上 下
87 / 781
旅路〜イルツク〜

95

しおりを挟む
 イオリ達が宿屋“蓮の傘”の扉を開けると、前日の朝よりも街は活気に湧いていた。
 “エルフの里の戦士”に怯え、家や店の扉を閉めていた住人達が街に賑わいを呼んだのだ。

 おとぎ話の様な街とイオリが言った、イルツクの街は本来の姿を取り戻したのだった。

 イオリは教会までの道のりをキョロキョロと見回した。

「お店屋さんが開いてますね。
 アレって何ですか?」

「あぁ、子供用のベルだな。
 “迷子ベル”とも言われる。
 広場のベルの様に普段は鳴らないが、子供が迷子になるとベルが鳴り親が駆けつけるのさ。
 歩ける様になった位かな、親が可愛い我が子に贈るんだよ。
 大体は腰につけてるよ。」

 レンが母に手を引かれている男の子を指さすと、確かに腰に小さなベルがついていた。

「因みに、ウチのリーダーは今も持ってる。
 冒険者になってからお袋さんに改めて貰ったんだってさ。
 大人になって・・・って恥ずかしがってたけど、親が無事を願っていると思えば御守りみたいなもんだよ。」

「素敵な風習ですね。」

 イオリがニコニコ聞いていると、パティがイオリの服を引っ張った。

「じゃあ、ベルちゃんのお土産に買っていこうよ。」

「ベルちゃん!」

 続けてニナもイオリに強請った。

「ベルちゃん?」

 レンが首を傾げるとイオリは笑った。

「ポーレットでお世話になっている“日暮れの暖炉”っていう宿のご夫婦のお嬢さんです。
 ベルちゃんって名前なんですよ。
 良いよ。みんなで選んでおいで。」

 双子とナギとニナがベル屋に走っていくと、その後をアウラが追いかけて行った。

「おぉ、“日暮れの暖炉”な!
 ダンさんだったか?
 “天空のダンジョン”の後、ポーレットに行く俺達に紹介してくれただろう。
 あの後、2週間ほど世話になったんだ。
 そうか、お嬢さんが産まれたのか。」

 レンが嬉しそうにしているのを、イオリはヒューゴに説明した。

「“天空のダンジョン”でレンさん、大怪我されまして。
 俺達が持っていたポーションで一命を取り留めたんですが、ポーレットへ向かうとおっしゃったんで“日暮れの暖炉”を紹介したんですよ。」

「なるほどな。
 ポーレットで冒険者に信頼されてる宿と言ったら、ダンさん達のところだもんな。
 大事に至らなくて何よりです。」

 頷くヒューゴにレンは頭を掻いて照れた。

「いやー。あの時は本気で死を覚悟したよ。
 まさか、自分達より若い冒険者に先を越されるとは・・・って思ってたけど、やっぱりイオリは凄いよ。
 命の恩人だ。
 感謝してもし足りないよ。
 今回だって街を守ってくれた。
 ありがとう。」

 レンは後輩冒険者に頭を下げた。

「やめてくださいよ。
 俺達はポーレット公爵の依頼を受けたにすぎませんよ。
 ダンジョンに潜り“エルフの里の戦士”の動向を観察したレンさん達が、この街の危機を未然に防いだんです。
 俺達にも情報を頂きましたよ。お互い様です。」

 イオリの言葉にレンは再び頭を掻くと笑った。

「敵わねーな。お前。」

 笑う3人のもとに子供達が嬉しそうにベルを手に戻って来た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

召喚勇者の餌として転生させられました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,566pt お気に入り:2,254

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

BL / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:93

【本編完結】捨てられ聖女は契約結婚を満喫中。後悔してる?だから何?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,562pt お気に入り:7,998

約束が繋ぐキミとボク

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

[完結]ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:776

処理中です...