763 / 782
影と黒 〜愛されし者達の対峙〜
770 〜その魂が陰るまで③〜
しおりを挟む
『神に捧げられる事は名誉な事。』
『神子様しか人々を救う事は出来ない。』
『神に愛されるとは、何と有難い事だ。』
甘い戯言を口にする大人達を彼は沈んだ目で見つめていた。
誰も彼もが、真っ黒に見える。
真っ黒な顔が笑っているのだ。
結局は親に捨てられた都合の良い子供が用済みになっただけだった。
光沢ある祭服から麻のゴワゴワした服に着替えさせられ、逃げないように腰紐を結ばれ杭に繋げられた。
木の檻の中に押し込まれた彼は、残酷にも生贄として神に捧げられたのだった。
食べる物も与えられず水も貰えず、衰弱していく彼に大人達は早く死ねと望んだ。
大人達の思惑を分かっていない子供達には石を投げられた。
神に愛された故に生命力があったのが災いした。
どんなに辛くても、苦しくても死ぬ事が出来ないのだ。
朝には鷲が、夜になれば野犬が彼の死肉を求めて見つめてくる。
木の檻が怖いのか、見えない何かの所為なのか、一定以上は近づいてこない。
ただただ、弱まっていく彼を見つめているだけだった。
そんな野生の生き物達を見て、彼は思い出した。
野苺を摘んだ森。水浴びをした川。
父に、その妻に愛されずとも野山を歩いていた時間を懐かしく思った。
誰にも干渉されず、邪魔をされる事なく優しい太陽の光を浴び、澄んだ空気を吸いたい。
あぁ・・・あの頃に戻りたい。
そうして、ついに彼の命の灯火が消えた。
死して、やっと解放されたのだ。
彼の死を確認した住人達は喜んだ。
これで神の怒りは鎮まり、再び雨が降る事だろう。
草木に色と艶が戻り、実りを得る事が出来るし、川が蘇れば魚が煌めく水辺を泳ぎ出す。
住人達は神子を捧げた見返りを求めて、期待と希望を握り締め神に祈った。
1ヶ月・・・半年・・・1年・・・2年・・・3年・・・
雨が降る事はなかった。
彼の命1つで降る雨などないのだ。
住人達は、それを理解しなかった。
役に立たないと彼に怒りをぶつけ、神子を囲い込んでいた教会を襲い始めた。
『神に仕えし我等に罰当たりな!』
神を盾にする教会を前にしても、住人達の激昂は治まることはない。
その中には彼の父がいたし、その妻もいた。
この日照りの影響で2人の間に生まれた子宝も天に召されていた。
大人達の勝手で命を落とした1人の子供の死を悼む者はいなかった。
神は泣いた。
愛や慈しみを忘れた住人達の剛の深さに・・・
人々を導くという本来の使命を忘れた欲深い教会のあり方に・・・
そして、愛する彼の哀れな人生に・・・
神の涙は雨となって枯れた土地に降り注いだ。
喜び舞う住人達であったが、それも短い間の事だった。
雨は徐々に強くなり、荒れ狂う嵐となった。
溢れ返った川は濁流となり、人々を飲み込んでいった。
枯れて脆くなった土地に容赦なく降る雨は山肌を削り、耐えていた木の根に止めを指す。
一気に崩れた土砂は集落を襲い全てを無に帰したのだった。
『神子を死なせた。
それこそが、本当の神の怒りを買ったのだ。』
生き残った者達は悲惨を前に力なく呟いたという。
『神子様しか人々を救う事は出来ない。』
『神に愛されるとは、何と有難い事だ。』
甘い戯言を口にする大人達を彼は沈んだ目で見つめていた。
誰も彼もが、真っ黒に見える。
真っ黒な顔が笑っているのだ。
結局は親に捨てられた都合の良い子供が用済みになっただけだった。
光沢ある祭服から麻のゴワゴワした服に着替えさせられ、逃げないように腰紐を結ばれ杭に繋げられた。
木の檻の中に押し込まれた彼は、残酷にも生贄として神に捧げられたのだった。
食べる物も与えられず水も貰えず、衰弱していく彼に大人達は早く死ねと望んだ。
大人達の思惑を分かっていない子供達には石を投げられた。
神に愛された故に生命力があったのが災いした。
どんなに辛くても、苦しくても死ぬ事が出来ないのだ。
朝には鷲が、夜になれば野犬が彼の死肉を求めて見つめてくる。
木の檻が怖いのか、見えない何かの所為なのか、一定以上は近づいてこない。
ただただ、弱まっていく彼を見つめているだけだった。
そんな野生の生き物達を見て、彼は思い出した。
野苺を摘んだ森。水浴びをした川。
父に、その妻に愛されずとも野山を歩いていた時間を懐かしく思った。
誰にも干渉されず、邪魔をされる事なく優しい太陽の光を浴び、澄んだ空気を吸いたい。
あぁ・・・あの頃に戻りたい。
そうして、ついに彼の命の灯火が消えた。
死して、やっと解放されたのだ。
彼の死を確認した住人達は喜んだ。
これで神の怒りは鎮まり、再び雨が降る事だろう。
草木に色と艶が戻り、実りを得る事が出来るし、川が蘇れば魚が煌めく水辺を泳ぎ出す。
住人達は神子を捧げた見返りを求めて、期待と希望を握り締め神に祈った。
1ヶ月・・・半年・・・1年・・・2年・・・3年・・・
雨が降る事はなかった。
彼の命1つで降る雨などないのだ。
住人達は、それを理解しなかった。
役に立たないと彼に怒りをぶつけ、神子を囲い込んでいた教会を襲い始めた。
『神に仕えし我等に罰当たりな!』
神を盾にする教会を前にしても、住人達の激昂は治まることはない。
その中には彼の父がいたし、その妻もいた。
この日照りの影響で2人の間に生まれた子宝も天に召されていた。
大人達の勝手で命を落とした1人の子供の死を悼む者はいなかった。
神は泣いた。
愛や慈しみを忘れた住人達の剛の深さに・・・
人々を導くという本来の使命を忘れた欲深い教会のあり方に・・・
そして、愛する彼の哀れな人生に・・・
神の涙は雨となって枯れた土地に降り注いだ。
喜び舞う住人達であったが、それも短い間の事だった。
雨は徐々に強くなり、荒れ狂う嵐となった。
溢れ返った川は濁流となり、人々を飲み込んでいった。
枯れて脆くなった土地に容赦なく降る雨は山肌を削り、耐えていた木の根に止めを指す。
一気に崩れた土砂は集落を襲い全てを無に帰したのだった。
『神子を死なせた。
それこそが、本当の神の怒りを買ったのだ。』
生き残った者達は悲惨を前に力なく呟いたという。
545
お気に入りに追加
10,436
あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※
両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。
多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。
大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。
そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……?
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉
陣ノ内猫子
ファンタジー
神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。
お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。
チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO!
ーーーーーーーーー
これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。
ご都合主義、あるかもしれません。
一話一話が短いです。
週一回を目標に投稿したと思います。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。
誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。
感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる