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旅路〜イルツク〜

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「そうですか・・・準備して下さい。」

 ロビン・グラトニーは飛び込んできた秘書の言葉に頷いた。

 ロビンはグラトニー商会という豪商の一族の一席に座る男だ。
 アーベル・グラトニーの弟の次男であり、現会頭のロスの秘書をするリロイの弟・・・分かりやすく言うとバートの叔父である。
 自身の父親が買い付けなどの旅に出ている事が多く、兄であるリロイと共にアーベルの下で教育されてきた。
 会頭のロスを支えている兄とは違い、イルツクの支店を任されているロビンとしてもポーレットで勢いづいている甥のバートの働きは聞き及んでいる。
 当然、ホワイトキャビンとイオリの関係性も分かった上でロビン・グラトニーは首を傾げた。

「イルツクにイオリ様の興味が出る物などあっただろうか?」

 ロビン・グラトニーの特筆すべきは冷静な事であろう。
 良くも悪くも感情の起伏が少なく、淡々と仕事をこなしていく。
 
 今回もイオリがグラトニー商会を訪ねてくる事はあるまいと思っていた。
 イルツクには観光としての広場の大鐘があっても、商売として勝るものは無いからである。

 それは卑下に思っているのではなく、ロビンにとってと思っていた。

 イルツクは決して商売として悪い地ではない。

“深淵のダンジョン”の存在から多くの冒険者が集まり、ダンジョンに挑む為にイルツクで準備をしていく。
 その為に宿に泊まるしポーションや携帯食料など必要物資を購入していく。

 広場の大鐘を求めて一般の観光客が集まれば宿や店が潤っていく。
 グラトニー商会のイルツク支部を預かるロビンとしては大きな利益ではなく、安定した経済が事が大切なのだ。

 先の騒動には頭を悩ました。
 何せ、物資が届かず潤滑に経済が回っているとは言えない状況だったからである。
 昨日、解決と聞いてホッとしたのも事実だ。

 ロビンは再び首を傾げた。
 特別何か良い物がこの街あっただろうか?

「準備が整いました。」

 番頭の言葉を聞くとロビンは立ち上がった。


_______


「ギロック伯爵様におかれましてはご機嫌麗しく。
 この度の問題解決につきまして、一市民として、商売人として御礼申し上げます。」

 ロビンを迎え入れたアナスタシアはニッコリと微笑んだ。

「心配をかけました。
 尽力してくれた皆さんのおかげです。
 今回の事件で我々は多くの利益を失いました。
 住人には、その補填もしなければいけなせん。
 それには予算も必要になりましょう。」

「おっしゃる通りです。
 安定した軌道に戻すには、イルツクには資金が必要です。」

 アナスタシアの言葉にロビンは頷いた。

「イルツクは観光の街です。
 大鐘やダンジョンだけでは物足りない。
 ですので、今回グラトニー商会にお力添え頂きたいのです。」

「私共でお役に立てることがあれば何なりと・・・。」

『まさか、金を出せと言うのだろうか?』

 心配するロビンとは裏腹にアナスタシアは満足そうに頷くと顔を突き出しニッコリとした。

「ポップコーンです。ロビン殿。ポップコーン。」

「・・・ぽっぷ・・・コン?
 それは何でしょう?」

 いつも冷静なロビンの眉間に皺が寄った。
 我らの領主は何を言い出すんだ?

 グラトニー商会イルツク支店支部長ロビン・グラトニーは盛大に溜息を吐いた。
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