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第102話 無職となったアル中
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自業自得ではあるが、この先の生活基盤が崩壊しパニックに陥ってしまった。
「アニキ、潔く諦めろよ。」
弟のひと言で我に返り、ゴミの集積場所に放置してあるダンボールを5つ拾ってきた。
明日という日が許されない事実を受け入れ、職場に置いてある私物を詰め込み、誰にも退職の挨拶をすることなく逃げるようにして出ていった。
これが二十年間、働き続けてきた者に対する仕打ちか。俺がいったい、いくら儲けさせてやったと思っているんだ。そう頭で思いながらも片隅では、退職金は幾らもらえるんだろうか?という損得勘定もおこなっていた。
失業するということだけでも恐怖心に襲われる。自分を落ち着かせるため、ハローワークに行って職探しに明け暮れするようになる。と同時に失業給付金の申請もぬかりなくおこなう。
金はある。まだまだ現金が手元に残っているし、母が残した金を投資信託や株、ドル預金などに分配型投資をしていた。そこにさらに退職金が360万円入ってきたので自由に使える金がまた増えてしまった。
使っても、また増えてしまうのだから私は心底不安に陥ってはいないだろう。
それにアルコールは私の不安を手っ取り早く、消し去ってくれる力強い友であった。
マキが務める居酒屋『甚平』に通い、ついでに真向かいの焼き鳥屋にも立ち寄った。『甚平』はスナックでもパブでもないから私には物足りない。自然と足はスナック『夢』に向かうようになっていく。
マキの居場所を教えてくれたフィリピン人、エバがチーママをする店の常連になるまで時間は掛からなかった。
フィリピン人ホステスたちの商魂はたくましく、私が1回でも歌ったカラオケの曲番をしっかりメモ書きしている。頼みもしないのに私の好きな曲たちがカラオケのマシンから次々と流れてくる。
これでは私のワンマンショーである。
見知らぬ客人からもリクエストされて自画自賛のオンステージ状態となる。
「今夜も来るんでしょう。なにかご馳走してよ、同伴でお願いね。」
毎夕、決まった時間に定期連絡のように参加の有無を聞かれる。Noはない。
「じゃあ、18:00に焼鳥屋の前で待っている。席がなければ甚平にいる。」
再会したマキとフィリピン・パブのホステス、それに私で夜毎の豪遊が始まった。
まずは自転車で行ける居酒屋なのかスナックなのか判断が付かない場末の飲み屋からスタートする。
この店ではマスターとカラオケ合戦をおこない、90点以上を叩き出して勝利するとボトルが無料になる。歌うことには自信があったので何度でもチャレンジする。高得点が出やすい曲というものがあり『君が代』がそれにあたる。
日本国歌の音程をはずす奴はまずいないし、そもそもそんな奴はマイクを握らない。『科学忍者隊ガッチャマン』も高得点が出やすい曲である。
何十本もボトルをもらった。いま、思い返すと『カモがマイクを握りしめて鍋で煮込まれる』ようなものだった。
このカラオケ合戦は一時間程度で切り上げる。マスターに頼んでタクシーを呼んでもらい隣町の居酒屋『甚平』に向かうのである。もちろん、フィリピン人女性を同伴させてだ。この結果、フィリピン・パブに入る前までに、2軒の飲み屋をハシゴしている事になる。
午前二時まで飲み明かした。ベロベロに酔っ払っても自宅に帰る気などしない。ネオンが点っていればどこでもいい。金をぶん取られたって構いはしない。飲む事がすべてである。職がないという事は明日を気にしなくて良いという事だ。
いよいよ明け方ちかくになると、どこのスナックも店の鍵を閉めてしまい、呑んだくれのボロ雑巾をかくまってくれそうな場所はなくなる。しかし金さえ出せば、いつまででも居させてくれる場所を見つけてしまった。
「アニキ、潔く諦めろよ。」
弟のひと言で我に返り、ゴミの集積場所に放置してあるダンボールを5つ拾ってきた。
明日という日が許されない事実を受け入れ、職場に置いてある私物を詰め込み、誰にも退職の挨拶をすることなく逃げるようにして出ていった。
これが二十年間、働き続けてきた者に対する仕打ちか。俺がいったい、いくら儲けさせてやったと思っているんだ。そう頭で思いながらも片隅では、退職金は幾らもらえるんだろうか?という損得勘定もおこなっていた。
失業するということだけでも恐怖心に襲われる。自分を落ち着かせるため、ハローワークに行って職探しに明け暮れするようになる。と同時に失業給付金の申請もぬかりなくおこなう。
金はある。まだまだ現金が手元に残っているし、母が残した金を投資信託や株、ドル預金などに分配型投資をしていた。そこにさらに退職金が360万円入ってきたので自由に使える金がまた増えてしまった。
使っても、また増えてしまうのだから私は心底不安に陥ってはいないだろう。
それにアルコールは私の不安を手っ取り早く、消し去ってくれる力強い友であった。
マキが務める居酒屋『甚平』に通い、ついでに真向かいの焼き鳥屋にも立ち寄った。『甚平』はスナックでもパブでもないから私には物足りない。自然と足はスナック『夢』に向かうようになっていく。
マキの居場所を教えてくれたフィリピン人、エバがチーママをする店の常連になるまで時間は掛からなかった。
フィリピン人ホステスたちの商魂はたくましく、私が1回でも歌ったカラオケの曲番をしっかりメモ書きしている。頼みもしないのに私の好きな曲たちがカラオケのマシンから次々と流れてくる。
これでは私のワンマンショーである。
見知らぬ客人からもリクエストされて自画自賛のオンステージ状態となる。
「今夜も来るんでしょう。なにかご馳走してよ、同伴でお願いね。」
毎夕、決まった時間に定期連絡のように参加の有無を聞かれる。Noはない。
「じゃあ、18:00に焼鳥屋の前で待っている。席がなければ甚平にいる。」
再会したマキとフィリピン・パブのホステス、それに私で夜毎の豪遊が始まった。
まずは自転車で行ける居酒屋なのかスナックなのか判断が付かない場末の飲み屋からスタートする。
この店ではマスターとカラオケ合戦をおこない、90点以上を叩き出して勝利するとボトルが無料になる。歌うことには自信があったので何度でもチャレンジする。高得点が出やすい曲というものがあり『君が代』がそれにあたる。
日本国歌の音程をはずす奴はまずいないし、そもそもそんな奴はマイクを握らない。『科学忍者隊ガッチャマン』も高得点が出やすい曲である。
何十本もボトルをもらった。いま、思い返すと『カモがマイクを握りしめて鍋で煮込まれる』ようなものだった。
このカラオケ合戦は一時間程度で切り上げる。マスターに頼んでタクシーを呼んでもらい隣町の居酒屋『甚平』に向かうのである。もちろん、フィリピン人女性を同伴させてだ。この結果、フィリピン・パブに入る前までに、2軒の飲み屋をハシゴしている事になる。
午前二時まで飲み明かした。ベロベロに酔っ払っても自宅に帰る気などしない。ネオンが点っていればどこでもいい。金をぶん取られたって構いはしない。飲む事がすべてである。職がないという事は明日を気にしなくて良いという事だ。
いよいよ明け方ちかくになると、どこのスナックも店の鍵を閉めてしまい、呑んだくれのボロ雑巾をかくまってくれそうな場所はなくなる。しかし金さえ出せば、いつまででも居させてくれる場所を見つけてしまった。
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