてしないでよ。」
マドレーヌが眉間に皺を寄せると、少年は小さく笑った。
「その虫こそが、花の美しさをを保つ助けをしてくれてるんだよ。
何も知らないで拒絶をしてはいけないよ。
支える者がいてこそ、花は輝けるんだから。」
マドレーヌには少年の言っている事が分からなかった。
答えずにいると少年はコチラを向く事なく再び微笑んだ。
「君のドレスは誰が作ったの?」
「え?・・・分からないわ。」
不貞腐れるマドレーヌに少年は教えた。
「ドレスの生地は植物から採る事が出来る。
それを摘む人がいて、植物から糸を作る人がいて、糸を布にする人がいて、布を裁断する人がいて、裁断した布を縫う人がいて、最終的に完成させる人がいる。
そして侍従やメイドに運ばれて、君は華やかに着飾らせてもらってるんだよ。
ドレスを作る人や、着せてくれる人が虫だとしたら、君は花だ。
君の美しさは君だけの力かな?」
マドレーヌは目を丸くした。
「・・・いいえ。
私にドレスを着せてくれるメイドがいなければ、私は美しくなれないわ。
運ぶドレスがなければメイドは仕事がなくなるし、最終的にドレスを完成させる人がいなければ、ドレスは美しくならないし、布を縫う人がいなければドレスは出来上がらないし、布を裁断してくれる人がいなければ縫う人は、ずっと暇だし、布を作る人がいなければ糸は細いままだし、糸を作る人だって何の為に糸を作っているのか分からなくなるわ。
そして植物を摘んでくれる人がいなければ何も始まらないのね・・・。」
マドレーヌの言葉に、少年は初めて興味を持ったのか顔を上げた。
真っ黒な髪の美しい少年だった。
「君、茶会はどうしたの?」
「面白くなくて、逃げて来たの。
貴方は?」
「・・・同じかな。」
そう言って目を逸らす少年にマドレーヌは微笑むと迷う事なく少年の隣に座り込んだ。
突然、隣に座られてギョッとした少年は、さっきまでの饒舌が嘘の様に言葉に詰まった。
「ド・・ドレス・・・汚れるよ。」
「良いのよ。
汚れたら、侍女達に謝るわ。
それより、何の本を読んでるの?」
グイッと顔を近づけるマドレーヌに少年は戸惑っていた。
「初代様と龍王様の話・・・。」
「わぁ。
神話ね。
私も少し読んだ事あるわ。
でも、この本は初めて見るわ。
貴方のお家の本?」
「まぁ・・・そうかな。」
「貴方のお家って本が沢山あるの?」
少年はチラッと建物を見るとコクンと頷いた。
「図書室にいっぱいあったよ。」
「わぁ。
私も見てみたいな。」
「・・・今度、見てみる?
母上に聞いてみる。」
「良いの?
でも、無理しなくて良いからね。
貴方が怒られたら私が悲しくなるもの。」
「聞くだけなら怒られないよ。」
茶会が盛り上がりを見せている中、2人の少年と少女は本に顔を寄せて楽しんだ。
「ねぇ。
貴方の名前は?
私の名前はマドレーヌ・ヴァロア。」
「・・・ハクヤ。
ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエだ。」
「ロンサンティエ?
さっきの偉そうな男の子も、そう言ってたわ。」
「・・・兄さんだからね。」
少年が気まずそうに目を逸らす中、マドレーヌは勢いよく立ち上がると、淑女の御辞儀をした。
「そう。
会えて嬉しいわ。
ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエ様。」
少年は驚いた様に目を見開き、恥ずかしそうに立ち上がった。
「・・・ハクヤでいいよ。
家族は・・・母上は、そう呼ぶから。」
「舌を噛むくらい長い名前だものね。
いいわ。
ハクヤね。
私の事はマドレーヌと呼んでね。」
小さな恋の始まりだった。
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