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旅路〜デザリア・王宮〜
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バシラ・フレールの侍従と侍女は俯き、体全身を震わしているだけだった。
否定をするでも弁解をするでもなく、ただ黙っているのだ。
「私も引っかかっていたんだよね。」
ディビットは2人の物言いが気になっていたと言い出した。
「他国と言えど、私も王族の一員だ。
身の回りを世話してくれる侍従と侍女の存在を大切に思っている。
それでもデザリア王と姫の会話に割り込んだ2人に疑問を持っていたんだ。
・・・我が国ではありえない。」
シモン・ヤティムは顔を顰めた。
「近年、王と姫様は会話が少なくなっておりました。
その間を取り持つのも2人の仕事と思っていましたが、確かに私も最近は度が過ぎると感じておりました。」
「何よりも、姫が言っていた事を正確に伝えていなかったではないか?
それについては、先程の件が証明しているぞ。」
いつも冷静な宰相が怒気を含んでいた。
侍従と侍女・・・この2人はファズルとガータと言ってデザリアの貴族カルダイン侯爵家からやってきた者達だった。
当初バシラ・フレールには母妃ティエナの実家であるガレー公爵家から選出された人間が側使いとして起用されるはずだったが、それではガレー公爵家に力が偏りすぎると不平が出た事で優秀な文官を輩出しているカルダイン侯爵家に白羽の矢が立った。
ファズルとガータはカルダイン侯爵の甥と姪であり、それぞれも従兄弟同士という間柄である。
王と王妃の侍従や侍女に鍛え上げられた2人は王女を任せられる程に成長し信頼されていた。
王と王妃にしても我儘だと思っていた娘に2人が振り回されて気の毒すら思っていたのだ。
しかし、現在は2人に疑いの目が向けられていた。
言葉を発することなく震えているだけの2人の様子は周りの人間達には奇怪に見えた。
イオリとヒューゴ、そしてアレックスとロジャーは顔を見合わせるとデザリア王とディビット殿下を引き下がられた。
「2人に“魅了の力”がかかっている可能性はないか?」
小さい声で話すヒューゴにイオリは頷いた。
「でも、オンリール伯爵の反応とは随分違いますね。
彼は無気力で意識を持っていかれているようでした。」
生きた人形のようになっていたアマンド・オンリール元伯爵。
老貴族には魅了の呪いによる体への負担は大きかったのかも知れない。
「他にも理由があるやもしれぬ。」
シモン・ヤティムが杖を構えて王とディビットを守る体制に入っていた。
「私も魔法使いだ。
魅了については幾分か学んでいる。
貴国の貴族と比べ2人は魅了の強制力に抵抗していないのかも知れぬ。
それが体への負担を軽減している可能性がある。」
「抵抗していないとは、望んで魅了されているということか?」
宰相ナロ・シウバが驚きの声を上げると、シモン・ヤティムは首を横に振った。
「そうではない。
魅了の力で命令された内容が、受け入れ難ければ、受け入れ難い程に人の心は疲弊していく。
しかし、自身の行いが間違っていないと思っていれば、魅了の力の影響は薄いと考えられる。」
「2人はバシラ・フレール様を害す命令を誰かから受けたが、元々自身もバシラ・フレール様を害そうとしていた。
と言う事か?」
「そこは何とも言い難い。
2人を魅了から解放させる事が出来れば良いのだが・・・。
アースガイルの貴族は腕輪だと言っていたが、侍従と侍女が腕輪など目立つものはつけるはずもない。
術者によってしか外す事も出来ぬ・・・だから魅了は厄介なのだ。」
ナロ・シウバとシモン・ヤティムの悔しそうな声を爽やかな声が包み込んだ。
「問題ありません。」
イオリは腕を伸ばすと、手のひらに乗っていた真っ赤な小鳥・・・ソルに頼んだ。
「ソル。
あの人達を解放してやってくれないか?」
ピチチチっ
飛び立った真っ赤な小鳥が侍従と侍女に突撃して行った。
否定をするでも弁解をするでもなく、ただ黙っているのだ。
「私も引っかかっていたんだよね。」
ディビットは2人の物言いが気になっていたと言い出した。
「他国と言えど、私も王族の一員だ。
身の回りを世話してくれる侍従と侍女の存在を大切に思っている。
それでもデザリア王と姫の会話に割り込んだ2人に疑問を持っていたんだ。
・・・我が国ではありえない。」
シモン・ヤティムは顔を顰めた。
「近年、王と姫様は会話が少なくなっておりました。
その間を取り持つのも2人の仕事と思っていましたが、確かに私も最近は度が過ぎると感じておりました。」
「何よりも、姫が言っていた事を正確に伝えていなかったではないか?
それについては、先程の件が証明しているぞ。」
いつも冷静な宰相が怒気を含んでいた。
侍従と侍女・・・この2人はファズルとガータと言ってデザリアの貴族カルダイン侯爵家からやってきた者達だった。
当初バシラ・フレールには母妃ティエナの実家であるガレー公爵家から選出された人間が側使いとして起用されるはずだったが、それではガレー公爵家に力が偏りすぎると不平が出た事で優秀な文官を輩出しているカルダイン侯爵家に白羽の矢が立った。
ファズルとガータはカルダイン侯爵の甥と姪であり、それぞれも従兄弟同士という間柄である。
王と王妃の侍従や侍女に鍛え上げられた2人は王女を任せられる程に成長し信頼されていた。
王と王妃にしても我儘だと思っていた娘に2人が振り回されて気の毒すら思っていたのだ。
しかし、現在は2人に疑いの目が向けられていた。
言葉を発することなく震えているだけの2人の様子は周りの人間達には奇怪に見えた。
イオリとヒューゴ、そしてアレックスとロジャーは顔を見合わせるとデザリア王とディビット殿下を引き下がられた。
「2人に“魅了の力”がかかっている可能性はないか?」
小さい声で話すヒューゴにイオリは頷いた。
「でも、オンリール伯爵の反応とは随分違いますね。
彼は無気力で意識を持っていかれているようでした。」
生きた人形のようになっていたアマンド・オンリール元伯爵。
老貴族には魅了の呪いによる体への負担は大きかったのかも知れない。
「他にも理由があるやもしれぬ。」
シモン・ヤティムが杖を構えて王とディビットを守る体制に入っていた。
「私も魔法使いだ。
魅了については幾分か学んでいる。
貴国の貴族と比べ2人は魅了の強制力に抵抗していないのかも知れぬ。
それが体への負担を軽減している可能性がある。」
「抵抗していないとは、望んで魅了されているということか?」
宰相ナロ・シウバが驚きの声を上げると、シモン・ヤティムは首を横に振った。
「そうではない。
魅了の力で命令された内容が、受け入れ難ければ、受け入れ難い程に人の心は疲弊していく。
しかし、自身の行いが間違っていないと思っていれば、魅了の力の影響は薄いと考えられる。」
「2人はバシラ・フレール様を害す命令を誰かから受けたが、元々自身もバシラ・フレール様を害そうとしていた。
と言う事か?」
「そこは何とも言い難い。
2人を魅了から解放させる事が出来れば良いのだが・・・。
アースガイルの貴族は腕輪だと言っていたが、侍従と侍女が腕輪など目立つものはつけるはずもない。
術者によってしか外す事も出来ぬ・・・だから魅了は厄介なのだ。」
ナロ・シウバとシモン・ヤティムの悔しそうな声を爽やかな声が包み込んだ。
「問題ありません。」
イオリは腕を伸ばすと、手のひらに乗っていた真っ赤な小鳥・・・ソルに頼んだ。
「ソル。
あの人達を解放してやってくれないか?」
ピチチチっ
飛び立った真っ赤な小鳥が侍従と侍女に突撃して行った。
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