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旅路〜デザリア・ダンジョン〜

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 ここには確かに川はあったのだろう。
 川の跡が一筋の道のようになっていた。

 チロチロと流れる糸のような水の上に不自然な扉があった。 

 満足そうに扉の前に降り立つソルを見つめイオリはシモン・ヤティムを振り返った。

「どうやら、ここが最終の部屋のようですね。」

 シモン・ヤティムも神妙に頷くと扉に近づき確かめた。

「確かに、この模様は最終の部屋への扉に刻まれていた物だ。
 ここで間違いがない。」

 そう言っても、どこか思案気なシモン・ヤティムにイオリは微笑んだ。

「少し休憩しますか。
 お茶とクッキーでも出しましょう。」

 喜ぶ子供達と共に準備をし始めるイオリにシモン・ヤティムは驚いた顔をした。

「あっ・・・いや・・。」

「あーなったら、無駄ですよ。
 一度休みましょう。
 最終の部屋に強敵がいるなら、尚更です。」

 ヒューゴの誘いに、シモン・ヤティムも苦笑した。

「そうだな。
 少し気を張りすぎていたようだ。
 ご相伴にあずかろう。」

 ダンジョンの中でゆったりと過ごすにも慣れたものだ。

 普段であれば、冒険者同士がお互いの仕事を邪魔せずに場所取りをするが今はイオリ達しかダンジョンにはいない。
 自由に火を起こし、優雅にハーブティーを淹れてお茶会となれば、見る人が見れば信じられない光景だろう。

「このエリアは魔獣が出ませんね。」

 イオリが辺りを見回せば、シモン・ヤティムは頷いた。

「そうだな。
 魔獣は本来は草原エリアで目にする事が多いな。
 それでも、少ないと感じるよ。
 先程まではダンジョンが眠りについていたのだから、今回は少ないのも仕方がないのかも知れないな。」

 飲み慣れないハーブティーも、今は心地が良い。
 シモン・ヤティムは香りを楽しみながらクッキーに手を伸ばした。

「なんと贅沢な菓子だな。
 これもアースガイルで?」

 クッキーのほのかな甘さと口溶けに魅了されたシモン・ヤティムは驚いて見つめていた。

「まぁ、そうですね。
 よく見られるお菓子ですよ。」

 イオリの物言いが可笑しかったのか、子供達がクスクスと笑う。

「ところで、最終の部屋には何が待っているんです?」

「えー!“願いを叶える鳥”さんがいるんじゃないの?」

 扉に視線を送るイオリにパティが抗議の声を上げた。

「それなら、今までだって冒険者が出会ってたはずだろ?
 “願いを叶える鳥”が誰も会った事がないのままは変だよ。
 だから、他にボスがいるんじゃないの?」

「「「「えー!!」」」」

 納得がいかない子供達に追い討ちをかけるようにシモン・ヤティムが頬を掻きながら教えてくれた。

「イオリ殿の言う通りだ。
 あの部屋には“願いを叶える鳥”ではない別の奴がいる。」

「鳥さんじゃないの?
 つまんなーい。」

「つまんなーい。」

 頬を膨らますパティとニナに苦笑しながらシモン・ヤティムは答えた。

「最終の部屋にはジョムシードがいる。」

「「「「ジョムシード??」」」」

 聞き慣れない響きにイオリ達は首を捻った。

「あぁ・・・。
 古い言葉でジョムとはを意味しシードはを意味する。
 つまり“虫の王様”だ。」

 それを聞き、パティとニナの悲鳴が渓谷にこだまするのだった。


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