続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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影と黒 〜愛されし者達の対峙〜

770 〜その魂が陰るまで③〜

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『神に捧げられる事は名誉な事。』
『神子様しか人々を救う事は出来ない。』
『神に愛されるとは、何と有難い事だ。』

 甘い戯言を口にする大人達を彼は沈んだ目で見つめていた。
 
 誰も彼もが、真っ黒に見える。
 真っ黒な顔が笑っているのだ。

 結局は親に捨てられた都合の良い子供が用済みになっただけだった。

 光沢ある祭服から麻のゴワゴワした服に着替えさせられ、逃げないように腰紐を結ばれ杭に繋げられた。
 木の檻の中に押し込まれた彼は、残酷にも生贄として神に捧げられたのだった。
 
 食べる物も与えられず水も貰えず、衰弱していく彼に大人達は早く死ねと望んだ。
 大人達の思惑を分かっていない子供達には石を投げられた。
 神に愛された故に生命力があったのが災いした。
 どんなに辛くても、苦しくても死ぬ事が出来ないのだ。

 朝には鷲が、夜になれば野犬が彼の死肉を求めて見つめてくる。

 木の檻が怖いのか、見えない何かの所為なのか、一定以上は近づいてこない。
 ただただ、弱まっていく彼を見つめているだけだった。

 そんな野生の生き物達を見て、彼は思い出した。

 野苺を摘んだ森。水浴びをした川。
 父に、その妻に愛されずとも野山を歩いていた時間を懐かしく思った。

 誰にも干渉されず、邪魔をされる事なく優しい太陽の光を浴び、澄んだ空気を吸いたい。
 あぁ・・・あの頃に戻りたい。


 そうして、ついに彼の命の灯火が消えた。


 死して、やっと解放されたのだ。
 
 彼の死を確認した住人達は喜んだ。
 これで神の怒りは鎮まり、再び雨が降る事だろう。
 草木に色と艶が戻り、実りを得る事が出来るし、川が蘇れば魚が煌めく水辺を泳ぎ出す。

 住人達は神子を捧げた見返りを求めて、期待と希望を握り締め神に祈った。
 
 1ヶ月・・・半年・・・1年・・・2年・・・3年・・・

 雨が降る事はなかった。
 
 彼の命1つで降る雨などないのだ。
 住人達は、それを理解しなかった。
 役に立たないと彼に怒りをぶつけ、神子を囲い込んでいた教会を襲い始めた。

 『神に仕えし我等に罰当たりな!』
 
 神を盾にする教会を前にしても、住人達の激昂は治まることはない。
 その中には彼の父がいたし、その妻もいた。
 この日照りの影響で2人の間に生まれた子宝も天に召されていた。

 大人達の勝手で命を落とした1人の子供の死を悼む者はいなかった。

 神は泣いた。
 愛や慈しみを忘れた住人達の剛の深さに・・・
 人々を導くという本来の使命を忘れた欲深い教会のあり方に・・・
 そして、愛する彼の哀れな人生に・・・

 神の涙は雨となって枯れた土地に降り注いだ。

 喜び舞う住人達であったが、それも短い間の事だった。

 雨は徐々に強くなり、荒れ狂う嵐となった。

 溢れ返った川は濁流となり、人々を飲み込んでいった。
 枯れて脆くなった土地に容赦なく降る雨は山肌を削り、耐えていた木の根に止めを指す。
 一気に崩れた土砂は集落を襲い全てを無に帰したのだった。

『神子を死なせた。
 それこそが、本当の神の怒りを買ったのだ。』

 生き残った者達は悲惨を前に力なく呟いたという。
 
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