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74話
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「秋星って痛いの実は苦手なんだな」
邦一がおかしそうに言ってくる。そんな様子が少し嬉しいと思う。そして邦一の匂いにふらふらとしそうだ。
血が欲しい。
だが秋星はジロリと見返した。
「苦手やない」
「でも検診、嫌だったんだろ?」
「得体のしれん機械が自分の口に入るんが嫌なだけや」
「得体の、て」
自宅へ戻ると、秋星は佐和と会っていたことを邦一に話した。案の定、それなら自分もついていったのにと怪訝そうな顔をされたが、そこは流しておく。苦笑している邦一をまたジロリと見てから「とりあえずな」と続けた。
「通常、野良は人気のないとこ狙うみたいやな」
「野良?」
「あのセンセェ、ずっと人間界のヴァンパイアは自分一人やて思ってたくらいやしな。野良ヴァンパイアや」
「……、まぁいいけど。そりゃ普通見つかりたくないだろうし人目避けるだろ」
「やけど例の野良は人家が密集するよぉなとこ襲ってるやろ」
「それだけど、水白くんたちの家って住宅街が密集してる場所と違って家はポツポツとあるみたいだよ。まぁ水白くんの家は本当に離れてるものの、他の人たちはもう少し近いようだけどな」
秋星も佐和のところから帰る途中、鳥に姿を変えて月梨の家周辺を調べていた。実際のところ霧にすらなれるが、こんなところで霧になればむしろ怪しい。とはいえ雀や鳩などだと面白味がないのであえてこの国の生態ではない鳥になっていたのは愛嬌だ。ハシボソガラパゴスフィンチといって吸血鳥として知られている。意外に博識そうな月梨に見つかれば心底呆れられていたかもしれない。ちなみに邦一だとまず鳥の違いからして分からなさそうだ。頭は悪くなくとも基本的に邦一に知識欲がなさ過ぎる。
暫く留まっていると入ることのできない家に侵入せずとも、月梨の知り合いとやらが普段からよく外泊もしていたと知った。それもあって特に騒がれていないようだ。人間は噂話が大好きだなと苦笑しながら聞いていたのだが、派手で遊び好きというよりは元々親が不在がちのため友だちの家に泊まることが多かったらしく、最近姿を見ないのもそれではないかという話だった。学校も数日前から夏休みに入っており余計ではないか、と。親は少し心配し出している感じだろうか。
自分は見てきたから知ってはいるが、と秋星は邦一をムッとした顔で見る。
「何でクニがそんなこと知ってんねん」
「水白くんに聞いた」
「あのクソ犬」
月梨も月侑太も魔界に決まった相手がいるらしい。ワーウルフは人間界の狼と同じで番を決めたら一生その相手と添い遂げる。そのため相手がいるなら何の心配もいらない。
ただワーウルフが好きじゃないのと月侑太が秋星にとって苦手過ぎるタイプだけに気にくわない。しかも学校は終わっている。恐らく秋星が好まない携帯電話でのやり取りをしたのではないだろうかと思うとなおさら腹立たしい。
邦一はといえば、秋星の物言いに呆れているようだ。
「で、人目につくから何なんだ? そいつがどこか抜けてるってことか?」
「いや、その逆かもな。あのセンセェかてそれなりの能力あるようやねん。それでもあまり好みの味を堪能出来ひんでも人目を避けてたんや。それをむしろ堂々とやってんのは自信あんねやろ」
鼻を鳴らすように言えば邦一が怪訝な顔をしてくる。
「能力ある人だからこそルールと安全のために人目避けるんだろ? 何も考えてないから住宅街でやってのけるんじゃないのか? 現にバレてるだろ」
「バレたんはあの雌わんこが鋭いからやろ。普通やったら行方不明やとは言われても魔物の仕業やなんて気づかれへんやろ。それこそ現に他では騒がれてへん。最悪騒がれても人間の仕業やて思うわな。あとな、獲物かて家にいなくても不審に思われへんタイプなんやろ」
「でも水白さんがいい子って……」
「あいつがええ子やて思おうが親や周りがどぉ見てるかは別やろ。まぁその女の場合は親がそもそもあんま家におらんからそいつも友だちのところとかよぉ泊まってたらしぃけどな」
「よく調べたな」
「その辺はまぁええやん。あとな、前に言うた思うけど、ヴァンパイアやったら招かれんとそいつの家へ入られへんねん。やのに雌わんこが言うてたやろ、部屋忍び込んだら微かやけど匂い残ってたって」
秋星の言葉に、邦一も今さらおかしいことに気づいたようだ。ハッとして秋星を見返してきた。
「知り合いってことか」
招かれないと家には入られない。最初から忍び込めるのではない。微かだろうが匂いが残っているということは、少なくとも面識がない相手ではないということだ。
「かと言うてめっちゃ親しい、友だちとかいうんでもないかもやな。それこそ迂闊過ぎる」
「確かに……。でも、それだと結局特定はしにくいってことか……」
「まぁ、速攻見つかるとは流石に俺も思ってへん。それに──」
それにそこではもう何もしない可能性も高い。
佐和も聞くところによると、一つの場所を限定していた訳ではなかったらしい。
秋星が関西にいた頃も他にヴァンパイアの集団は確かいなかったのもあって縄張りというものはなかった。こちらでも橘家が管轄している地域はあるものの特に縄張りはないようだ。佐和も自分が安全と思う範囲で自由にはしていたと言っていた。
自由、な。
佐和が言う自由はルールに基づいての自由だ。周りにヴァンパイアはいないと思っていた佐和ですら、人間界でのルールを把握し守っていた。
邦一がおかしそうに言ってくる。そんな様子が少し嬉しいと思う。そして邦一の匂いにふらふらとしそうだ。
血が欲しい。
だが秋星はジロリと見返した。
「苦手やない」
「でも検診、嫌だったんだろ?」
「得体のしれん機械が自分の口に入るんが嫌なだけや」
「得体の、て」
自宅へ戻ると、秋星は佐和と会っていたことを邦一に話した。案の定、それなら自分もついていったのにと怪訝そうな顔をされたが、そこは流しておく。苦笑している邦一をまたジロリと見てから「とりあえずな」と続けた。
「通常、野良は人気のないとこ狙うみたいやな」
「野良?」
「あのセンセェ、ずっと人間界のヴァンパイアは自分一人やて思ってたくらいやしな。野良ヴァンパイアや」
「……、まぁいいけど。そりゃ普通見つかりたくないだろうし人目避けるだろ」
「やけど例の野良は人家が密集するよぉなとこ襲ってるやろ」
「それだけど、水白くんたちの家って住宅街が密集してる場所と違って家はポツポツとあるみたいだよ。まぁ水白くんの家は本当に離れてるものの、他の人たちはもう少し近いようだけどな」
秋星も佐和のところから帰る途中、鳥に姿を変えて月梨の家周辺を調べていた。実際のところ霧にすらなれるが、こんなところで霧になればむしろ怪しい。とはいえ雀や鳩などだと面白味がないのであえてこの国の生態ではない鳥になっていたのは愛嬌だ。ハシボソガラパゴスフィンチといって吸血鳥として知られている。意外に博識そうな月梨に見つかれば心底呆れられていたかもしれない。ちなみに邦一だとまず鳥の違いからして分からなさそうだ。頭は悪くなくとも基本的に邦一に知識欲がなさ過ぎる。
暫く留まっていると入ることのできない家に侵入せずとも、月梨の知り合いとやらが普段からよく外泊もしていたと知った。それもあって特に騒がれていないようだ。人間は噂話が大好きだなと苦笑しながら聞いていたのだが、派手で遊び好きというよりは元々親が不在がちのため友だちの家に泊まることが多かったらしく、最近姿を見ないのもそれではないかという話だった。学校も数日前から夏休みに入っており余計ではないか、と。親は少し心配し出している感じだろうか。
自分は見てきたから知ってはいるが、と秋星は邦一をムッとした顔で見る。
「何でクニがそんなこと知ってんねん」
「水白くんに聞いた」
「あのクソ犬」
月梨も月侑太も魔界に決まった相手がいるらしい。ワーウルフは人間界の狼と同じで番を決めたら一生その相手と添い遂げる。そのため相手がいるなら何の心配もいらない。
ただワーウルフが好きじゃないのと月侑太が秋星にとって苦手過ぎるタイプだけに気にくわない。しかも学校は終わっている。恐らく秋星が好まない携帯電話でのやり取りをしたのではないだろうかと思うとなおさら腹立たしい。
邦一はといえば、秋星の物言いに呆れているようだ。
「で、人目につくから何なんだ? そいつがどこか抜けてるってことか?」
「いや、その逆かもな。あのセンセェかてそれなりの能力あるようやねん。それでもあまり好みの味を堪能出来ひんでも人目を避けてたんや。それをむしろ堂々とやってんのは自信あんねやろ」
鼻を鳴らすように言えば邦一が怪訝な顔をしてくる。
「能力ある人だからこそルールと安全のために人目避けるんだろ? 何も考えてないから住宅街でやってのけるんじゃないのか? 現にバレてるだろ」
「バレたんはあの雌わんこが鋭いからやろ。普通やったら行方不明やとは言われても魔物の仕業やなんて気づかれへんやろ。それこそ現に他では騒がれてへん。最悪騒がれても人間の仕業やて思うわな。あとな、獲物かて家にいなくても不審に思われへんタイプなんやろ」
「でも水白さんがいい子って……」
「あいつがええ子やて思おうが親や周りがどぉ見てるかは別やろ。まぁその女の場合は親がそもそもあんま家におらんからそいつも友だちのところとかよぉ泊まってたらしぃけどな」
「よく調べたな」
「その辺はまぁええやん。あとな、前に言うた思うけど、ヴァンパイアやったら招かれんとそいつの家へ入られへんねん。やのに雌わんこが言うてたやろ、部屋忍び込んだら微かやけど匂い残ってたって」
秋星の言葉に、邦一も今さらおかしいことに気づいたようだ。ハッとして秋星を見返してきた。
「知り合いってことか」
招かれないと家には入られない。最初から忍び込めるのではない。微かだろうが匂いが残っているということは、少なくとも面識がない相手ではないということだ。
「かと言うてめっちゃ親しい、友だちとかいうんでもないかもやな。それこそ迂闊過ぎる」
「確かに……。でも、それだと結局特定はしにくいってことか……」
「まぁ、速攻見つかるとは流石に俺も思ってへん。それに──」
それにそこではもう何もしない可能性も高い。
佐和も聞くところによると、一つの場所を限定していた訳ではなかったらしい。
秋星が関西にいた頃も他にヴァンパイアの集団は確かいなかったのもあって縄張りというものはなかった。こちらでも橘家が管轄している地域はあるものの特に縄張りはないようだ。佐和も自分が安全と思う範囲で自由にはしていたと言っていた。
自由、な。
佐和が言う自由はルールに基づいての自由だ。周りにヴァンパイアはいないと思っていた佐和ですら、人間界でのルールを把握し守っていた。
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