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キリンと豹の出会い
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ようやく外で渉の気配がなくなったものの微妙な顔のまま颯一が部屋の片づけを終える頃、部屋の鍵が開く音がした。
「っ?」
口から心臓が飛び出るような思いしつつ恐る恐るそちらを見ると、知らない生徒が入ってくるところだった。
こいつもやたらイケメンだけどここはイケメンしか入れないとかそういう……?
思ってすぐ、自分が入ってる時点で違うなと颯一は気づく。
「だ、誰?」
「え? ああ、今日だったんだ? 俺、友悠。藤田 友悠(ふじた ともひさ)。ここの部屋の住人だよ。ていうか何でそんな顔……?」
入ってきた友悠は苦笑しながら颯一を見た。
「あ。……ああ、わ、悪い。ちょっと、な」
颯一はようやくニッコリ相手を見た。その笑顔を見た友悠がハッとなったような顔をしてくる。
「……もしかしてさっそく誰かに狙われた、とか?」
「っへ? な、何、それ」
幼馴染には告られましたが、と思いつつ颯一が友悠を見ると「うーん」などと呟きながら荷物を持って中へ入ってきた。そして自分の荷物を出しながら「ほら、ここ男子高だし」と当たり前のように言ってくる。
「男子高だったら、何……?」
どういう意味?
「あー。何ていうか。君外から来たんだよね。だったらピンと来ないかー。ていうか、名前何ていうの?」
「あ、悪い。俺は颯一。込谷颯一。外から来たらわからない? ていうか君も来たとこじゃないの?」
颯一は、片づけている友悠の荷物を指差した。
「ああ、これ? いや、俺は前からこの学校にいるし寮にもいたよ。でも部屋が違ってさ。君と同室のはずだったヤツがさー、んーと、言っちゃっていいのかな」
「え、そこまで言うなら言えよ。気になるだろ」
「そうだね。じゃあ一応内緒で。君と同じ部屋だったヤツが俺の同室者と付き合うことになってさ。まあいくら付き合ってるから一緒の部屋がいいって言っても普通はそうそう変われるもんじゃないんだけどね、当たり前だよね。ただほら、君が外部生じゃない?」
「?」
話を聞くと、その相手はどうやら寮長に「自分は男が好きな上タチだから、新しく外から来る相手を襲わないためにも部屋を変えたい」などとふざけたお願いをしたらしい。その際、ここにいる友悠がノンケだからお勧めする、とも。
「い、意味、わから……な、い」
「男同士のね、その、アレなお付き合いって思ってる以上に多いんだよ……ここは。それに小学校や中学からずっと同じヤツも多いからね。高校から来る人って目新しいっていうのと、ほら、君みたいに何も知らなさそうな人が大半だから、比較的襲われやすいんだよ」
今すぐ帰りたい、お家に帰りたい。
颯一は泣きそうな気分で心の底からそう思った。
「そういう理由もあってね、今回はまあ、特別かな? 部屋変わるのって。普通はむしろ新入生襲いたくてうずうずするタイプが多いだろうからいちいちそんな申請しないだろうし……ってあ、ごめん。入学前から嫌な話したね」
「……いや、まあ、先に知れて、その、よかった、よ……」
「外部生が皆その対象になる訳じゃないんだけどね。どう見ても興味なさそうなタイプやまあその、タチ系のタイプなら大抵はスルーしてもらえるだろうし」
「さっきからよくよからないんだけどさ、そのタチって何? 強そうとかそういう意味?」
「ああ。……えっとまあ、男女で言うところの男役、かな。ネコが女役で……」
聞いた俺がバカでした。
颯一はますます泣きそうな気分になる。
ここ、おかしい。
「込谷くんはさ、寮に来るまでに何もなかった?」
「え?な、何で?」
「んー。さっきも言ったようにさ、タチ系の人とか明らかに興味なさそうとかさ、そういう人なら問題ないんだけど、込谷くんって狙われやすそうで」
俺も興味ねぇよ……!
心の中で叫ぶ。だが声にはならず顔を青ざめ口をパクパクするしかできなかった。少ししてようやく絞り出すように言った。
「な……んで? お、俺、男同士とか、無理だし……! それに、見た目ってんなら、その、た、例えばふ、藤田くんみたいにイケメンなら、わ、かるけど、俺、ふ、普通、だし……! い、至って平凡な、や、ヤツだ、けど……!」
すると友悠が苦笑した。
「ああ……。うーん、俺みたいなタイプはどっちかというとタチに見られるみたいだね。君はまあ、その、確かにカッコいいとかはうん、違うけど……。普通っていうか、その例えば笑ったりした顔とかさ、けっこう、ね……?」
けっこう、何……!
颯一は飛び退るようにして壁にへばりついた。自分の顔云々は自分が一番よく知っているつもりだ。至って、普通。でも確かにムカつくことに過去にも「かわいい」と言われたことはある。それはこちらからすればバカにされているような気分にしかならなかった。
でも……こういうアレな人らにとっては違う意味合いを持つんだとしたら……?
おまけに目の前の相手は「タチ」に見られるらしい。颯一が青くなってガタガタ壁にへばりついていると、友悠がまた苦笑してきた。
「え、ちょっと。あの、大丈夫だって! 俺、さっきも言ったようにノンケだから。ああえっと、男に興味ないから。女がいいから……!」
「ほ、ほんと……?」
「うん。だから戻っておいでよ」
ニッコリ友悠に言われ、颯一はようやく安心した。
「よかった……」
友悠の傍に戻り、力が抜けたような笑みを見せる。すると友悠が「あーほんと危ないだろうね……」などと呟いている。
「え?」
「あ、いや。でもまあ寮に来るまで何もなくてよかったよ」
「ああ……えっと、幼馴染がここにいて……そいつが迎えに来て……」
「なるほどね。よかった、そういう知り合いがいて」
渉はだからわざわざ迎えに来てくれたのだろうかと、颯一は思った。門で待たされたことに少々憤慨したが、実際友悠の話を聞いていると渉がいたから無事だったのかもしれないとも思える。
……とは言え、その渉自身がこちらを襲いかけたけどな!
ハッとなってまた思い出す。
「どうか、した?」
「へ? ああ、いや! とりあえず藤田くんがここへ来てくれてよかった、マジサンキューな! よければここのこととか色々教えてくれる?」
「うん。これからよろしく。あと俺、名前で呼ばれること多いし、嫌じゃなければ名前で呼んでくれたら」
「うん。えっと、トモ、でいい? 俺はそーいちとか、そう……とか」
「トモでいいよ。俺もじゃあソウって呼ぶし」
「おう! よろしくな」
颯一はニッコリ笑った。この学校が思った以上に恐ろしげなところだと知ったが、とりあえずまともなルームメイトでよかったし、そいつと友だちになれてよかったと胸をなでおろしていた。
「っ?」
口から心臓が飛び出るような思いしつつ恐る恐るそちらを見ると、知らない生徒が入ってくるところだった。
こいつもやたらイケメンだけどここはイケメンしか入れないとかそういう……?
思ってすぐ、自分が入ってる時点で違うなと颯一は気づく。
「だ、誰?」
「え? ああ、今日だったんだ? 俺、友悠。藤田 友悠(ふじた ともひさ)。ここの部屋の住人だよ。ていうか何でそんな顔……?」
入ってきた友悠は苦笑しながら颯一を見た。
「あ。……ああ、わ、悪い。ちょっと、な」
颯一はようやくニッコリ相手を見た。その笑顔を見た友悠がハッとなったような顔をしてくる。
「……もしかしてさっそく誰かに狙われた、とか?」
「っへ? な、何、それ」
幼馴染には告られましたが、と思いつつ颯一が友悠を見ると「うーん」などと呟きながら荷物を持って中へ入ってきた。そして自分の荷物を出しながら「ほら、ここ男子高だし」と当たり前のように言ってくる。
「男子高だったら、何……?」
どういう意味?
「あー。何ていうか。君外から来たんだよね。だったらピンと来ないかー。ていうか、名前何ていうの?」
「あ、悪い。俺は颯一。込谷颯一。外から来たらわからない? ていうか君も来たとこじゃないの?」
颯一は、片づけている友悠の荷物を指差した。
「ああ、これ? いや、俺は前からこの学校にいるし寮にもいたよ。でも部屋が違ってさ。君と同室のはずだったヤツがさー、んーと、言っちゃっていいのかな」
「え、そこまで言うなら言えよ。気になるだろ」
「そうだね。じゃあ一応内緒で。君と同じ部屋だったヤツが俺の同室者と付き合うことになってさ。まあいくら付き合ってるから一緒の部屋がいいって言っても普通はそうそう変われるもんじゃないんだけどね、当たり前だよね。ただほら、君が外部生じゃない?」
「?」
話を聞くと、その相手はどうやら寮長に「自分は男が好きな上タチだから、新しく外から来る相手を襲わないためにも部屋を変えたい」などとふざけたお願いをしたらしい。その際、ここにいる友悠がノンケだからお勧めする、とも。
「い、意味、わから……な、い」
「男同士のね、その、アレなお付き合いって思ってる以上に多いんだよ……ここは。それに小学校や中学からずっと同じヤツも多いからね。高校から来る人って目新しいっていうのと、ほら、君みたいに何も知らなさそうな人が大半だから、比較的襲われやすいんだよ」
今すぐ帰りたい、お家に帰りたい。
颯一は泣きそうな気分で心の底からそう思った。
「そういう理由もあってね、今回はまあ、特別かな? 部屋変わるのって。普通はむしろ新入生襲いたくてうずうずするタイプが多いだろうからいちいちそんな申請しないだろうし……ってあ、ごめん。入学前から嫌な話したね」
「……いや、まあ、先に知れて、その、よかった、よ……」
「外部生が皆その対象になる訳じゃないんだけどね。どう見ても興味なさそうなタイプやまあその、タチ系のタイプなら大抵はスルーしてもらえるだろうし」
「さっきからよくよからないんだけどさ、そのタチって何? 強そうとかそういう意味?」
「ああ。……えっとまあ、男女で言うところの男役、かな。ネコが女役で……」
聞いた俺がバカでした。
颯一はますます泣きそうな気分になる。
ここ、おかしい。
「込谷くんはさ、寮に来るまでに何もなかった?」
「え?な、何で?」
「んー。さっきも言ったようにさ、タチ系の人とか明らかに興味なさそうとかさ、そういう人なら問題ないんだけど、込谷くんって狙われやすそうで」
俺も興味ねぇよ……!
心の中で叫ぶ。だが声にはならず顔を青ざめ口をパクパクするしかできなかった。少ししてようやく絞り出すように言った。
「な……んで? お、俺、男同士とか、無理だし……! それに、見た目ってんなら、その、た、例えばふ、藤田くんみたいにイケメンなら、わ、かるけど、俺、ふ、普通、だし……! い、至って平凡な、や、ヤツだ、けど……!」
すると友悠が苦笑した。
「ああ……。うーん、俺みたいなタイプはどっちかというとタチに見られるみたいだね。君はまあ、その、確かにカッコいいとかはうん、違うけど……。普通っていうか、その例えば笑ったりした顔とかさ、けっこう、ね……?」
けっこう、何……!
颯一は飛び退るようにして壁にへばりついた。自分の顔云々は自分が一番よく知っているつもりだ。至って、普通。でも確かにムカつくことに過去にも「かわいい」と言われたことはある。それはこちらからすればバカにされているような気分にしかならなかった。
でも……こういうアレな人らにとっては違う意味合いを持つんだとしたら……?
おまけに目の前の相手は「タチ」に見られるらしい。颯一が青くなってガタガタ壁にへばりついていると、友悠がまた苦笑してきた。
「え、ちょっと。あの、大丈夫だって! 俺、さっきも言ったようにノンケだから。ああえっと、男に興味ないから。女がいいから……!」
「ほ、ほんと……?」
「うん。だから戻っておいでよ」
ニッコリ友悠に言われ、颯一はようやく安心した。
「よかった……」
友悠の傍に戻り、力が抜けたような笑みを見せる。すると友悠が「あーほんと危ないだろうね……」などと呟いている。
「え?」
「あ、いや。でもまあ寮に来るまで何もなくてよかったよ」
「ああ……えっと、幼馴染がここにいて……そいつが迎えに来て……」
「なるほどね。よかった、そういう知り合いがいて」
渉はだからわざわざ迎えに来てくれたのだろうかと、颯一は思った。門で待たされたことに少々憤慨したが、実際友悠の話を聞いていると渉がいたから無事だったのかもしれないとも思える。
……とは言え、その渉自身がこちらを襲いかけたけどな!
ハッとなってまた思い出す。
「どうか、した?」
「へ? ああ、いや! とりあえず藤田くんがここへ来てくれてよかった、マジサンキューな! よければここのこととか色々教えてくれる?」
「うん。これからよろしく。あと俺、名前で呼ばれること多いし、嫌じゃなければ名前で呼んでくれたら」
「うん。えっと、トモ、でいい? 俺はそーいちとか、そう……とか」
「トモでいいよ。俺もじゃあソウって呼ぶし」
「おう! よろしくな」
颯一はニッコリ笑った。この学校が思った以上に恐ろしげなところだと知ったが、とりあえずまともなルームメイトでよかったし、そいつと友だちになれてよかったと胸をなでおろしていた。
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