16 / 20
16
しおりを挟む
「今、何て……?」
「いきなり食べるだなんてそんな、っていうか結構激しめな表現だね」
どうも行き違っている気がする。結弦は慌てて旭日の抱擁から逃れた。抱き寄せてきたものの、旭日も無理強いすることもなくあっさり離してくれる。
あれ? でも食べるって言い方に驚いてはいるけど怪訝そうじゃ、ない……ってことはやっぱフォーク?
いや、でも待て。激しめとか言った。うん? いや、え? でも「いきなりストレートに言うんだね」ってことかもしれない? いや、でも……。
旭日は確か「かわいい」「タイプ」だと言ってきた。自分にまず当てはまらないような単語すぎて聞き間違いな気もしないでもないが、合っているとしたら「激しめな表現」というのは性的な意味での「食べる」と受け止めたのではないだろうか。
って、そっち?
本当にそうなら、旭日は結弦が性的な意味で「俺を食わないで」と言ったと考えているわけだ。
い、いやいやいやいや! そ、そんな風に言ってないから! そんな、くっついたからすぐセックスに即繋がる脳の回路じゃないから!
「赤くなってるのもかわいいね」
「は、わ」
やはり「かわいい」と言った。聞き間違いではない。一体どういうことなのか。フォークではなく、結弦自身に興味を持っているということになるのだろうか。
そんなこと、ある?
フォークが身近に何人もいるほうが当然ながらあり得ないかもしれないが、見た目も性格もいい同性の先輩がこちらをかわいいと、そういう意味で好意的に思うことも、結弦にとっては十二分にあり得ない気がする。いくら一般的に異性愛だろうが同性愛だろうがあまりこだわらないものだとしても、結弦の性的指向は対象が女性のはずだけに余計そう考えてしまうのかもしれない。
っていうか、じゃあ助けてくれた時、怪我していたはずの俺の手、つかんでさあ、その手舐めてた気がしたのは? あれはどう……。
焦っているのもあり、考えれば考えるほどあれは旭日がフォークであり、結弦がケーキだと気づくきっかけだったような気がしてならない。とはいえ今や旭日がフォークだと断言できないだけにはっきり聞けない。
困惑しながら旭日を見れば笑みを向けられた。
「えっと……」
「君が階段から落ちてきた時は天使でも落ちてきたのかなって」
「は?」
性的指向の前に、この人大丈夫だろうか。
「っていうのは言い過ぎかもだけど」
かもじゃなくて相当言い過ぎだと思う。
「すごく好みの子が落ちてきてどうしようかと思ったよ。君の手に触れた自分の手に、後で思わずキスしちゃったくらいに」
ああ、なるほど。ケーキを味わおうとしたんじゃなくてキスか。なるほど。それならわかる。
……、いや、わからねえよ……! わかりたくない!
そうなるとやはり先ほど結弦が言った「食べる」という表現は、旭日からすれば性的な意味で言ったと捉えていることになる。結弦はもう一歩、旭日から離れる。そして思い切り自分の前で両手をぶんぶん振った。
「あ、あの! ち、違、違います。その、俺、食わないでって、そういう意味で……」
そういう意味で言ったのではなく、物理的に食われるのかと思ったと言いかけてやめた。抱き着かれてセックスに速結する思考回路も嫌だが、普通はフォークに速結もしないだろう。
「何が違うの?」
先ほどは少しポカンとしていた旭日だが、今はどこかおかしそうにしている。
「や。だから、その……」
「あー、ほんとかわいいなあ」
にこにこしている旭日が、また少し近づいてきた気がした。だがその前に「かわいいとかやめてください」という声と共に、結弦は後ろへ引っ張られる。
今のは結弦が言ったのではない。一瞬心の声が漏れたのかと自分でも思ったが、そもそも声が違う。そして「助かった」と思う反面、何でここにいるのかと微妙になった。
「何で? いやほんと、何で? お前どこにでも出没すんの? それともまさか俺のストーカー……」
「……人を危険な熊か変態みたいに言うな。あと反応間違ってる。そこは助けてくれてありがとう、だろ」
熊……確かにこの間、獲物に執着が強い熊っぽいとは思ったけど。
結弦を引っ張り自分の腕の中に引き寄せた拓が、呆れたように見下ろしてくる。
「あ、いや、まあそう、なん……だけ、ど」
そうだ、と当然のように言い切ると旭日に申し訳ないだろうかとつい思ってしまい、どもりがちになった。それをわかってか、拓がますます呆れたようにため息ついてきた。
「……ほんとお前……。あと、俺はバイト終えて帰る途中だっただけ。むしろお前のが俺の行く先にいる」
「いねえわ!」
「えっと、君、誰?」
一瞬ポカンとしていたらしい旭日が、苦笑しながら拓に聞いた。
「こいつの……」
まさかフォークだと言うつもりじゃないだろうな。
少し言いよどんでいる風に感じ、結弦は焦ったように口を開いた。
「……ダチ……?」
「ただの知り合いです!」
そして拓と声が被る。
「え?」
「あー……知り合いだな」
「と、友だちです」
「……」
旭日に聞き返され、言いなおしたらまた被った。旭日は無言で困惑した笑みを浮かべている。
「いきなり食べるだなんてそんな、っていうか結構激しめな表現だね」
どうも行き違っている気がする。結弦は慌てて旭日の抱擁から逃れた。抱き寄せてきたものの、旭日も無理強いすることもなくあっさり離してくれる。
あれ? でも食べるって言い方に驚いてはいるけど怪訝そうじゃ、ない……ってことはやっぱフォーク?
いや、でも待て。激しめとか言った。うん? いや、え? でも「いきなりストレートに言うんだね」ってことかもしれない? いや、でも……。
旭日は確か「かわいい」「タイプ」だと言ってきた。自分にまず当てはまらないような単語すぎて聞き間違いな気もしないでもないが、合っているとしたら「激しめな表現」というのは性的な意味での「食べる」と受け止めたのではないだろうか。
って、そっち?
本当にそうなら、旭日は結弦が性的な意味で「俺を食わないで」と言ったと考えているわけだ。
い、いやいやいやいや! そ、そんな風に言ってないから! そんな、くっついたからすぐセックスに即繋がる脳の回路じゃないから!
「赤くなってるのもかわいいね」
「は、わ」
やはり「かわいい」と言った。聞き間違いではない。一体どういうことなのか。フォークではなく、結弦自身に興味を持っているということになるのだろうか。
そんなこと、ある?
フォークが身近に何人もいるほうが当然ながらあり得ないかもしれないが、見た目も性格もいい同性の先輩がこちらをかわいいと、そういう意味で好意的に思うことも、結弦にとっては十二分にあり得ない気がする。いくら一般的に異性愛だろうが同性愛だろうがあまりこだわらないものだとしても、結弦の性的指向は対象が女性のはずだけに余計そう考えてしまうのかもしれない。
っていうか、じゃあ助けてくれた時、怪我していたはずの俺の手、つかんでさあ、その手舐めてた気がしたのは? あれはどう……。
焦っているのもあり、考えれば考えるほどあれは旭日がフォークであり、結弦がケーキだと気づくきっかけだったような気がしてならない。とはいえ今や旭日がフォークだと断言できないだけにはっきり聞けない。
困惑しながら旭日を見れば笑みを向けられた。
「えっと……」
「君が階段から落ちてきた時は天使でも落ちてきたのかなって」
「は?」
性的指向の前に、この人大丈夫だろうか。
「っていうのは言い過ぎかもだけど」
かもじゃなくて相当言い過ぎだと思う。
「すごく好みの子が落ちてきてどうしようかと思ったよ。君の手に触れた自分の手に、後で思わずキスしちゃったくらいに」
ああ、なるほど。ケーキを味わおうとしたんじゃなくてキスか。なるほど。それならわかる。
……、いや、わからねえよ……! わかりたくない!
そうなるとやはり先ほど結弦が言った「食べる」という表現は、旭日からすれば性的な意味で言ったと捉えていることになる。結弦はもう一歩、旭日から離れる。そして思い切り自分の前で両手をぶんぶん振った。
「あ、あの! ち、違、違います。その、俺、食わないでって、そういう意味で……」
そういう意味で言ったのではなく、物理的に食われるのかと思ったと言いかけてやめた。抱き着かれてセックスに速結する思考回路も嫌だが、普通はフォークに速結もしないだろう。
「何が違うの?」
先ほどは少しポカンとしていた旭日だが、今はどこかおかしそうにしている。
「や。だから、その……」
「あー、ほんとかわいいなあ」
にこにこしている旭日が、また少し近づいてきた気がした。だがその前に「かわいいとかやめてください」という声と共に、結弦は後ろへ引っ張られる。
今のは結弦が言ったのではない。一瞬心の声が漏れたのかと自分でも思ったが、そもそも声が違う。そして「助かった」と思う反面、何でここにいるのかと微妙になった。
「何で? いやほんと、何で? お前どこにでも出没すんの? それともまさか俺のストーカー……」
「……人を危険な熊か変態みたいに言うな。あと反応間違ってる。そこは助けてくれてありがとう、だろ」
熊……確かにこの間、獲物に執着が強い熊っぽいとは思ったけど。
結弦を引っ張り自分の腕の中に引き寄せた拓が、呆れたように見下ろしてくる。
「あ、いや、まあそう、なん……だけ、ど」
そうだ、と当然のように言い切ると旭日に申し訳ないだろうかとつい思ってしまい、どもりがちになった。それをわかってか、拓がますます呆れたようにため息ついてきた。
「……ほんとお前……。あと、俺はバイト終えて帰る途中だっただけ。むしろお前のが俺の行く先にいる」
「いねえわ!」
「えっと、君、誰?」
一瞬ポカンとしていたらしい旭日が、苦笑しながら拓に聞いた。
「こいつの……」
まさかフォークだと言うつもりじゃないだろうな。
少し言いよどんでいる風に感じ、結弦は焦ったように口を開いた。
「……ダチ……?」
「ただの知り合いです!」
そして拓と声が被る。
「え?」
「あー……知り合いだな」
「と、友だちです」
「……」
旭日に聞き返され、言いなおしたらまた被った。旭日は無言で困惑した笑みを浮かべている。
12
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)


精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる