虎と豹とキリン

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打ち明けるキリン

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 朝から颯一を追いかける渉と、おもいきりドン引きして罵倒した後に逃げる颯一。そして胃を抑えつつ後に続いていった友悠を見かけて晃二はため息つく。

「馬見塚はほんとところどころアレすぎて馬鹿だし、あのまじめくんもとうとう親友に惚れるし。本当にこの学校何なんだ……。変なヤツ多過ぎだろ」
「お前も大変だなー」

 それを聞いた聡がニコニコ楽しげに言ってくる。途端晃二はとてつもなく微妙な顔を聡へ向けた。

「すげー他人事のように言ってるようだが、とりあえず言っておく。お前が言うな」
「本当に馬鹿ばかりだしな。……静かな場所がもっと欲しいものだ」

 呟くように言った蒼音にも晃二は生ぬるい目を向けた。

「お前も変わってるメンバー入りしてるんだけどな」

 だがそれに対しては蒼音は無反応で、蒼音の傍にいる悠太が「あおちゃんは変わってないよー!」などとむくれながら答えている。

「はぁ……。ったく。……あ、そうだ。氷川はこんなでも案外しっかりして大丈夫だと思うが……」

 晃二が何かを思い出したように言いかける。それを聞いた蒼音が「……こんなでも?」と静かに反応しているが無視をする。

「特に犬山。そして大いに特に田中。何か最近嫌な噂聞くからさ、お前ら知らんヤツ、いや、知ってるヤツでも変なもんほいほい貰って口にすんなよ」

 途端、聡と悠太から「大いに特にって何だよそんな言葉ねーし、それに馬鹿扱いじゃねーか!」「俺まるで躾けのなってない犬じゃんー、何でもかんでも口になんてしないよー」などギャンギャン返って来る。蒼音が「噂というのは……」と言いかけていたが既に晃二は「うるせー」と耳を塞いでいた。



 そんな晃二に目撃されていた友悠は、もう胃を抑えるしかなかった。
 どう考えても渉には自分の気持ちがバレている。盗聴されていたのは心の底からドン引きだとは言え、その心の底では同じように「ああ、やっぱり?」とも思ってはいた。

「俺が貴様に何も言わないのは貴様がそうちゃんを守ろうとしてくれているのも知ってるからだ。それだけだからな」

 そのセリフは明らかに「守ろうとしてくれているのはいいが手を出すな」という念押しにしか聞こえない。実はそれを言われる前日に颯一で抜いてしまっていた友悠は、そのまま心臓の鼓動が永久に止まるかと思った。
 もちろん最初は……いや、とりあえず原因が悪かった。いつだって無防備な颯一に、いくら友人思いの友悠であっても多少の限界はくる。
 友悠が注意したのでタンクトップではなくTシャツを着るようにはなったものの、相変わらず「ここは譲れない」と短パン姿の颯一は、眠っている間寝苦しいのか掛け布団をぐちゃぐちゃにし、体をむき出しにしていることはざらだ。おまけに薄暗い中、Tシャツがめくれあがったり細い足が布団に絡みつくようにして眠っている様子は、意識をしている男子高生には思ってた以上に目の毒だった。
 そして前日、とうとうどうしようもなくなりシャワーを浴びながら抜いた。その時の友悠はもう、狭いトイレでは思う存分抜けそうにないほど思い切り出したい勢いだった。
 ただ最初はこの間友人が貸してくれた雑誌を思い出しながら、どうしようもない自分の猛ったモノを扱いていた。だが女の子を想像していたはずなのに、いつの間にか相手は颯一になっていた。手も想像も止まるどころか余計に激しくなっていく。せまいシャワールームにうずくまり、友悠はまるでその下に颯一がいるかのように腰と手を動かした。
 颯一の体のある程度なら、想像どころか自分の目で見ている。本人は薄くて嫌だと言っているあの華奢な、だがそれなりにちょっとした筋肉もある体を抱きしめキスしたら何か反応は返ってくるだろうか。あの、男独特の小さな乳首に指や舌を這わせると、それでも硬くなってくれるだろうか。そして女の子のようなくびれはないにしてもなめらかな曲線を描いている脇腹から腰へと手をなぞらせるとどんな反応を見せてくれるだろうか。
 自分と同じものがついているだけにきっともし顔や声、そして体でわかりやすい反応を見せてくれなくても、そこはきっと硬くそして濡れてくれるかもしれない。今のこの自分のがちがちになっているモノと一緒に持って擦るとどんな気分だろうか。筋がこすれあって堪らない気がする。擦り合うだけでもきっとあり得ないほど気持ちいいだろう。
 きっと向こうも感じてくれる。あのかわいい表情をどんな風に歪め、こちらを煽ってくるだろうか。それが見られるならもう、それだけでもいい。
 でももしそのまま後ろに入れたら……どれほど颯一のそこは締めつけてくるのだろうか。

 そして……中はきっと物凄く熱くなって、……そして……そしてそれよりも何よりも、興奮したそうが「好き」だともし、もし言ってくれたら俺は……!

 その後は颯一の顔が見られなかった。どうしたのかと心配され、申し訳なく居たたまれなくてますます見られなかった。
 その日の午後に学校から戻った颯一が盗聴器を発見し、「あああああ!」などと叫び出した時は、あり得ないが自分の行為がばれたのかと生きた心地がしなかった。
 からの、渉のあのセリフだ。もしかしたらもう胃に穴が開いているのではなどと友悠は思った。

「本当につらいと思うなら本人に打ち明けるのも悪くないかもしれないぞ?」

 晃二が言っていた言葉が脳内を過る。

 ……とんでもない……。いや、もしかしたら少しは楽になるのかもしれない。

 でも、と友悠は思う。

 でもその分、そうを悩ませることになる。

 親友だと思っていた相手にそういう意味で好きだと思われていたなど知りたいわけがない。黙っていて欲しいと思うだろう。そして忘れて欲しいと。
 自分の気持ちだけ考えて颯一に嫌な思いはさせたくない。と思いつつも、自分だけこんな思いを抱えてつらい、何も知らない颯一の無防備さがつらいなどと思ってしまう。

「……人を好きになるのなんてちっとも綺麗じゃねーし楽しくない……」

 どこか自己中心になりかねない。そして色々しんどいだけでちっとも楽しくない。
 そんな風に思っていたある日、だが友悠は打ち明けざるを得なくなってしまった。

「とも! 内田に聞いたんだけどお前、部屋変わろうとか思ってたって……!」

 打ち明けた友達とは違うところから、漏れた。

「あ……」

 ベッドに座って本を読んでいた友悠が立ち上がりながらも困った表情を見せると颯一が友悠の肩をつかんできた。

「否定、しないんだな? 本当なんだな? 何で? 何でそんなこと考えんだよ? 俺……何かした? ともに嫌がられることしたんか?」

 颯一は怒っている。と同時に傷ついているのもわかった。
 それはそうだろう。親友だと思っている相手がこっそり「部屋を変わりたい」と思っているのだと知れば誰だってショックを受けるだろう。

「ご、ごめん。思った、けどでも、変わらないから……」
「変わる変わらないよりも思ったことが何でなんだよ? エアコン? 俺が暑がりだから? なあ、何で? 言ってくれなきゃわかんねえだろ? 直せるとこあるなら俺だって直すし……!」
「違う……!」

 友悠はつかみかかるかのように自分の肩をつかんで必死に聞いてくる颯一の手をはがした。そしてそのまま勢いで思わずベッドに押し倒す。

「と、も……?」
「違う、違うんだ。お前は悪くない。ああいや、ある意味悪いというか何ていうか……俺が、ちょっと耐えられなくて」
「そ、んなに俺、嫌われて……?」
「違う! その反対なんだ。違うんだ」

 そのまま友悠はキスしそうになった。強引に色々触れたくなった。だがギリッと唇を噛みしめると颯一を起こす。そして怪訝な表情を浮かべて友悠のベッドに座っている颯一をふわりと抱きしめた。

「実は……俺は…………俺は、そう、お前が……」

 ──好きなんだ──

 発したその言葉はまるで空気に溶けて響いたように感じた。
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