緋の花

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140話 ※

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「言われるまでもなく」

 邦一が優しく微笑んできた。最近よく微笑んでくれる。前は笑みを浮かべるよりは呆れた顔ばかりしていたことを思うと、もしかしたら秋星のことをさらに好ましく思ってくれるようになったのかもしれない。
 そう思うと秋星の中にある小部屋が満たされるだけでなく、下腹部がじんじんと疼いた。

「ここ、ひくひくしてる」

 邦一が秋星の肛門を指でなぞってくる。

「煩い。そんなに見んといて」
「尻の穴ってやらしいんだな」
「……ほんまお前は……」

 何なん、言葉プレイなん、と言いたいところだが、恐らく特に意識して言っているのではないのだろう。

「はよ入れぇ。クニがベロで濡らしたもんなんかとぉに乾いてんとちゃうの?」

 落ち着かないし、下腹部がじんじんと疼く。吸血目的関係なくこういった行為を自分がここまで求めるようになると秋星は思ってもみなかった。最初はこの穴に入れさせて邦一を気持ちよくさせたらいいのだくらいに思っていた。性交に対して特に思うところなどなかった。官能を味わいたければ血を吸えば十分過ぎるほど満たされる。ただ一方的な行為だと思うと自尊心が許せない上に邦一にもいい思いをして欲しいという気持ちが強かった。だから昔から自分だけでなく、邦一も気持ちよくなるよう心を砕いてきた。
 今では自分が邦一のあらゆる肌に牙を食い込ませる分、邦一には自分をひたすら突いてもらいたいと自ら思う。

 ……そぉしたら……互いに貪り合える。

 互いに、と思うとまた体の芯が疼く。

「俺の先さ、さっき出しただけじゃなくてまた結構濡れてきてるから大丈夫じゃないかな……」
「……そぉなん? クニ、俺のん舐めて結構興奮してんの?」
「まぁ、な。そんなの、俺の姿見たらバレバレなんだろ……?」

 囁くように言うと、邦一は後ろから挿入してきた。とてつもなく硬くて大きなものが秋星の中をみちみちと満たし、さらに深く割り入れようとしてくる。

「っん、ぅ……」

 内臓をかき混ぜるかのように突き上げてくる圧迫感や異物感と、ただ単純にひたすら感じる快楽に、自然と漏れそうな声を秋星はぐっと抑える。
 邦一は声を出せと言うが、それこそ自尊心が許さない。様々な動物の雌みたいな啼き声をこの橘秋星が発する気はない。

「痛くない?」
「痛ない。せやからもっと……」

 思い切り突き上げてみろと言わんばかりに秋星は腰を反らせ動かした。

「後ろからってそういえばあまりしないよな」

 邦一が少し苦しげに声を出す。実際に苦しいのではなく感じているのだろうと秋星は気をよくした。

「動物みたいやからな」
「動物みたいなの、秋星は嫌か?」
「……」

 自分で言うと卑屈な感じだというのに、邦一が口にすると妙に扇情的に聞こえる。

「どうした?」
「……なんか……お前が言うとやらしい」
「は? どういう意味だよ……」

 呆れたように呟いたあと、邦一は動きを速めてきた。

「ぁ、あ……っ」

 普段はよく向かい合ってする。邦一に入れられながら秋星は邦一の血を貪る。そうすることでさらにお互い官能が高まる上に秋星は変な喘ぎを出さずに済むという利点もあった。
 今は堪えるものがない。自分の唇を噛みしめる気はない。ピアスを外し、制御していない状態では自分の唇が傷だらけになってしまう。また枕に顔を埋めて声を殺そうとすると、入れられたまま腰を捻られた。

「足……回して……そう……体は楽なように横たえたらいい」

 足を交差させられ、言われるまでもなく四つん這いから横向きに横たわるような状態になった。片足を持ち上げられる。

「うん……動物みたいなのもよかったけど……こっちのほうが秋星の蔦、よく見える……」

 腰を動かしながら、邦一の指が秋星の内ももからゆっくり臍の方へと伝ってくる。

「ん、ぁ、あっ、ぅ」

 枕に顔を押し付け損ね、少し声が漏れた。秋星は邦一を睨む。

「秋星、睨んでも顔が赤いから可愛いだけだけど」
「っお前……ぁあもう、せめて目ぇ、人間の頃みたいにあんま見えんままやったらええのに!」

 暗闇に隠れることもできない。邦一が人間の頃は秋星一人だけが全て見えている状態が楽しかったのにと恨みがましく思う。

「ほんと、変なとこで照れたり嫌がったりするよな。声、もっと聞きたいくらいなのに」
「嫌や!」

 邦一が苦笑してきた。そしてまた体位を変えてくる。

「ほら、秋星」

 そしてまた微笑んでくれる。

「血。飲んだらいい」
「さっきも飲んだのに?」
「いいよ」

 向き合って上に乗る状態になった秋星はそんな邦一に抱きついた。興奮で尖った胸先が邦一の肌に擦れる。それがまた気持ちよくて、秋星は上に乗ったまま上半身や腰を動かし擦りつけた。すると邦一が気持ちよさそうにする。秋星の中にある邦一のものがまたひときわ大きくなった。

「……ぅ、……ん……。……お前かて、可愛い……」
「俺のこと可愛いって思うのはお前くらいだと思うよ」
「えぇやん、俺だけ……」

 囁きながら首筋に唇をつけた。この瞬間はいつも堪らない。我を忘れるような官能と飢えを一気に満たせるであろう期待感に頭すらおかしくなりそうになる。それでもいつもなるべくゆっくり、そして邦一が絶対に痛くないよう、秋星は自分を必死に抑えつつ舌をまず這わせていた。
 今も愛しさを込めて口づけすると、邦一が優しく秋星の髪を撫で、すいてくる。

「ほんと、お前の本来の色、綺麗だと思う」

 ふと初めて邦一の血を飲んだ時のことが過った。いや、血ではなく汗だったなとすぐに訂正する。怖いと言われた。何もかも拒否されるかのような感覚がした。

 ……あの事件の時から俺はクニに怖がられることをずっと怖がってて……そんでこの時に改めて怖いて思ったんよなぁ……。

 絶対に正体は晒せない、吸血行為も我慢する、そう思った。だが汗を味わってやはり我慢なんてできないことを思い知り、それならせめてものすごく気をつけようと秋星なりに必死だった。
 今、何もかも受け入れてくれる邦一に、秋星はまた一瞬泣きそうになった。

 クニが死にかけよるせいで、ほんま涙もろなったわ……。

 文句とは裏腹に愛しさを込めて牙を突き立てる。そして広がってくる血の味に、体がうち震えた。邦一も堪らなくなったのか、また動きが速くなる。上も下もそして心までも満たされ、本当におかしくなりそうだ。

「ん、ぅん、んっ」
「は、ぁ……、っく」

 激しく求め合う二人が達するのはそれから一瞬のことだった。
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