1 / 2
プロローグ
しおりを挟む
わたしはただただ不思議な世界の夢を見ているだけだった。だけど、彼ら曰くわたしは‘生霊’らしい。当事まだまだ清濁の区別もつかないほど幼かった事から、好奇心に負けて見たいものを見て、聞きたい事を聞いて、知りたいことを押しに押して「どうして?」「なんで?」と、詰め寄って聞くような子供だった。わたしを面白がった奇妙な衣装を身に纏った人々の何人かは、暇つぶしにと色々な事を教えてくれたし、わたし自身も彼らの言う‘鍛錬’の真似事に参加した。そして、ある日を境にその夢は終わりを告げた。その日は鍛錬の成果を見る日でもあり、彼らの世界が終る日でもあった。…………戦争が起きたのだ。
不肖の弟子だったわたしは、覚えることが苦手で泣きべそかきながら、何度も教えてもらっていたわたしは、最後の日、わたしが‘わたし’の本来の身体に帰るように促され、選別にと、師匠を買って出てくれた人たちが、無形の遺産を魂の記憶の中に知識という図書室を作り、‘これから’喪われるあらゆるものの記録を、研究成果を、収めた。そしてこう言ったのだ。
「それはお前を導く杖」
「……何時の日か、お前を助けてくれるかも知れない過去の足跡」
「カレラに見つからないように、彼岸を渡って‘現世’にお帰り。蓬莱の弟子」
わたしにとって、それらは‘夢’だった。インフルエンザを患って寝込んだ一週間、見続けたその不思議な体験の夢は、一日があちらの千夜だった。それから先、同じ夢は二度と見ない。だけどその不可思議な夢が、ただの夢じゃなかったことだけは、自覚している。インフルエンザが完治したあとは劇的に環境が変わった。……視界に映る二重写しの現世と隔世。生も死も等しくその場に在り続け、肉体に縛られる物質世界と、意志が形を成す精神世界。時折迷い出る雑多な人外のカレラを視界の端にとどめつつ、それらに関わりを持たず、そうしてわたしは趣味の世界に生き甲斐を感じる、極々平凡な大人になった。まさか、友人経由で崩される日が来るとは思わなかったけれど。
不肖の弟子だったわたしは、覚えることが苦手で泣きべそかきながら、何度も教えてもらっていたわたしは、最後の日、わたしが‘わたし’の本来の身体に帰るように促され、選別にと、師匠を買って出てくれた人たちが、無形の遺産を魂の記憶の中に知識という図書室を作り、‘これから’喪われるあらゆるものの記録を、研究成果を、収めた。そしてこう言ったのだ。
「それはお前を導く杖」
「……何時の日か、お前を助けてくれるかも知れない過去の足跡」
「カレラに見つからないように、彼岸を渡って‘現世’にお帰り。蓬莱の弟子」
わたしにとって、それらは‘夢’だった。インフルエンザを患って寝込んだ一週間、見続けたその不思議な体験の夢は、一日があちらの千夜だった。それから先、同じ夢は二度と見ない。だけどその不可思議な夢が、ただの夢じゃなかったことだけは、自覚している。インフルエンザが完治したあとは劇的に環境が変わった。……視界に映る二重写しの現世と隔世。生も死も等しくその場に在り続け、肉体に縛られる物質世界と、意志が形を成す精神世界。時折迷い出る雑多な人外のカレラを視界の端にとどめつつ、それらに関わりを持たず、そうしてわたしは趣味の世界に生き甲斐を感じる、極々平凡な大人になった。まさか、友人経由で崩される日が来るとは思わなかったけれど。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる