山人界見聞録

西崎 劉

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プロローグ

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 わたしはただただ不思議な世界の夢を見ているだけだった。だけど、彼ら曰くわたしは‘生霊’らしい。当事まだまだ清濁の区別もつかないほど幼かった事から、好奇心に負けて見たいものを見て、聞きたい事を聞いて、知りたいことを押しに押して「どうして?」「なんで?」と、詰め寄って聞くような子供だった。わたしを面白がった奇妙な衣装を身に纏った人々の何人かは、暇つぶしにと色々な事を教えてくれたし、わたし自身も彼らの言う‘鍛錬’の真似事に参加した。そして、ある日を境にその夢は終わりを告げた。その日は鍛錬の成果を見る日でもあり、彼らの世界が終る日でもあった。…………戦争が起きたのだ。
 不肖の弟子だったわたしは、覚えることが苦手で泣きべそかきながら、何度も教えてもらっていたわたしは、最後の日、わたしが‘わたし’の本来の身体に帰るように促され、選別にと、師匠を買って出てくれた人たちが、無形の遺産を魂の記憶の中に知識という図書室を作り、‘これから’喪われるあらゆるものの記録を、研究成果を、収めた。そしてこう言ったのだ。
「それはお前を導く杖」
「……何時の日か、お前を助けてくれるかも知れない過去の足跡」
「カレラに見つからないように、彼岸を渡って‘現世’にお帰り。蓬莱の弟子」
 わたしにとって、それらは‘夢’だった。インフルエンザを患って寝込んだ一週間、見続けたその不思議な体験の夢は、一日があちらの千夜だった。それから先、同じ夢は二度と見ない。だけどその不可思議な夢が、ただの夢じゃなかったことだけは、自覚している。インフルエンザが完治したあとは劇的に環境が変わった。……視界に映る二重写しの現世と隔世。生も死も等しくその場に在り続け、肉体に縛られる物質世界と、意志が形を成す精神世界。時折迷い出る雑多な人外のカレラを視界の端にとどめつつ、それらに関わりを持たず、そうしてわたしは趣味の世界に生き甲斐を感じる、極々平凡な大人になった。まさか、友人経由で崩される日が来るとは思わなかったけれど。
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