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旅路 〜カプリースへ〜
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イグナート・カレリン公爵との出会いは決して楽しいものではなかった。
どん底の人生を歩んでいたイグナートはイオリの出現によって新たな一歩を踏む事が出来るようになった。
領地に籠っていた男も今では兄であるトーレチカ国王を支える重臣として活躍している。
「という事は、ミズガルドの使節団の代表者はイグナートさんですか?」
「あぁ、私だ。」
意味ありげな微笑みを返すイグナートにイオリが不思議そうに首を傾げると、代わりにニコライが説明してくれた。
「ミズガルドは国王が変わってまだ3年だ。
トーレチカ国王をはじめ、多くの貴族が国の変革に力を注いでいるが、海を隔てた他国には未だに“悪名高いミズガルド”である事は否めないんだよ。」
アースガイル内でもミズガルドに対する不審が拭ずにいる事も確かで、兵士の中でもそれは変わらないようだ。
またそれを敏感に感じ取っているミズガルドの兵士との間で微妙な感情の摩擦が、このキャンプ地の異様な雰囲気を作っているのだそうだ。
「個人的に付き合いのある俺達は問題なくとも、それを国民に根付かせるには時間が掛かる。」
ニコライが澄ました顔で紅茶を飲むとイグナートが渋い顔で頷いた。
「旧政権のしでかした事とは言え、それに目を瞑っていた我らにも大きな責任がある。
信頼の回復には時間が掛かると覚悟しているんだ。」
弱々しく微笑むイグナートにイオリは1つだけ助言をした。
「他国では自分を偽らない事です。
特に“ルーシュピケ”の住人達に嘘は絶対に付いてはいけません。
それさえ守れば、今の“ルーシュピケ”ならイグナートさんの話に耳を傾けるくらいはしてくれるはずです。」
「そうだろうか・・・。」
「以前、訪れた時の話は聞いています。
大丈夫。
彼らは人の本質を見抜きます。
何度も話し合えば、イグナートさんが良い人だと分かってくれますよ。」
イオリに励まされたイグナートは嬉しそうに頷いた。
そんなイグナートの背をパティがポンポンと叩いた。
振り向いたイグナートは優しく微笑んだ。
「君達も久しぶりだね。
暫く会わないうちに大きくなった。
元気だったかい?」
モジモジしたパティの代わりにスコルが小さい声で囁いた。
「子供が生まれたって本当?」
唐突な質問に驚いた顔をしたイグナートだったが、瞬時に破顔した。
「あぁ、そうなんだ。
3つ子だよ。
元気に動き回るもんだから、家の者達が毎日大忙しさ。」
「「おめでとう!!」」
手を叩いて祝う双子に大人達の強張っていた顔が緩む。
「喜んでくれるかい?」
双子の境遇を知るイグナートの目に薄らと涙が浮かんだのはイオリの見間違いではないだろう。
「勿論!
子供は幸せを運ぶんだって。」
「嫌な時代を知らない子達だよ。
愛を知る子供達が増えればミズガルドも変わっていくさ。」
喜びの舞を踊る双子に合わせてナギがライアーを弾きはじめた。
「・・・そうか。
嫌な時代を知らない子か・・・。
そうだな。」
遂に堪える事が出来ずに涙を漏らしたイグナートの頭に花冠が被せられた。
ハッと顔を上げると、ヒューゴに抱き上げられたニナがニコニコと拍手をしていた。
「おめでとう!」
淀んだ空気が充満していたキャンプ地に子供の笑い声と音楽が響いた。
イオリが望まなくても、アースガイルの兵にとって“黒狼”は今や誇りである。
そんな“黒狼”がミズガルドの貴族と仲良く微笑む姿は如何様に写った事だろう。
加えて、ミズガルドにとっての“黒狼”も特別な存在だった。
3年前の出来事の情報統制されていたとは言え、傾国の救世主の存在を知る者は多い。
賑やかしい笑い声に、キャンプ地に穏やかな風が吹いていく。
どん底の人生を歩んでいたイグナートはイオリの出現によって新たな一歩を踏む事が出来るようになった。
領地に籠っていた男も今では兄であるトーレチカ国王を支える重臣として活躍している。
「という事は、ミズガルドの使節団の代表者はイグナートさんですか?」
「あぁ、私だ。」
意味ありげな微笑みを返すイグナートにイオリが不思議そうに首を傾げると、代わりにニコライが説明してくれた。
「ミズガルドは国王が変わってまだ3年だ。
トーレチカ国王をはじめ、多くの貴族が国の変革に力を注いでいるが、海を隔てた他国には未だに“悪名高いミズガルド”である事は否めないんだよ。」
アースガイル内でもミズガルドに対する不審が拭ずにいる事も確かで、兵士の中でもそれは変わらないようだ。
またそれを敏感に感じ取っているミズガルドの兵士との間で微妙な感情の摩擦が、このキャンプ地の異様な雰囲気を作っているのだそうだ。
「個人的に付き合いのある俺達は問題なくとも、それを国民に根付かせるには時間が掛かる。」
ニコライが澄ました顔で紅茶を飲むとイグナートが渋い顔で頷いた。
「旧政権のしでかした事とは言え、それに目を瞑っていた我らにも大きな責任がある。
信頼の回復には時間が掛かると覚悟しているんだ。」
弱々しく微笑むイグナートにイオリは1つだけ助言をした。
「他国では自分を偽らない事です。
特に“ルーシュピケ”の住人達に嘘は絶対に付いてはいけません。
それさえ守れば、今の“ルーシュピケ”ならイグナートさんの話に耳を傾けるくらいはしてくれるはずです。」
「そうだろうか・・・。」
「以前、訪れた時の話は聞いています。
大丈夫。
彼らは人の本質を見抜きます。
何度も話し合えば、イグナートさんが良い人だと分かってくれますよ。」
イオリに励まされたイグナートは嬉しそうに頷いた。
そんなイグナートの背をパティがポンポンと叩いた。
振り向いたイグナートは優しく微笑んだ。
「君達も久しぶりだね。
暫く会わないうちに大きくなった。
元気だったかい?」
モジモジしたパティの代わりにスコルが小さい声で囁いた。
「子供が生まれたって本当?」
唐突な質問に驚いた顔をしたイグナートだったが、瞬時に破顔した。
「あぁ、そうなんだ。
3つ子だよ。
元気に動き回るもんだから、家の者達が毎日大忙しさ。」
「「おめでとう!!」」
手を叩いて祝う双子に大人達の強張っていた顔が緩む。
「喜んでくれるかい?」
双子の境遇を知るイグナートの目に薄らと涙が浮かんだのはイオリの見間違いではないだろう。
「勿論!
子供は幸せを運ぶんだって。」
「嫌な時代を知らない子達だよ。
愛を知る子供達が増えればミズガルドも変わっていくさ。」
喜びの舞を踊る双子に合わせてナギがライアーを弾きはじめた。
「・・・そうか。
嫌な時代を知らない子か・・・。
そうだな。」
遂に堪える事が出来ずに涙を漏らしたイグナートの頭に花冠が被せられた。
ハッと顔を上げると、ヒューゴに抱き上げられたニナがニコニコと拍手をしていた。
「おめでとう!」
淀んだ空気が充満していたキャンプ地に子供の笑い声と音楽が響いた。
イオリが望まなくても、アースガイルの兵にとって“黒狼”は今や誇りである。
そんな“黒狼”がミズガルドの貴族と仲良く微笑む姿は如何様に写った事だろう。
加えて、ミズガルドにとっての“黒狼”も特別な存在だった。
3年前の出来事の情報統制されていたとは言え、傾国の救世主の存在を知る者は多い。
賑やかしい笑い声に、キャンプ地に穏やかな風が吹いていく。
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