詩集『刺繡』

新帯 繭

文字の大きさ
上 下
57 / 92

死を選ぶ細胞たち

しおりを挟む
生きているだけで擦り減っていく
世の中はそういうものだったのか
みんな一度立ち止まって見渡せば
周りは敵と味方しかないと気付く
自分の居場所を確保していたとて
自分が何かを見失って彷徨うのだ
細胞は定位置で常時に入れ替わる
新陳代謝を伴って生まれ変わって
死にながら毎時毎分毎秒進化する
情報更新をしながら適応を続けて

私たちは社会の細胞を演じている
世界はゆっくりと成長をしている
進化の基準は私たちの世代交代だ
年を負う毎に死へと近付いていく
今の時代は社会が病んでいるとき
不意に潰瘍ができて痛みを伴って
それがストレスで付ける薬がない

自殺細胞というものが体にはある
自らの免疫で細胞が死を選ぶのだ
社会もまるで同じように自滅する
我々は簡単に死を選び過ぎている
命の選択は重いものと受け止める
社会は細胞の死を望んではいない
それを破って勝手に選ぼうとする
一体何が苦しくて逃れるのだろう

細胞だって楽なはずはないと思う
病気で傷んだり刺激で崩れたりと
死にそうな場面に幾度と遭遇する
それでも生きなくてはと頑張って
新陳代謝を繰り返して進化をする
私たちは社会という生物の細胞だ

人類は大きな群体生物でコロニー
その中の多細胞生物という単細胞
誰かが天寿を全うせずに死んだ時
社会は病気になって苦しんでいく
大切な人から世界中が悲しくなる
悲しいというのは社会の免疫機能
感情をいうのは世界の身体機能だ

不必要な人など誰も決められない
本人すら決定権など持っていない
細胞一個一個が愛しいのと同じで
社会はお互いが大切な存在なのだ
傷がついても強くなれる筈なのだ
だって我々は生きながら進化する
生きとし生ける全ての人々へ送る
命を考える長たらしい詩歌でした
しおりを挟む

処理中です...