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旅路〜ダグスク〜

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 俺の名前はアドン。
 歴史ある港町ダグスクで門の衛兵をしている男だ。

 街へ害悪を入れないのが一番の仕事だ。

 街には色んな人間が来る。
 新人の頃は毎日緊張しては仕事に追われていたが、今や後輩もできて教える立場だ。

「お疲れ様です。
 アドンさん。今日は夜勤当直ですか?」

 持ち場に行くと2年後輩のエミルが疲れた顔をしていた。

「おう。
 どうやら、今日も人の出入りが多かったみたいだな。
 疲れた顔をしているぞ。エミル。」

「それだけじゃないんですよ。
 例のオンリールから来ていた商会が全面撤退することになったでしょう?
 奴ら、金を払わずにダグスクの商品を持ち出そうとしたらしくて、門の手前でグラトニーに取っ捕まっての大騒動があったんですよ。
 この一帯が騒ぎに巻き込まれたもんで、一時的に門を封鎖する羽目になったんです。」

「あぁ、昼間のアレな。
 他にも馬鹿な連中がいないか騎士団でも注意深く調べているらしい。
 もっと酷い事にならなくて良かったよ。」

「そうですけど、こっちは街に入る為に並んでた列を捌くのに遅くまでかかっちまったんです。」

 剥れるエミルに俺は笑った。

「お疲れ。
 帰って嫁さんの美味いもんでも食って寝ろ。」

 新婚のエミルは笑みを漏らさずに頷いた。

「そうします。
 それじゃ、後をお願いします。
 お疲れ様です。」

 駆け足で去っていくエミルを俺は見送った。

 俺は同じ夜勤の仲間に挨拶をすると門の外に立ち、空を見上げた。

「今日も良い星空だ。」

 白い息を吐くには、まだ早いが空が澄んでいるからか星がよく見える。

 あの日の夜もこんな星空だったな。

 久しぶりに新人の頃にやらかした事を思い出した。


 ーーーーあれは門の衛兵になって2週間も経っていなかった。

 貴族のコインを持った男が街にやって来たんだ。
 貴族にはそれぞれの家紋が細工されていて、各家が招いた人物の保証の意味を持っていた。
 
 新人だった俺は貴族のコインを出されて何も疑問に思わずに男を街に入れた。
 それが大きな間違いだった。

 翌朝に男と同じ名前の真っ黒な青年が街へやってきた。

 珍しい名前だったし前日の男とは似ても似つかない青年だった。
 俺が疑ったのは若いのにも関わらずSランクの冒険者と名乗った事だった。

 ありえない。

 そう勝手に判断した。

 俺は青年を同行者から離し取調室に入れた。

 その青年は慌てるなどの抵抗を見せる事なく、悠々と椅子に座っていた。
 俺が質問するとハキハキと答え、ポーレット公爵家の指輪や冒険者ギルドのギルマスの指輪を出してきた。
 嫌な予感を募らせた俺が真贋が分かる鑑定士を呼ぼうと立ち上がると、我が街の騎士団長が慌てたように入ってきた。
 
 目の前で騎士団長が謝罪をしているのを見て、何も考えられないくらい青褪めたのを覚えている。

 俺は貴族のコインだけで判断して悪人を街に入れ、Sランク冒険者を怪しいと取調室に押し込んだんだ。
 彼は子供を連れていて、子供達は怯えていた。

 俺が謝罪をするとSランク冒険者の青年は笑顔で許してくれた。

 騎士団長が入ってきた時に顔面をドアにぶつけて、めちゃくちゃ痛かったが、そんな事など考えられないくらい心が痛かった。

 大きなミスをした日は一日中、門兵として外に立っていた。

 夜も深まり、星空の下で落ち込んでいた俺に隊長が声を掛けてくれたっけ。

「ミスを犯したなら、同じ過ちを繰り返すなよ。
 騎士団がダグスクの要なら俺達は先鋒隊だ。
 俺達が街を守るんだ。」

「・・・はい!」

 俺は、その日から仕事に対しての考え方を改めた。
 

 この時、その翌日に街にクラーケンが襲うとは思いもしなかった。
 その事件の一端を俺が街へ入るのを許した男が絡んでたと知ったのは、が街を去った後だった。

 同じ過ちは犯さない。

 だから俺は“堅守のアドン”と呼ばれる様になったのさ。

「ん?
 もう、門が閉まっているのに馬車が来るぞ。
 おい!
 警戒を怠るなよ!」

 スピードは速くない馬車が街に近づいてくるのが見える。
 俺は警戒しながら御者席に目を凝らした。

「あれは・・・見た事あるな・・・。」

 凝視して馬車を見ていると荷台から2人の影が見えた。

「お~い。」

「帰ってきたよ~。
 俺たちだよ!アレックスとロジャー!
 ただいま~!」

 我が街のSランク冒険者の帰還だ。
 しかし、俺はそれよりも御者席の男に視線を奪われた。

「アレは・・・いや、あの人はあの時の彼と一緒にいた。」

 馬車が止まり、目を輝かす俺の目の前に真っ黒な服の青年が降り立った。

「あれ?
 もしかして、あの時の衛兵さんですか?
 俺、覚えてます?
 イオリです。
 偽物じゃないですよ。」

 ニコニコと見つめてくる青年・・・いや、立派な若者になった彼に俺は微笑んだ。

「もちろんです。
 イオリ様。
 ようこそ、ダグスクへ。」

 もう、2度と同じ過ちは犯さない。

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