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紛い物は雑味が目立つ

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「寒くなってきやがったな。」

 ギブソンはスゴンが運転する車の後部座席で暗い夜道の空を見上げた。

「この辺は暖かい地域だと聞きやしだがね。
 それでも今夜は冷えますねぇ。」

 この日もスゴンは馴染みの道を走らせるとBar  Hopeの店前に車をつけた。
 すかさずに大柄なドアマンが車を開けると、にこやかに挨拶で出迎えた。

「いらっしゃいませ。ギブソン様。
 今夜もBar  Hopeへようこそおいで下さいました。」

「よう。バーニー。
 寒いのに外ってお前も大変だな。」

「仕事ですから。」

 苦笑しながら扉を開いたドアマンは2人が店に入っていくのを見送ると、“close”の札を掲げネオンを消し扉に鍵をかけた。



「いらっしゃいませ。ようこそ、Bar  Hopeへ。
 ご案内します。」

 ボーイのジェットがいつもの通りボックス席に案内をする。
 ギブソンは内心、舌打ちをしていた。
(まだ、VIPじゃねーってか。)

 店内を見渡すと今日の客の入りも良いようだ。
 和やかな雰囲気が店内に充満している。
 テーブル席やボックス席には見た顔もチラホラといた。
 スゴンを確認すると、すでにカウンターでオレンジジュースでも頼んでいた。

「今日はジントニックをライムでくれ。」

 席に着くや否やギムソンはジェットに伝えた。

「畏まりました。」

 カシャカシャと微かに聞こえるバーテンダーが醸し出す音と優雅に流れるBGMは野心に溢れているギブソンにも心地よく聞こえていた。

「失礼します。
 マダム・マリエッタがあちらにご招待をしていますが如何しますか?」

 ジェットが指し示す場所に目をやれば、2階のソファーから見下ろすマダム・マリエッタが手を振っていた。
 ギムソンは浮き足立つ気持ちを落ち着かせるように立ち上がった。

「案内してくれ。」

「畏まりました。」

 ギムソンがジェットに連れられて2階への階段を登っていけば、店内からの視線が背中に感じられた。
 後ろを振り向けば、護衛のスゴンが誇らしげについてきている。

 初めて上がった2階のVIP席には数カ所にソファーが置かれ、どの席からもステージが見えていた。
 満足そうに微笑んだギブソンは真っ黒なシルクのドレスにレースの手袋を嵌めて扇子を手に持っていたマダム・マリエッタので迎えを受けた。

「お連れしました。」

 すかさずマダム・マリエッタの側に控えたジェットはギブソンにソファーを薦めた。

「ご招待頂きまして。」

 ギブソンの笑顔をマダム・マリエッタは優しく微笑んでみていた。

「日をあけずに連日お越しいただきまして、ありがとうございます。」

 マダムも真っ赤な唇を弓形に上げてお辞儀をした。
 運ばれてきたジントニックを掲げるとギブソンは一気に飲んでいく。

「マダムに俺の必要性が伝わって何よりだ。」

「必要性・・・?」

「あぁ、俺がジャン・ドゥと賭けをしている事は知っているだろう?」

「知らないねぇ?ジャン・ドゥが賭けを?」

 首を傾げるマダム・マリエッタにギブソンが笑った。

「そうさ。あの男、俺がダチュラでやっていけるか試しやがった。
 1ヶ月で証明しろとほざきやがったんだ。
 でも、マダムは分かるだろう?
 新しい客ってのは大切にしなきゃ商売なんてやってられない。」

 ギブソンの後ろに立つスゴンも頷きながら主人の言葉に酔いしれている様だった。

「新しい客・・・ねぇ。」

 扇子を広げ笑った口元を隠す素振りをしたマダムに、言い知れない空気を感じ取ったギブソンが目を細めて睨みつけた。

「なんだ?まだ、馬鹿にするのか?」

「そうじゃないさ。
 ジャン・ドゥが誰かと賭けをすれば、街中の噂になるけどね。
 ここ最近、そんな噂あったかね?」

 マダム・マリエッタは後ろに立つボーイのジェッドに顔を向けた。
 それに対しジェットは首を振ると微笑んだ。

「聞いていませんね。
 あの御方は勝てない賭けはしませんからね。
 そういえば・・・最近の事ですが、白龍内で賭け事案が上がっているとか?」

「・・・それはなんだい?」

「ジャン・ドゥ様が退に煽った相手が1ヶ月後までに生きているか死んでいるか?
 だったと聞いていますが?」

「なんだい?それは?
 あの坊主は、そんな遊びで楽しんでいるのかい?」

 マダム・マリエッタとジェットの会話をギブソンはワナワナと震えながら聞いていた。

「お前・・・今、なんて言った?
 あの野郎は賭けをしてないって?遊んでいるだと・・・?」

「はい。
 わざわざ、相手にもならないのに賭けをしても退屈だそうです。
 ・・・まさか、お客様の事ではないですよね?」

 ジェットが馬鹿にしたようにニヤニヤとした。

「お前!ボスに対して、失礼だぞ!」

 大声を出してジェットに掴みかかろうとしてスゴンが手を伸ばした。
 
バシッ!!

「うぉぉ!ガッ!」

 扇子で手首を叩かれたスゴンが痛みを抑えるようにマダム・マリエッタを睨みつけた。

「分かってんだろうね。
 この店での暴力はご法度。 
 領主だろうが国王だろうが赦しはしないよ。」

 悔しそうに顔を歪ませるスゴンはギブソンを守るように立ち上がった。
 マダム・マリエッタは細い煙管に火をつけると煙を吐いた。

「あんたは分かってないのさ。
 お前さんはこの街でんだ。
 信用を積み重ねていたのは部下のゴレッジ。
 それをジャン・ドゥが指摘したのだろう?
 で?腹が立って、アイツの口車に乗った。
 
 ハァ・・・どうしようもない。」

 マダム・マリエッタは馬鹿にするようにギブソンを睨め付けた。

「大体、マフィアなんて連中は誰かの言う事を聞いて仕事するのかい?
 1ヶ月?仕事なんてものは、そんな短期間で出来る話じゃないだろうさ。
 相手の言いなりになって、1ヶ月で結果を見せなければいけないと決めつけたアンタの負けだよ。
 知るかと啖呵くらい切ってくりゃ、まだ良かったのさ。
 それを、脅されたくらいで怯えて逃げ帰ったって?
 あんたの噂は、そっちの方が大きいよ。」

「なっ!なんだと?!」
 
 すると、階下にいる客達がクスクスと笑い出した。
 明らかにギブソンを嘲笑の輪が広まっていた。

「そんな、お粗末な話はどうでも良いのさ。」

 一気に空気を変えたマダム・マリエッタは気怠気な様子など取っ払い、獲物を射抜くようにギブソンを睨みつけた。

「問題は・・・ノルベルト・ギブソン。
 お前の持ち込んだの話をしようじゃないか。」

 ギブソンは怒りで赤くなった顔を一瞬で青くし目を見開いて驚いた。
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