68 / 276
混沌なる後宮
67
しおりを挟む「あれはあれで、厄介な女なのだ。」
ディミトリオ・ハクヤの呟きでリリィは思い出した。
気絶した皇帝と共に広間を去って行った皇后はチラリとリリィに視線を送り、怯えるでもなく品定めをしていたのだ。
彼女の側には皇子と姫がいた。
第1皇子として生まれたジャンヴィエ・リーン・ロンサンティエ。
そして、初の姫として誕生したアブリエル・エマ・ロンサンティエである。
ジャンヴェエ・リーンは両親譲りの丹精な顔立ちで勉強も剣術も優秀な事から継承順位1位として周囲から大いに期待されている。
継承順位2位のアブリエル・エマは父に似た美しい金色の髪に母に似た美貌を持っていた。
両親共に愛を注ぎ我儘に育ったと評判であるアブリエル・エマもまた華やかな社交界では権力を持っていた。
“龍王島”にてクレイに教えられた情報を元に自分自身の目で観察したリリィは「成程・・・。」と笑った。
それでもリリィが1番に興味を持ったのは皇妃でも第1皇子や第1姫でもなかった。
皇帝を中心に並ぶ側妃達の中にいて、皇妃に次いで皇帝に近い位置にいた女性。
《あれが、マドレーヌ妃か・・・。》
かつてディミトリオ・ハクヤと愛を誓った婚約者であった女性。
ヴァロア公爵家の長女として生まれ、可憐な青春期をディミトリオ・ハクヤと共に過ごした少女は果物の様なピンク色の髪を持ち、ある茶会で当時皇太子であったハイゴール・ウィリに目をつけられた。
果敢に抵抗したディミトリオ・ハクヤとマドレーヌであったが、皇太子から皇帝に即位したハイゴール・ウィリの権力の前に純愛と決別する決心をせざる得なかった。
以後、1人の皇子を産み落とすと後宮に与えられた離宮に引き篭もり、滅多に人前に現れる事はない。
後宮の管理人となったディミトリオ・ハクヤとも直接の会話は避けているらしい。
式典ですら興味なく、心を捨てたような目をしていたマドレーヌの側には1人の青年がいた。
マドレーヌ妃にそっくりのピンク色の髪色を持ち、何処となく皇帝に似た顔立ちをした彼こそが継承順位3位のファヴィリエ・ルカ・ロンサンティエであろう。
クリっとした目を持つ母マドレーヌに比べて、鋭いアーモンドアイの瞳には後宮・・・そして王宮の濁りが見えているのだろうか?
一瞬、リリィと目が合った時に驚いた様に目を見開いていた彼であったが、それも直ぐに元の冷え切った瞳に戻っていた。
その他にも、隣国の小国から嫁いできた側妃に貴族上がりの側室・・・侍女であったが、お手付きの末に子を宿した側室など皇帝の周りには様々な女性がいた。
その全てが龍の姫巫女であるリリィの存在を注視している事だろう。
「面倒臭い・・・いっそ、全部壊してやろうかな。」
物騒な事を口走り、ディミトリオ・ハクヤを慌てさせるリリィであった。
応援ありがとうございます!
24
お気に入りに追加
973
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる