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拓に言われたからというよりは「フォークかもしれない」という懸念により、結弦はなるべく旭日を避けることにした。今までなら旭日がやって来たかなと気づいても特に気にしなかったが、早々に気づいた時は気づいていない振りしてその場から離れる。ただ、あからさまにしたらむしろ刺激してしまうのではと少し心配だったので、拓が言うように逃げるほどでもない。
それもあり、結局面と向かうことも少なくなかったが、旭日からは少なくとも結弦を食ってしまおうとしている様子は感じられない気がした。
俺の考えすぎかな。だってそもそもフォークなんてそんないる? 世界中で考えたならそりゃ多少いるんだろけど、割合的に俺の周りにそんないるわけ、なくない?
顔を合わせ会話するたびに「この人いい人だな」という感想しか浮かばない。にこやかで優しくて、先輩だけに頼りになる感じもあり、おまけに顔がいい。
いや、顔がいいって何。
思わず自分に突っ込んだものの、実際旭日の顔は整っている。同性だろうが異性だろうが見た目がいい人を目の当たりにするのは悪くない。同性だとやっかみもあったりするが、同じ年の拓に対してと違い、先輩である旭日に対してはそのやっかみも特にない。
あいつは俺とタメだから何かちょっと羨ま……じゃなくてムカつ……じゃなくて。ひがんでねえから。苦手ってだけで。
ただその苦手意識は最近なくなった気がする。拓がフォークで結弦がケーキだけに、食べられてしまう時は苦手というか、ひどく落ち着かないものの、どう接していいかわからないといったことはなくなった。
じゃなくて。と、にかく。結崎さんってやっぱフォークでもないし問題ないんじゃ……?
自分を助けてくれた人だけにできれば疑いなど持ちたくない。だから違うのではと思えてくると、素直に嬉しくなった。
「佐野くん、何かいいことあったの?」
「え? 何でですか」
「だって何だか嬉しそう」
顔に出やすいかよ……!
思わず両手を両頬に当てて横に伸ばしていると、旭日に笑われた。
「そんな変な顔、しました? 俺」
「何で?」
「だって笑うから」
「ああ。ううん。むしろかわいい」
「は?」
変な冗談言われても戸惑うだけなのでやめてもらえると助かるが、拓ならまだしも恩人であり先輩の旭日にはさすがに言えない。
「……っていうか、よかった」
「え? 何がです?」
「何となく俺、避けられてるかなって思ってたから」
「……そ、んなことは」
顔に出やすいだけでなく、態度にも出やすかったようだ。逃げはしなかったしあからさまにしていないつもりだっただけに、微妙な気持ちになる。
「そう? 確かに今の佐野くんはそんなことないように見えるけど。……あ、ねえ」
「はい」
「今日、まだ講義残ってる?」
「ああ、はい。あと一つ」
「そっか。俺もあと一つなんだ。よかったら終わってからお茶でもしない? おごるよ」
「いいですね! でもおごってくれなくていいですよ」
「うーん、でも俺、先輩だから」
にこにこ言ってくる旭日からは、やはり拓のように「今すぐにでも食ってしまいたい」といった欲は見えなかった。
何だよ、やっぱ考えすぎだろ。
拓も多分、自分の唯一である食料が脅かされるかもしれないといった余計な心配から、妙な独占欲が強くなっただけだろう。そう思えば思うほど、間違いないような気がする。
獲物奪われるのひどく嫌う熊っぽいな、何か。
見た目は全然熊っぽくはないが、何となくそう思えて結弦はそっと笑った。
「俺の家、学校から近いし、よかったら家に来る?」
講義終わって旭日と待ち合わせてからそう提案された。別に問題ない気がするが、拓に「近寄るな、会うな、逃げろ」と言われ面倒な気分もあり「わかった」と答えただけに、多少罪悪感に近い何かが湧く。
「そ、れは何か申し訳ないし、どこかカフェへ行きましょう」
「別に申し訳なくなんかないのに。遠慮深いね。カフェなら……そうだね、この間見つけたカフェが結構雰囲気あって……」
結弦が断っても旭日は嫌な顔しないどころか強要もしてこなかった。ますます結弦も拓も単に考えすぎなだけだと思えてきた。
ただ、火のない所に煙は立たぬということわざが存在するのには意味はあった。
「結崎、さん……?」
連れていってくれたカフェは、学校から近いわりに閑静な住宅地に佇む隠れ家のようで、確かにレトロな感じもあり落ち着いた雰囲気の店だった。コーヒーもおいしかった。いい店を知ったとほくほくもした。アルバイト先とそう離れてもいないようだが、こんな店があるのは知らなかった。
だが店を出て、静かな通りを歩いているうちにいつの間にか気づけば路地裏のようなところへ来ていて、そして同じく気づけば旭日に抱き寄せられていた。結弦のみぞおち辺りがひゅっと水でも浴びたように冷え込む。
え、待って。嘘だろ。え、マジで? ええ、だってそんな……。立て続けに俺のそばにフォークいたとか、そんなこと、ある?
だが人のいないような路地裏で平凡な男である結弦を抱き寄せる行為に対し、他に理由づけられない。
「ちょ、待っ」
「ごめんね、佐野くん。我慢しようと思ってたんだけど……どうしても……」
我慢。
どうしても。
ああもうこんなの決定だろ……! 俺、食われる。いや、駄目。無理。無理だって。
「結崎さん、待って……」
「……かわいい。ほんとかわいい。俺、君みたいな子、タイプで」
「俺を食わないで……!」
同時に口にして、くっついたままお互い「え?」と顔を合わせた。
それもあり、結局面と向かうことも少なくなかったが、旭日からは少なくとも結弦を食ってしまおうとしている様子は感じられない気がした。
俺の考えすぎかな。だってそもそもフォークなんてそんないる? 世界中で考えたならそりゃ多少いるんだろけど、割合的に俺の周りにそんないるわけ、なくない?
顔を合わせ会話するたびに「この人いい人だな」という感想しか浮かばない。にこやかで優しくて、先輩だけに頼りになる感じもあり、おまけに顔がいい。
いや、顔がいいって何。
思わず自分に突っ込んだものの、実際旭日の顔は整っている。同性だろうが異性だろうが見た目がいい人を目の当たりにするのは悪くない。同性だとやっかみもあったりするが、同じ年の拓に対してと違い、先輩である旭日に対してはそのやっかみも特にない。
あいつは俺とタメだから何かちょっと羨ま……じゃなくてムカつ……じゃなくて。ひがんでねえから。苦手ってだけで。
ただその苦手意識は最近なくなった気がする。拓がフォークで結弦がケーキだけに、食べられてしまう時は苦手というか、ひどく落ち着かないものの、どう接していいかわからないといったことはなくなった。
じゃなくて。と、にかく。結崎さんってやっぱフォークでもないし問題ないんじゃ……?
自分を助けてくれた人だけにできれば疑いなど持ちたくない。だから違うのではと思えてくると、素直に嬉しくなった。
「佐野くん、何かいいことあったの?」
「え? 何でですか」
「だって何だか嬉しそう」
顔に出やすいかよ……!
思わず両手を両頬に当てて横に伸ばしていると、旭日に笑われた。
「そんな変な顔、しました? 俺」
「何で?」
「だって笑うから」
「ああ。ううん。むしろかわいい」
「は?」
変な冗談言われても戸惑うだけなのでやめてもらえると助かるが、拓ならまだしも恩人であり先輩の旭日にはさすがに言えない。
「……っていうか、よかった」
「え? 何がです?」
「何となく俺、避けられてるかなって思ってたから」
「……そ、んなことは」
顔に出やすいだけでなく、態度にも出やすかったようだ。逃げはしなかったしあからさまにしていないつもりだっただけに、微妙な気持ちになる。
「そう? 確かに今の佐野くんはそんなことないように見えるけど。……あ、ねえ」
「はい」
「今日、まだ講義残ってる?」
「ああ、はい。あと一つ」
「そっか。俺もあと一つなんだ。よかったら終わってからお茶でもしない? おごるよ」
「いいですね! でもおごってくれなくていいですよ」
「うーん、でも俺、先輩だから」
にこにこ言ってくる旭日からは、やはり拓のように「今すぐにでも食ってしまいたい」といった欲は見えなかった。
何だよ、やっぱ考えすぎだろ。
拓も多分、自分の唯一である食料が脅かされるかもしれないといった余計な心配から、妙な独占欲が強くなっただけだろう。そう思えば思うほど、間違いないような気がする。
獲物奪われるのひどく嫌う熊っぽいな、何か。
見た目は全然熊っぽくはないが、何となくそう思えて結弦はそっと笑った。
「俺の家、学校から近いし、よかったら家に来る?」
講義終わって旭日と待ち合わせてからそう提案された。別に問題ない気がするが、拓に「近寄るな、会うな、逃げろ」と言われ面倒な気分もあり「わかった」と答えただけに、多少罪悪感に近い何かが湧く。
「そ、れは何か申し訳ないし、どこかカフェへ行きましょう」
「別に申し訳なくなんかないのに。遠慮深いね。カフェなら……そうだね、この間見つけたカフェが結構雰囲気あって……」
結弦が断っても旭日は嫌な顔しないどころか強要もしてこなかった。ますます結弦も拓も単に考えすぎなだけだと思えてきた。
ただ、火のない所に煙は立たぬということわざが存在するのには意味はあった。
「結崎、さん……?」
連れていってくれたカフェは、学校から近いわりに閑静な住宅地に佇む隠れ家のようで、確かにレトロな感じもあり落ち着いた雰囲気の店だった。コーヒーもおいしかった。いい店を知ったとほくほくもした。アルバイト先とそう離れてもいないようだが、こんな店があるのは知らなかった。
だが店を出て、静かな通りを歩いているうちにいつの間にか気づけば路地裏のようなところへ来ていて、そして同じく気づけば旭日に抱き寄せられていた。結弦のみぞおち辺りがひゅっと水でも浴びたように冷え込む。
え、待って。嘘だろ。え、マジで? ええ、だってそんな……。立て続けに俺のそばにフォークいたとか、そんなこと、ある?
だが人のいないような路地裏で平凡な男である結弦を抱き寄せる行為に対し、他に理由づけられない。
「ちょ、待っ」
「ごめんね、佐野くん。我慢しようと思ってたんだけど……どうしても……」
我慢。
どうしても。
ああもうこんなの決定だろ……! 俺、食われる。いや、駄目。無理。無理だって。
「結崎さん、待って……」
「……かわいい。ほんとかわいい。俺、君みたいな子、タイプで」
「俺を食わないで……!」
同時に口にして、くっついたままお互い「え?」と顔を合わせた。
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